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世界が終わるその前に  作者: 深井陽介
第一章 春・夏編
1/32

#0 追憶


 それがいつの事だったのか、わたしは全く覚えていない。どこで見たのか、その場にわたし以外に誰がいたのか、何ひとつ覚えていない。たぶんあれから十年近くが経っていて、似たような光景を見ることも、想起させるような話題が出たこともなく、あらゆる記憶が薄れているのだ。

 強烈なほど脳裏に焼き付いて離れないのが、その場所から見た光景だ。実際、あれが何を見て感じたことなのか、それさえはっきりとは覚えていない。だがその記憶が、わたしの人格形成に多大な影響を与えたことは間違いない。子ども心にそれは、空恐ろしいものだったのだ。

 まるで、世界の終わりを目の当たりにしたような……そんな感覚だった。

 赤だ。赤、赤、赤!

 わたしはどこかの高台の上。丘か崖かは忘れたが、見渡す限り、鮮やかなまでの赤が広がっていたのだ。

 それ以外、覚えていることは何もない。

 ただ、そう……あれ以上に、震え上がるほどの恐ろしさを感じたことは一度もない。

 後からその話をしても、誰もが、綺麗な夕焼けを見たのだろうと言ってきた。普通に考えればそうなのかもしれない。だが、今でもわたしは、あれを世界の終末であったと思っている。

 十年近く経っても、わたしはその記憶に囚われている。わたしのいるこの世界は、当然ながらまだ終わっていないのだから。大人になってものがわかるようになれば、やがて解放されるかもしれない。だから、わたしを束縛するその記憶から解き放たれた時、わたしはようやく大人になれるのだ。つまり、まだ大人にはなりきれていない。

 だけど……その瞬間が訪れることを、心から待ち望んでいるとは言い難かった。

 なぜだろう?


 紆余曲折あって、わたしは予想外の形で新しい家族を持った。きょうだいが三人増えたのだ。不安なこともあるけれど、毎日が楽しいと思える日々を送っている。

 わたしは、世界が終わる瞬間をすでに見ている。もし、またあのような光景を見るとしたら、それはいつになるのだろう? それが明日でない事を祈るばかりだ。

 日日(にちにち)(これ)好日(こうじつ)

 だからわたしは、毎日を大切にしながら過ごしている。

 この気持ちを失いたくない。赤で満たされた記憶から解放されたら、日々の貴さを感じられなくなるかもしれない。それこそ、わたしにとっての世界の終わりではないのか。

 そんな発想に至ったのは、あの三人に出会ったからだ。だから今ならわかる。

 世界が終わるその瞬間まで、毎日を大切にしながら生きていこう、それがわたしの生き方だ。

 まあ……あの世界の終末のごとき光景が何だったのか、気にならないといえば嘘になるけど。

 いつか、答えを教えてくれる人が、現れるといいなぁ。

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