戦闘シーンの試し書き
設定とか即興で作ったのでおかしい所があるかも
江戸の川辺りに小さな茶屋で、黙々と団子を頬張る少女がいる。
艶のある黒髪が、群青から橙へ移り変わる空に反射し、頭蓋に虹色の輪を描いている。
少女は無名の剣士。自分の弟を殺した人物の仇を取るべく、ここまで来たのだ。
彼女は誰が鍛錬したのかも知れない淡白な刀を腰に差し、様々な花が刺繍された紅の着物を着こなしている。その風体ゆえ、無名の剣士に誰もが目を向ける。
そんなことも気にせず少女は声帯を震わす。
「ありがとう。この店の団子は美味しい」
背後から、また来るようにと催促する言葉をしかと聞き入れ、そのやけに目立つ着物を翻させてゆったりと茶屋を出る。
刹那、彼女は刀に手を掛け、正面の人物を目に据える。
「予想より十遅かったが...」
言葉をぶつけられたその人物は少し驚いているようだ。
彼女は大きく息を吸い込み、そして吐き出した。
「...こいつは、人殺しだ...!」
ざわめく街。何事かと軒先に出る野次馬。
夕焼けに染まる空を後ろに、2つの刀に光が跳ねる。
彼女は半歩踏み込み相手の動きの隙を狙って刀を打ち込む。空を切る刀。
その目は、人殺しの目を、足を、腕を、全て眼中に捉え、先の動きを読もうとする。だが、相手も人殺しなのか、無駄な動きが少なく、少女は隙を狙えずにいた。
固く踏み固められた土に幾つもの足跡がついていく。
「弟の仇は必ずやーーー」
すると、彼女の剣の周りの空気は歪み、刀を正確に視ることが出来なくなった。不可視になった訳ではない。ただ、刀の挙動が歪んで見えるのだ。
少女は一秒経たずとも、人殺しと距離を詰めた。彼女の刄が人殺しの心臓を打ち抜く認識した瞬間、人殺しの背後から刀が一直線に降ってくる。だが人殺しは何かを感じ取って、一気に横に跳躍した。そして茶屋を飛び越え、川辺の橋の方へ駆け出す。少女は人殺しを追うように、身軽に街を駆け抜ける。
着物が風を受け、これ以上進ませまいと抵抗するが、少女には関係のないことだった。
神社の境内で向き合う影が二つ。二人とも息も絶え絶え、相当走ってきたようだ。
少女は口を開く。
「弟は、多少憎まれる奴だったかも知れないが、誰よりも正直な男でもあった。だから私は、表面上の性格だけで人を切り捨てるお前が許せないーーー」
彼女は自らの体にぐっと力をかけて怒りを抹消しようとする。
ここで冷静を破れば弟の未練も自分の命も全て水泡に帰す、と。
人殺しが初めて口を開いた。
「あんたの剣術には驚いた。馬鹿みてぇに真っ直ぐだ。だからよーーーー隙が見えてしかたねぇんだわ」
少女ははっと息を飲む。境内の紅葉が地に落ちた瞬間、二人は同時に飛び出した。
少女の初めの一撃。人殺しはそれを軽く受け流し、下から切り上げようとする。
少女は素早く後方に跳び、大木の幹を踏み台に、人殺しに飛びかかる。
だが、人殺しはそれを判っていたのか、見事に避け、少女に斬りかかる。
二人の刄は再び交わる。剣の挙動に沿って光が空間に残響する。日はすっかりくれ境内を照らすのは刀の反射光のみ。
再び強い追撃。彼女は何とか受け止めるが、両者一歩も譲らない。
ふと彼女は力を緩めた。途端、人殺しは前のめりにバランスを崩す。
少女は刄の中腹を人殺しの腹に刺し、その腹に沿うように人殺しの周りをぐるりと回転させる。
噴き出す鮮血。人殺しは、どの方向から見ても腹から血を垂れ流している。
だが人殺しはまだ諦めなかった。少女の頭上に刀が振り落とされる。しかし、瀕死の彼の一撃は易々と避けられるに決まっている。少女はトドメの一撃と言わんばかりに、人殺しの心臓に無名の刄を突き刺した。
血を避けるように彼女は鳥居の上に飛び乗る。
少女はいずれ死にゆく命を俯瞰する。
月夜の境内を鮮やかな赤が支配していく。
「少しこの紅は刺激が強すぎる。」
そう呟いて、満月を仰ぎ見た。
仇を取り、なんだか虚しい心の内を隠しながら。
人殺しの死体って誰が回収するんでしょうね(メタ)