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世界が終わるその前に  作者: 深井陽介
第一章 春・夏編
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#2 おそろい

 料理描写は素人の想像です。


 夕貴、菜月、丈太郎の三人と一緒に朝食をいただいている間も、わたしの作業は止まらない。

 育ちざかりの高校生四人分の、お弁当作り。この家で料理ができるのはわたし一人なので、四人分をわたしが一気に作ることになる。必然的に、全員がほぼ同じメニューになる。とはいえ、そのことに誰も不満を抱いていないらしいし、わたしは料理が好きなので特に嫌とは思わない。

 食べている間、野菜を鍋で煮込んでおいて、千切りにしたごぼうを水につけておく。ほかの三人より先に食べ終わると、鍋から取り出した野菜の水を切って、すりつぶした胡麻に砂糖と醤油を加えたところに放り込んで和え物を作る。ごぼうは千切りにした人参と一緒に酒、みりんなどを加えて炒め、きんぴらごぼうにする。ご飯には、焼いてほぐして塩味を加えた鮭をフライパンで炒ったものをかける。あとは適当に冷凍食品を選んでレンジで温める……正直、これ以上手間はかけられない。

 全員分のお弁当ができたところで、三人は出かける準備が完了していた。制服姿だ。

「文香、先に行っちゃうよ?」

 菜月が顔をのぞかせて言った。

「いやいや、お弁当あるんだから先には行けないでしょ」

「大丈夫でしょー、どうせ行き先は四人とも同じなんだから、そこで手渡せるじゃない」

「荷物を増やさないで……」

 毎日の家事のほかにまだ苦行を強いるつもりか、お前は。

「ほら、菜月の分のお弁当」

 ピンクを基調とした模様の巾着に入れたお弁当を、菜月に手渡す。

「お、サンキュ」菜月は楽しそうに受け取る。「文香のお弁当って冷めても本当においしいから、平日は毎日これが楽しみなんだよね」

 おかずの半分以上が冷凍食品だということは菜月も知っているくせに……。これはつまり、日本の冷凍食品の技術を褒めていると解釈するべきなのかな。これっぽっちも嬉しくない。

 菜月の後ろを、丈太郎が通り過ぎようとしていた。体重がかなりあるので、歩くたびに廊下の床がギシギシときしむ音を立てている。

「丈太郎、お弁当」

 青を基調とした模様の巾着。わたしはそれを掲げながら丈太郎を呼び止めた。

「おお、そうか」丈太郎が受け取る。

「今日は午後から練習らしいけど、お昼ご飯を食べる時間はあるの?」

「移動中のバスの中でも食べられるし、このくらいの量なら十分で食べられるよ」

 十分って……それ、ご飯もおかずもほかの三人の一.五倍はあるのだけど。

「ちゃんと噛んで食べないと消化に悪いよ」

「俺は口も大きいから噛んで飲み下すのも速い。言われなくてもちゃんと噛んで食べてるよ」

 さいですか。丈太郎の場合、口だけじゃなく色んなところが大きいのだけど。目とか、手とか。

「それじゃ、先に行ってるからねぇ」

 そう言って、菜月は丈太郎と一緒に家を出た。元から兄妹として過ごす時間が長かった二人は、いがみ合いもするけど基本的に仲がいい。端から見ると完全に凸凹コンビだけど。

 すぐに夕貴も階段を下りてきた。朝食前の寝癖は完璧に直っている。たぶん菜月の仕業だ。

「はい、夕貴の分」

 夕貴のお弁当は、緑を基調とした模様の巾着に入れている。

「うん」夕貴は表情を変えることなく受け取った。「文香、学校の準備は?」

「これからだよ? といっても、制服に着替えるだけだけど」

「あまり遅くならないようにな」

 それだけ言うと、夕貴は巾着を揺らしながら玄関に向かっていく。あいつは元から口数が少ないので、無表情と相まって冷たいようにも見える。実際はそんなことはないという事を、わたしはよく知っている。菜月と丈太郎が、四人暮らしになる前から兄妹であったのと同じく、わたしと夕貴も、それ以前から姉弟として一緒に暮らしていた。もちろんどちらの組も、自分を産んだ親は異なるが。

 外に出た夕貴を見送ると、わたしはすぐに階段を駆け上がって自分の部屋へ。さすがに料理中は制服でいられないので、わたしだけはずっと私服でいる必要がある。あの三人は食べるだけだから、最初から私服になる必要はないはずだけど……。

 わたし達は四人とも同じ高校に通っている。学年ごとにニクラスしかなく、わたしと夕貴がA組、菜月と丈太郎がB組と、奇しくもかつてのきょうだいに分かれて在籍している。この町に高校は一つしかない。というか、小学校も中学校も一つしかない。町外に出ない限り、受験勉強はほとんど必要ない。私立の中高一貫のように、暗黙的なエスカレーター方式となっている。一応、高校入学時には試験を行なうが、ここ二十年くらいは受験した全員が合格しているそうなので、あまり意味がない。

 まあ、過疎化が進んで倍率が毎年一倍を下回っていれば、それも当然といえた。わたし達が入学した年、高校の全生徒数は百人を切ったそうだ。

 いうまでもなくこの町は田舎である。少なくとも、幼少期の何年かを都会で過ごしたわたしには、田舎にしか見えない。

「…………よしっ」

 準備を整え、バッグとお弁当を持って、わたしは家を出た。玄関にはしっかり鍵を閉める。

 自転車の籠に荷物を入れて、家の前の道路に向かって進んでいく。ちなみにわたしのお弁当は黄色を基調とした模様の巾着に入れている。デザインは四人とも同じだった。

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