僕はこの街を守れるほど強くなったはずだった
寝起きが気持ちいい季節になった。レミル氏、18の春である。
といってもこの世界に季節という概念はなく、ただ単にあったかいな、寒いな、という程度である。実につまらん。
父が戦死してから随分とたった。実のところ家族の空気や街の空気はまだ重たい。
僕だって異世界早々こんな展開になるなんて思ってもみなかったのだ。
もっとこう手持ちのチートで無双してハーレムウハウハとか思ってたんだ。くそう。
僕の立ち直りが早いのはきっと前世の記憶を継いでいるからだと思う。こっちの世界とあっちの世界の執着が半分こされている感覚だ。
もちろん悲しいのは悲しい。それは当然。しかし僕には他に思うところがあった。
強くならねばいけない。主にメンタル。
正直言って俺は強い。かーーなーり、つよい。
天啓が体に完全に馴染んでからできることが増えた。というのも先に対価を提示できるようになったのだ。
つまり、今まではチョコレートをレジに持って行ってから100円です!と言われていたのを、100円を店主みせてから、これで買えるものを持ってきてくれ、って感じになったのだ。
実に便利である。
冒険者ランクもBにまで登った。これなかなかにすごい。同じくBで足踏みしていた妹が不満そうに膨れていたがなにをしても可愛い全くうちの子は可愛い。
お兄ちゃんのくせに私に追いつくなんてだって。なにそれ可愛い。可愛いオブザイヤーだなお前は。
Bから上にあがるには王都での試験が必要だった。Aクラスの冒険者の試験のもと、それをクリアして昇格できるのだそう。
Aクラスともなるとなかなかの天啓持ちが増えるそうで、ライバル出現って感じがプンプンする。
ちなみに僕的に考えてこのなんでもできちゃう天啓はSランクに余裕でなれます。だってなんでもできるんだもん。
ただこいつはハイリスクハイリターンな為安易に使うことは許されない。
節度を守って使っている。
「あら、レミルくん」
「どうも、おはようございます」
あの受付嬢さんも今ではすっかりなんというかうんまあ綺麗なんだけどやっぱ若い魅力ってあるやん?
それでもまあ三十路手前なのでそこそこ若い。
「本日はどのような依頼をお探しでしょうか」
「討伐系の依頼、難易度は高い方が好ましい」
こんな僕もすっかり冒険者として馴染んでしまっており、最初は仕事を探す間だけーなんて思っていたが、強くなろうと決めた手前やめることができなくなってしまったのだ。
「でしたら、この魔狼の群れの討伐などいかがでしょうか、北西にある森の中部で発生が確認されており、おそらくリーダーを作っての群れですので難易度も飛躍的にあがっております」
こういった群れを成す魔物はリーダーを立てることで統率をとることができ、獲物をより効率的に仕留めることを可能としている。
さらにいえばその群れのリーダーとなるものはその中でも頭一つ抜きん出ていて、実力はCランクでやっと張り合える、というところであった。
まあ僕にかかれば瞬殺なんですけどね!
ということでその依頼を引き受けた僕はギルドを出て真っ直ぐ西門へ向かう。
行く途中気をつけてなと手を振られることもあり、手を振り返していると、ここはいい街だなとふと思う。
そんな街を、守れるほど僕は強くなった。自負している。僕はこの街の誰より強い。
そして18。そろそろ彼女くらいできてもいいのでは?
いやまじで。
西門を抜けると脇道にスッと入る。
「天啓、頼む」
ほんとはこんなこと口にしなくてもいいのだが、これは僕なりの礼儀というか決め事というか、なんかそれっぽく見えない?
え、かっこよくない?
ググッと視界が狭まる感覚に陥り、体が圧迫される。その感覚と同時に目を閉じ、2秒待つ。
目を開けると森の中だった。
「よし、いい感じ」
テレポート大魔神である。これほんとつおい。つおいよぉーー!!!!
なんと対価は激安。満腹感を犠牲にしたのである。ということでめっちゃお腹が空いた僕はいそいそとリュックに詰めてあったパンを口に詰めかえる。
ピクニックではないが、森の中で食べるパンは気持ちのいいものだった。
パキリ、と木の枝を踏む音に身構える。
それは唐突にやってきた。青く光る目はこちらに気づくと敵をむき出しにしその色を赤く変えた。
「魔狼じゃんはっや見つけるのはっや」
目視できるだけで7匹近くはいるのか、周りを囲まれているのは確かであった。おそらくそれの倍の14はあると思っていい。並みの冒険者では瞬殺だ。
しかし僕は別!!!!!圧倒的チート!!!!!!その名もッッッッザッッワーールドーー!!!!!!!!時をぉぉぉおおぉぉおぉ!!!とめるぅぅぅぅぅーー!!!!!!!!!!!
これ5秒でくしゃみ三回とかいう安天啓だった。たしかにこれ決め手にかけるし、止めなくても自分が高速で動いたりする方が威力もあるからそんなに強くなかったねって話になったの。いやでもまあ2分とか止められるなら最強だよなあと思う。
そうこうしてる間に僕は天啓第二弾を使用する。
なんと僕の天啓二つまで同時使用できるのだ!!
そしてこれ、動いていない複数の標的の首を落とす。対価は1分の頭痛。
動いていないことがミソである。
ザッッワーールドと組み合わせるとまじでつおい。初代プリキュアにだって負けないんだから!
「きさま、そこでなにをしている」
「は?」
心が踊っていて全く気づかなかった。というよりも時止めていたので誰かくるだなんて思ってもいなかったのだ。
凛とした男の声だった。
「私は時を止める天啓を持つ勇者、この近辺の依頼を受け歩いていたところ近くに天啓の反応があったので来てみれば、おまえ、なんだ?」
どうやら以前耳にした石仮面の勇者だったらしい。石仮面つけとけよ空気読めねぇなおまえ。
威圧感満載のその声色に、気圧されてしまった僕はご乱心しました。
それでは聞いてください。
「ぷ、ぷりきゅあです。」
がんばえー!ぷいきゅあーー!!
次回!頑張れ18歳!デュアルスタンバイ!!!
「はっくしゅん」
このあと二回くしゃみしました。