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僕には無理だった


人生の変わり目というものがあるのなら、それはきっと、突然なのだろう。僕がそうであったように。


何かを得る時は時間をかけて積み上げていくものだが、何かを失う時はほんの一瞬なのだ。



誰しも思うことがあるだろう、自分の大切な人がいなくなったらどう生きていけばいいのか。自分が死んだらあの人はどうなるのか。


今日、この世界において、歴史に残る出来事が起こった。



みな、どこか表情に影を残したまま街を歩いている。



この世界のフラグはすぐに回収されてしまう。そんな予感がしなかったわけではない。何かが起こることを知らなかったわけでもない。


ただ、僕だけが知っていて、みんなが知らなかったこと。




「レミル、母さんとラミアを頼むな」



今日、父は戦争にいく。



南の国から攻めてきた軍を撃退する任に当たるそうだ。参加するのはギルドに所属している20以上の健常な男性。運がいいのか、その中に僕は含まれていない。かわりに父が含まれていた。



14年だ。彼と過ごした時間はそれっぽっちだった。前世で早々に父を亡くしていた自分には感慨深いものを感じたのを覚えている。


そもそもあまり家にいなかった彼だったが、たまに帰ってきては必ず一緒に食事をとり、時折木剣をとっては僕に稽古をつけてやる、とわけのわからないことを抜かす意外と脳筋の父だった。


そんな父が好きだった。



「そんな顔するなよ、、、夢を考えろよ、レミル」



くしゃっと笑った。笑うことは多かったが、表情を大きく変えることは滅多になかった。少し潤んだ目に、湿っている袖。


ここで、そんな表情で、そんな言葉を言うのは、ずるい。


父の天啓は、商い向けだ。とても戦えるものではない。死ににいくようなものだとわかって、それでいて彼は笑うのだ。


僕はそれを知っていた。天啓によって知らされていた。


フラグの回収率を気にした僕は一度天啓に未来予知を願ったことがあった。


先のことは考えていなかった。とりあえずアバウトなものにして指2本の骨折くらいに留めておこうと思っていた。


自分に待ち受ける一番最初の不幸はなんだ、それを知りたいと願った。


《父、戦争で死す》


呆気ない。なんとまあ呆気ないものだった。


その真実は、自分一人ではとても耐えられるものではなく、冗談交じりに、父に告げた、自分の本当の天啓を、そしてそれをもって知った未来を。


「二度とするな!!!!」


グーが飛んできた。大きく硬い拳だった。父に殴られたのは初めてだった。


父は言った。お前のそれは危険だと。お前の命を奪うかもしれないものだと。軽い気持ちで使っていいものではないと。


ぶ、ぶったね!なんておきまりのセリフを言う前に、真剣な顔で言われてしまったものだから、何も言えなくなってしまったのを覚えている。


そしてこのことは妹と母には内緒にすること、僕の天啓も内緒にすることを男と男の約束とし、なるべく戦争に行かなくてすむようにと尽力した。



フラグは回避できない。天啓の理からは外れることはできない。これは絶対事項。そう、わかってしまった。


フラグなんてものは僕にしかわからないけれど、なるべく僕は生存フラグを立てるように立てるように必死で考えて考えて口にしてきたつもりだった。



そんな別れ際、この人はまた、突拍子もなくこんなことを言うのだ。


「大丈夫、絶対帰ってくるよ」


「父さん、それ以上はもう、言わないで。」


「泣くなよラミア、名誉なことなんだ。国王のために、この国のために、父さんは頑張ってくるんだ、偉いんだぞ。だから何も泣くことはないんだ、笑うことこそあれ、よろこぶことこそあれ、なにも、泣くことはないんだよラミア」


なんだそれ、まるで昔の日本じゃないか。お国のためにだなんて、間違っているって学校で習ったじゃないか。


なんだよそれ。


「もういいよ父さん、気にしなくていいから、もうなにも言わなくて大丈夫だから」


これ以上もうフラグを立てないでほしい。ふざけているわけでもない、切実な願いだった。


この世界の人は簡単にフラグを立ててしまう。


意図してやっているのではと疑いたくなるようなフラグの立て方をしてしまう。


「生きて帰ったら、またみんなでご飯たべような」


「…ッッ、ばか、、もう、、…くそ、、」


涙が止まらなくなった。溢れて止まらなくなった。


誰が悪いわけではない。この世界が悪いわけではない。日本で勉強をしてきた自分にはわかる。南の国だって戦争がしたくてたまらない訳ではない。資源、食料、土地、自分たちの国を守るため。人々を守るための戦いなのだと。



自分も戦争に参加して、そして僕がこの天啓で敵を退けてしまえばいいのではないか、チートだからそんなの余裕だ。そう思った。



「レミル、約束、おぼえてるよな」


天啓が使用者に完璧に馴染むのには実は時間がかかる。18のとき、それは完全に馴染むのだと言う。


未熟な状態で天啓を無闇に使うと、それは牙となって自分に向かってくることがあるらしい。


大きな天啓になればなるほど、その牙は大きい。


どうしてこんなにも勇気が出ないのか。自分だって中身はもう30年ほど生きているはずだ。レミルの心が邪魔をしているのか。


人を殺すのが怖いのか。


死ぬのが怖いのか。


どうしようもなく不甲斐ない自分が許せなかった。


以前読んだ漫画のように暴れられるものだと思っていた。


無理だ。


どんな力を持っていても、どんな身体を手に入れても。


僕には到底無理だった。



そして



父の戦死の報せが届いたのは、それから一ヶ月と6日後のことだった。


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