最終魔法戦と魔族の計画
「学年末魔法戦は2日に分けて行う!1日目は前回と同じようにトーナメントによる個人戦、そこから1週間後に学院側が決めたチームによる森での対魔獣訓練を行う!これまで授業で習ったことを存分に活用してくれ。そして学院側が評価し得点を出した結果一定の得点に満たない場合は進級することは出来ないことを覚えておけ!以上!」
先生の説明が終わり生徒達はそれぞれの教室へ戻っていった。
その後は担任から細かい説明を受けてその日の授業は終わりを告げた、そしていつも通りに俺とシィ姉とミリアの3人で魔法練習場に来ている。
「個人戦は3日後からだってね、どっちと同じブロックになるか気になるなー」
「俺はどっちでも良いけどね」
「私もどちらでも」
「でもやっぱりミリアちゃんと同じブロックがいいな、前のリベンジがしたいし」
「もし同じブロックでもまた私が勝ちますよ」
「次は油断しないからね!」
そんな雑談を交わしながら練習をして、魔法戦の当日になった。
組み合わせは前回と変わらず俺が第1ブロック、シィ姉とミリアが第2ブロックだ。
「今回は勝つからね!」
「いいえ、今回も勝たせて貰います!」
「「ノイターにも負けない(ません)から!」」
「はいはい、頑張れよ」
そんなこんなで個人戦が始まった。
俺は相手を無詠唱魔法であしらい決勝まで進んだ、第2ブロックを見るとシィ姉もミリアも順調に勝ち進んでいる。
そして第2ブロック準決勝、予定通りシィ姉対ミリアの戦い。
正直どちらが勝ってもおかしくない、ただトライコントロールがある分シィ姉の方が有利な気がする。
「ルールはこれまでと同じだ、存分に戦ってくれ。用意はいいな?...試合開始!」
「先手必勝!トライコントロール!」
トライコントロールで空中に道を作りその上を走りながらウインドアローを乱射している。
が、それを見切り華麗に避けるミリア。
やはりどうなるか分からないな...。
「このままでは埒が明かないので今度はこちらから行かせて貰います!『走れ雷撃』ラッシュスパーク!」
瞬間、視界を奪われた。何が起きたか理解出来ない内に視界が戻る、そこにはシィ姉が倒れていた。
「そ、そこまで!勝者、ミリア・レイフォード!」
まさか隠れて練習してたとは...。
「いてて...あれ!?終わり!?また負けたー!」
「ふふふ、新技が綺麗に決まりましたね。さあノイター!決着をつける時です!」
「今回も勝ちは譲らないからな」
今回も秘策を用意したからな...それにさっきの技なら防げそうだしな。
「ルールは同じだ、準備はいいな?決勝戦、開始!」
「先手必勝!『走れ雷撃』ラッシュスパーク!」
開始とほぼ同時に広範囲攻撃を仕掛けてきた。
威力も高く範囲も広い、普通ならこれで試合は終了だ。
誰もがそう思っていた。
しかし閃光が収まり視界が開けるとそこには鎧が立っていた。
「効いてない!?中位上級レベルの雷撃ですよ!?」
「これが今回の秘策、フレイムチェインの自己応用魔法!名付けて『フレイムチェインアーマー』!」
この魔法はただフレイムチェインを発動させてそれを細く分解し体に纏うだけ。
フレイムチェインが使えて魔力制御能力さえあれば誰でも出来ることだ。
「さあどんどん来い!」
そこから1時間が経過したが俺にダメージは無い。
しかしミリアは1時間の間ずっと攻撃していたため魔力も体力も底をつきかけている。
「ミリア・レイフォード、まだ続けるか?」
「ハァ...ハァ...いえ、私の負けです」
勝負が決したが会場は盛り上がらない。それはそうだ、ミリアが何をしても俺の守りを崩せないまま1時間が経過したのだから。
「次はその鎧を突破して見せます!」
「まあ、次は頑張れよ」
これで個人戦は終了、後は1週間後の対魔獣訓練で試験は終了だ。
まあチーム分けは予想出来てるけどな。
個人戦が終わったばかりの理事長室に一つの噂が流れてきた。
「何やら魔族の動きが活発になっているようですが...チーム戦はどうしましょうか...」
「ふむ...チーム戦は予定通りに行う、チーム戦を行うエリアには予定よりも多めに教員を配置していつでも対処できるようにしておけ」
「了解しました、そのように手配しておきます」
そんなことなど知らない者はいつもの日常を過ごしていく。
日は流れチーム戦前日、今日はチーム発表のため全校生徒が講堂に集められている。
「それではチームを発表する、自分のチームメンバーを確認したのなら連携を取れるようにお互いのことを把握しておけ」
言い終わると同時にチームの書かれたボードが公開された。
予想通り俺のチームメンバーはミリアとシィ姉だった。
「3人一緒になったね!」
「はい!頑張りましょう!」
「まあ俺たち3人なら今更お互いのことを把握する必要も無いな」
その後は魔法練習場で基礎の確認をして解散した。
チーム戦の集合場所であるクレイアの森には既に人が集まっていて、誰もが緊張を隠せないでいた。
先生が前に出るとざわついていた生徒達も一斉に先生の方を向く。
「君たちには今からヒートウルフの爪、フロストバットの牙、ウインドラビットを1匹取ってきてもらう。チームで1つ取れば大丈夫だ。他チームの妨害行為は禁止、横取りも禁止だ。森の中は先生達が巡回している、不正をした場合はそのチーム全員が失格となるため不正はしないように。期限は日没までだ。それでは、試験を開始する!」
ウインドラビットか...意外とめんどくさいな...。
「どうしますか?」
「俺達は奥の方へ行こう、みんなが奥まで行けるわけじゃないから奥まで行けるなら奥で取ろう」
「そうですね」
「異議なーし」
そう言って俺達のチームは森の奥に向かった。
それを見下ろす男が1人。
「おー!アイツの言ってた通りだ、これならアレが試せるな。さっそく準備に取り掛かるか!」
直後、男はその場から跡形もなく消え去った。
ノイター達は指定された範囲の最奥に来ていた。
「ミリア!そっち行った!」
「そこです!エレキニードル!」
ミリアの放った魔法がウインドラビットを貫いた。
「これで終わりかな?」
「ヒートウルフの爪、フロストバットの牙、ウインドラビットが1匹だね!」
「では戻りましょう」
ノイター達が森の入り口に向かっているとこちらに生徒が走ってくる、腕から血を流しながら。
「どうした?何があった?」
「お前らも早く逃げろ!アイツには勝てない!」
この森にそんなに強いやつがいたか?
「アイツってなんだ?」
「分からない...あんな奴見たことねぇ」
見たことない魔獣か...。
「お前は先生方にこのことを伝えろ、俺達は他のやつにこのことを伝えて避難させる」
「わかった、気を付けろよ」
その生徒と別れた俺達は避難を呼び掛けるため森の中を走り回っている。
「これで終わりか?」
「恐らくは...」
「できる限りの事はした、俺達も逃──」
体が何かに弾かれた。
気配も感じなかった、姿も見えなかった。
だが何かに弾かれて森の中を転がった。
「おやおやぁ?まだ残ってるやつがいたのかぁ」
気の上から男が話しかけてくる。
「もうデータは取ったから帰るだけなんだけどコイツ止めるのも面倒だし、まあいいか...喰い散らせ、グレアビースト!」
弾かれた方を見ると景色が揺らめいている。
確実に何かがいる。
「シィ姉!正面に色つけて!」
「え?あ、うん!カラーリングウォーター!」
シィ姉の魔法でペンキの様なものをかけられて姿が浮かび上がる。
それはまるで獅子のような姿をしていた。
「シィ姉!ミリア!全力で逃げろ!今の俺達じゃ絶対に勝てない!」
「分かりました!」
「了解!森の入り口で!」
俺達はバラバラになって走り出した。
「コイツも落ち着かないだろうから1人くらい殺させないとなぁ。1番冷静そうなあの男にするか。あの男を殺せ」
男の命令で獅子の魔獣が俺のことを追ってくる。
「いつまで追ってくるんだよ!」
俺は下級魔法ボムによる移動で立体的に動きながら逃げ回っている。
だが魔力もいつかは切れる、はやく振り切らなければならない。
魔獣が前足を振りかぶる。
瞬間、前足が揺らめいた。
リーチを見極めることが出来ずに前足が直撃する。
体が動かない...また俺は死ぬのか...。
「───呼ばれたから来てみれば、なんでこんなのがこんな所にいるんだ?」
誰だ?
「大丈夫、今助けてやる」
助けが来たのか。
「知性があるようだから聞いておくことにしよう、君は花が好きかな?」
魔獣は何も反応しない。
「無視ね...まあ花が好きだろうとうちの妹を怖がらせたんだ、それだけで君を殺す理由には充分だ」
言い終わると同時に周囲に蔓のようなものが出現し、そこに蕾がついた。
「死に際は花で飾って上げよう」
その蕾が開花すると同時に魔獣の体の至るところが弾けた。
三十秒程続いた爆発が終わると魔獣は肉片すらまともに残ってはいなかった。
「さあ、戻って治療しよう」
その人に連れられ森の入り口に戻ってきた。
治療が終わり休んでいるとシィ姉とミリアが走ってきた。
「ノイター!大丈夫!?」
「まあね、腕が折れてたから暫くは安静にしてろってさ」
「良かったです、入り口に戻ってもノイターが来ていないと聞いたので...」
「魔獣がずっと追ってきててなかなか振り切れなくて」
「ほんとに...生きてて良かった...」
「ごめん...心配かけて」
シィ姉とミリアと雑談していると助けてくれた人がやって来た。
「落ち着いてたところ悪いんだけど少しいいかな?」
「大丈──」
「お兄ちゃん!?」
お兄ちゃん?
「おお!ミリアじゃないか!怪我はない?」
「なんでこんな所にいるの!?国の仕事で遠くに行ってるんじゃなかったの!?」
「少し前に帰ってきたんだけど学院から緊急の依頼が来てね、見たことない魔獣がでたってね」
最初に戻った生徒が先生に報告した結果ギルドに依頼を出したらしい。
「そんなことよりまずは自己紹介だね、僕はシリウス・レイフォード。国家魔法使いをやってるよ」
国家魔法使いのシリウス・レイフォード...?
「国家魔法使いのシリウス・レイフォードって言ったらこの国で最強と言われる『華の雷帝』じゃないか!」
「まあそうだね、でも今はそんなことよりもあの魔獣について教えて欲しい。何か特徴は無かった?」
特徴...逃げるのに必死で特に見てなかったな...。
「あ...たしか最後に攻撃を受ける時魔獣の前足が揺らめいた感じになってたと思います」
「出会ったときは姿なんかほとんど見えなかったしね」
そうだ、景色が揺らめいてたからシィ姉にカラーリングウォーターを使ってもらったんだ。
「姿が見えない...揺らめいている...決まりだな、あれは魔族の作り出したキメラだ、魔族の作り出したキメラは決まって特殊な能力を持っているからね。あれについては後で国から説明があるだろう。済まないが今すぐに国に報告してこなければならない、また機会があれば会えるだろう。失礼するよ」
そう言ってシリウスは帰ってしまった。
魔獣事件から1週間がたった。
治癒魔法のお陰で腕が完治し、今日は試験の結果発表の日だ。
何でも魔獣発生の報告が来た時点でほとんどの生徒が試験を終わらせていたため、そのまま得点を出すことになったらしい。
俺達のチームのアイテムはシィ姉が落とさずに持っていたようで一応課題は終わらせたことになった。
「試験採点の結果、今年は全員合格だ。新学期早々にテストがあるからこれから一ヶ月の休みはあまりだらけるなよ。以上、解散」
「ノイター、帰ろ」
「ああ、帰ろうか」
無事に一年が終わりもうすぐ二年目が始まろうとしている。
次はどんな事が起こるのかと楽しみにしながら俺達は帰路へとついたのだった。
書き終わったー!
なかなか納得が行かなくて書き直してたらいつの間にか月末に...
次回もお楽しみに!