入学、そして魔法戦
「ノイターと別のクラスになっちゃったぁ...」
「そんなに泣くことじゃないだろ...」
クラスは俺が1組でシィ姉が2組になってしまった。
そんなに泣くほどのことでも無いと思うんだけどなぁ。
「ほら、もうすぐ先生来るから教室に行って」
「帰りは一緒だからね?はやく終わったら待っててね」
「はいはい」
そう言って俺達はそれぞれの教室に入っていった。
教室の扉を開けるとほぼ全員席についていた、その中で何人かは前から仲が良かったのか雑談をしている。それでも大半は自分の席で本を読んでいるか机の上に置いているプリントを見ている。
自分の席を見つけ席に着くと同時に教師が入ってきた。
「このクラスの担任のリグエル・フォークロアだ。とりあえず端から自己紹介してくれ」
自己紹介か...正直めんどくさいな...。
別に何も話すことなんか無いんだよな...。
そんなことを考えているとどんどん自分の番が近づいている。
「次、ノイター」
まあ、なんでもいいか。
「ステニアから来ました、ノイター・フォーデルです。趣味は特にはありません」
こんなのでいいだろ。
「ああ、そういえばこいつが新入生代表の挨拶をしたシィナと入試結果同率1位だから」
先生の発言でクラス中がざわめく。
何余計なこと言ってんだよこの教師は...。
「静かにしろ、はい次」
言わなくていいこと言いやがってどうせホームルーム終わったらあれこれ聞かれるんだろうなぁ。
その後もスムーズに自己紹介は終わり、軽く学院について説明を受けてこの日のホームルームは終わった。終わったと同時に逃げるように教室を飛び出した俺はとりあえず校門でシィ姉を待つことにした。
暫く待っているとシィ姉が昇降口から走ってくるのが見えた。
「ごめんね、遅くなっちゃって。入試の事で質問されちゃってさ」
「やっぱりね、俺はそれが嫌だから走って来てシィ姉見えるまで隠れてたんだ」
普通に立ってたら絶対人が来るからね。
「それじゃあ明日は朝から大変だね」
「明日のことは明日考えるさ。ほら帰ろ」
はやく帰らないと人が来るかもしれないからな。
できる限り学院の生徒に会わないようにして帰ると家に着いたのはお昼を過ぎてからだった。
「はぁ、やっと着いた」
「普通に帰ればお昼前に帰れたのにね」
「それで質問攻めにあったらもっと遅くなってたかもしれないだろ」
そんな話をしながらお昼ご飯を食べ、それぞれの時間を過ごし明日の事を考えながら眠りに落ちた。
「────なさい、起きなさい」
微かに聞き覚えのある声で目が覚めた。
「誰だ?」
「忘れてしまったのですか?」
どこか見覚えのあるような気がするんだが思い出せない...。
「私はユニです」
「ユニ...ユニ...あ!?お前あの時の!」
「ようやく思い出しましたか」
そうだこいつは神の御使いで俺のことをこの世界に転生させたやつだ。
それに、気づけば体が転生する前の体になっている。
「それで、何のようだ?それに何故お前がここにいる?」
「今回は神からの言伝です。転生者には不幸になって欲しくないようですので」
不幸になる?どういう事だ?
「神の予知によるとこれから1週間以内にあなたの姉であるシィナ・フォーデルが学院の生徒3人程に絡まれてしまうそうなのですが、それを見たあなたがその3人を半殺しにして捕まるそうですので極力冷静に行動してください」
は?何を言ってるんだこいつは。つかなんでそんなことが分かるんだよ...。
そんなことを考えていると突如視界が揺らいだ。
「なんだ...これ...」
「話は以上です体に戻りなさい」
体に戻る?ほんとになんなんだこいつは...。
「忠告は守ってくださいね」
その言葉を最後に俺は意識を失った。
気持ち悪さで目が覚めた、外を見ればまだ薄暗い。
あの夢は何だったのか、そもそも夢だったのかは分からないが注意だけはしておこう。
その後は特に問題はなく3日が過ぎた。
あの夢から4日目の朝。
「おはよ...ってあれ?シィ姉は?」
「ああ、シィナなら用事があるとかで先に行ったぞ」
まずいな...嫌な予感がする。
「俺ももう行く!」
「おい!朝ごはんは!?」
「いらない!」
そう言って俺は家を飛び出した。
何もなければそれでいいんだけどな...。
学院の前まで来たら嫌な予感が的中した。
シィ姉が3人の男に絡まれていた。
ただ話をしてるだけということを願ってバレない位置まで近づいて話を聞いた。
「おい、入試1位でクラスの連中からちやほやされてるからってあんま調子乗んなよ」
「別に調子になんて乗ってません。用事があるので通してください」
「そういう所が調子乗ってるって言ってんだよ」
「いいよな、才能あるやつは。学院でも優遇されるんだろ?」
「そんなことは無いですよ。ほかの生徒と同様の扱いをされています」
「まあいいや、ちょっとツラ貸せや」
これは穏やかな会話じゃないな。
あいつが言ってたのはこの事か...確かに予知のことを聞いてなければあいつら全員半殺しにしてたな...。
そんなことを考えてるうちにシィ姉が路地裏に連れていかれた。
「仕方ないからこっちが捕まらない程度にやりますか...」
〜路地裏〜
「お前むかつくし1回痛い目にあわないとな...」
「じゃあまずはお前から痛い目にあってもらおうか」
そう言って後ろから思いっきり肩を掴んだ。
「ぐっ...!こいついつから!?」
「ノイター!?なんでここに!?」
「嫌な予感したから追いかけてきた」
「ノイター...こいつ!?入試同率1位のやつだ!」
「2対3なら確実にこっちが勝つけどどうする?」
「クソッ!覚えてろよ!」
そんなことを言いながら男達はそそくさと帰っていった。
あれは絶対にまた絡んでくるやつだ...。
「ありがとう、ノイターが来てくれて嬉しかった」
「お礼なんかいいよ、家族を助けるのは当たり前のことだし。ほら、用事あるんでしょ?はやく学院行かないと間に合わないんじゃない?」
「あ、ほんとだ。ごめんね、先に行くね。お昼休みはそっちに行くからー!」
シィ姉は手を振りながら走っていった。
「はぁ...あの3人にはきっちり言い聞かせておかないとな...」
そう言って男達が行った方に歩を進めた。
「クソッ!あいつら調子に乗りやがって!」
「狙うんだったら2人が別々になった時だぞ。2人一緒の時は恐らく勝てない...」
見つけた、とりあえず痛い目にあってもらおうかな。
「よぉ、誰を狙うって?」
男達はこちら見て唖然としている。
そして1人が口を開いた。
「てめぇ何の用だ」
「ん?お前らがこれ以上関わって来ないように痛い目にあってもらおうと思ってね」
「調子乗りやがって!」
3人のうちの1人が殴りかかってきた。
「『炎よ集え・鎖となりて・捕縛せよ』フレイムチェイン」
そう唱えると炎の鎖が現れ3人を捕らえた。
「なんだこの魔法は!?」
「中位下級魔法フレイムチェイン、炎を鎖として敵を捕縛する魔法だ。さて、話をしようか?」
後のことは想像通り、3人でも勝てないことを教えて今後一切関わらないことを誓わせて誓いを破れば殺すと脅しただけ。
「殺すは言い過ぎたかな...?まあいいや、学院に戻りますかね」
学院に着いたのは始業直前になってしまったが遅刻にはならなかった。
「朝はありがとうね」
「別にいいよ、家族を助けるのは当たり前のことだし」
改まって言われると少し恥ずかしいな...。
「もう絡んでこなければいいんだけどなー」
「多分もう来ないと思うよ」
俺が脅しておいたから...とは言わない。
「そう?ノイターが言うならもう来ないかもね」
「なんだそれ。あ、もう時間だ午後の授業始まるよ」
雑談しながら昼食を食べていると時間がはやく感じるな。
「ほんとだじゃあまた放課後にね」
「はいよ」
確か午後は魔法の説明と実技だったかな?今更説明なんか要らないんだけどなぁ。
「────きろ、起きろノイター」
「ふぁ...寝てました?」
「ああ、熟睡していたな」
これはあれだな、朝から中位魔法なんか使ったからだな。
「呑気に寝ていられるとは余程余裕があるようだな。確か君の魔法適性は炎だったな?」
「そうですけど...」
「それほど余裕があるのなら短縮詠唱位は出来るのだろ?本来なら減点だがこれが出来たのなら減点は無しにしてやろう」
うーわめんどくさい事になったなぁ...まあいいか。
「分かりました、何か的を用意してください」
「的は外のあの木だ、魔法はそうだな...フレアバレットだ」
フレアバレットか...これなら行けるな。
「どう短縮してもいいんですか?」
「ああ、出来るならな」
「それじゃ」
俺が的に向けて指を鳴らすと淡く光る文字が宙に浮かびフレアバレットが発動した。
「これでいいですか?」
「無詠唱...だと?」
俺の魔法の無詠唱発動に対して俺以外の全員が唖然としている。
「これで減点は無しにしてくれるんですよね?」
「あ、ああ。授業の続きをする席に戻りたまえ」
あーあやっちまった...これは後で質問攻めだな...。
俺の予想通りに休憩時間になるとクラスのやつが一斉に集まってきた。
「なんで無詠唱で魔法使えるの!?」
「フレアバレットはまだ習ってないはずなのになんで使えるの!?」
周りが騒ぎ出す。
やばい、まじでめんどくさい...。
「あーフレアバレットは親に教えて貰って無詠唱は魔力制御をひたすら練習し続けたらできるようになった」
「他にはどんな魔法が使えるの!?」
こいつらはいちいち叫ばないと質問できないのか...中位魔法まで使えるけど面倒だし誤魔化すか...。
「まだフレアバレットまでしか使えないよ。ほら実技の授業が始まるから練習場に行くよ」
実技の授業が始まってからも生徒から期待の眼差しで見られていたが正直これ以上目立ちたく無かったため魔法も普通に詠唱して発動していた。
「あー疲れた...。調子乗ってあんなことするんじゃなかったな...」
あの後も帰るまで質問され続けていた。
「何やったの?」
「授業中に寝てたら先生に怒られて授業内容がちゃんと出来てるなら許すって言われたからムカついて無詠唱でフレアバレット使ったらクラスの奴ら全員から質問攻めにあった...」
俺は今日のことをそのまま話した。
「明日から教えてって言われるんじゃない?」
「いや教えてって言われてもまずはひたすら魔力制御の鍛錬をするしかないんだけどなぁ...」
そう俺がやったのは魔力制御の応用だ。
魔力制御を練習して魔力を自在に操れるようにした上で自分の属性の魔力に変換し空中に瞬間的に呪文を書いて魔法を発動させた、つまり魔力制御を練習すれば誰でも使えるという事だ。
「でもそんなこと考えてできるようになるのなんてノイターくらいだよ」
「シィ姉だって出来るじゃん」
「できるって言ってもまだ下位下級魔法だけね」
一応シィ姉にも教えてはいるがどうにも上手く行かないらしい。
「またしばらく練習して新しく色々できるようにしないとなぁ」
「あんまり目立つ様なことしないでよね」
そんな毎日を過ぎていき年に2回しかない学年別魔法戦の日がやってきた。
魔法戦とは学年別になってトーナメント方式で学年最強を決める現代で言う中間試験の様なものだ。
「さて、1番狙って頑張りますか!」
「何言ってんの?1番は私が貰うから!」
「いくらシィ姉でもここは譲れないな...!」
「お互い決勝まで頑張りましょう...!」
そう言って俺達の魔法戦が始まった。
〜第1ブロック準決勝〜
「ほれっ」
俺は指を鳴らし無詠唱で魔法を使う。
「うわっ!」
やばい...全員弱すぎる...流石にここまで弱いのは予想外だった...。
「ノイター強すぎだろ...勝てるわけねぇよあんなの...」
ヒソヒソ話しても聞こえてるからな...。
「別ブロックのシィナもノイターと同じで無詠唱で魔法使ってたってよ...」
あーやっぱり...シィ姉との試合は少し派手に行くか...。
確かシィ姉の試合はこの後すぐだったな、ここで見とくか。
〜第2ブロック準決勝〜
「ルールは今までと同じ魔法は下位魔法のみ体術は怪我をさせない程度まで審判が続行不可と判断した場合も負けとなる。それでは準決勝、シィナ・フォーデル対ミリア・レイフォードの試合を開始する!両者前に!」
ミリア・レイフォード...聞いたこと無いな...。
「お手柔らかにお願いします!」
「悪いけど勝たせてもらうよ!」
「開始ッ!」
開始の合図と同時にシィ姉は無詠唱でウィンドボールを放つ...が、
「そんな魔法じゃ当たりませんよ!」
ミリアは最低限の動きで躱し瞬時に間合いを詰めた。
「はやっ...!」
「貰いました!」
そのまま綺麗にシィ姉に背負い投げを決めた。
「そこまで!ミリア・レイフォードの勝利!」
まさかシィナが負けるなんてな...これは油断できないな。
「いやー油断した!無詠唱で使えるからって侮ってたよ!」
「ま、これで俺の方が強いって事が決まったな」
「何言ってんの?ミリアちゃんに勝てなきゃ私と同じだからね」
「大丈夫、勝てるから」
そう、今日のために秘策を練ってきたのだから。
〜決勝戦〜
「これより決勝戦を開始するルールは...もう分かるな?」
「このまま勝たせて頂きます!」
「俺はシィ姉みたいに甘くないからね」
「開始ッ!」
先手必勝!
「多重展開!フレアバレット!」
そうこれが秘策その1多重展開。その名の通り魔法陣を1度撃っても消えないように調整し同時に複数展開し魔力を流せば魔法が発動するようになっている。
「ッ!これなら!」
これを突破されることは読んでいた...本番はここからだ...!
「そっちが接近戦ならこっちも接近戦だ!バースト!」
俺がそう叫ぶと足の裏と手の甲に魔法陣が浮かび上がる、直後俺の足の裏で小さな爆発が起こり体が宙に浮く。
「なっ!」
「よし!成功だ!」
この魔法は魔法陣から下位魔法のボムを発動し、無理やり移動する魔法だ。移動速度が上がるというよりも三次元的な動きができるようになる。
「よっ!ほっ!」
「くっ!すばしっこい!でも...そこっ!」
それも読んでいる...!タイミングを合わせて避けづらい所で...。
「多重展開!フレアバレット!」
「きゃあああああ!」
「そこまで!優勝、ノイター・フォーデル!」
直後、歓声が沸き上がる。
「大丈夫?」
「はい、怪我はありません。とても有意義な時間をありがとうございました」
「そうだね、俺も楽しかったよ」
まさかここまで強い子がいるとはな...そういえば...。
「ミリアはなんで魔法を使わなかったの?」
「魔法の詠唱は隙が出来てしまうので無詠唱で魔法を使う人相手に詠唱していたら勝てるかもしれないものも勝てなくなってしまいますから」
そういう事か...それは一理あるな...。
「魔力制御は結構できる?」
「?まあ人よりも出来ている自信はありますね、それが何か?」
この子なら...。
「それなら無詠唱での魔法発動を教えてあげようか?」
「いいんですか!?」
「いいよ、教えてあげる」
無詠唱で魔法が使えるようになればこの子はまだまだ強くなる。
「それではよろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
「なーんか仲間はずれにされてるみたい」
こうして俺達の魔法の修行が始まった。
やっと書き終わりました...ほんとは1年目全部書こうと思ったんですがやっぱり分けることにしました。
そして新キャラです!一人目は担任のリグエル・フォークロア先生です、まあまだ物語に関係するかは決めてないんですけどね。二人目はミリア・レイフォードちゃんです!この子はこれから先ずっと一緒に行きたいですね予定ではレギュラーです。設定とかは1年目を全部書き終わったら纏めますね、次回をお楽しみに!