親の脛にバターはぬれない
「ラミア、起きて、朝ごはんだよ」
妹を起こすのはもはや毎朝の習慣となっていた。
眠そうに目をこする妹に上着を一枚かけてやり、二度寝しちゃダメだよ、と念を押して一階へと先に降りる。
はーいと間の抜けた声が時間差で聞こえてくるのが愛くるしい。ラミアちゃんは今年で8歳になるのだがもうそれは相変わらず愛くるしい。
前世では母子家庭で育ち、母との二人暮らしであった僕にとって、こんな愛くるしい妹がいることはたまらなく心が弾むものであった。
ラミアも年頃ということもあり、昔はベタベタとくっついていたスキンシップも控えようと思ってはいるのだがやめられない。
たまんねぇんだわ。8歳の肌。たまんねぇんだわ(二回目)
というのは半分冗談で、ラミアちゃん、容姿端麗であり、母によく似ているため、これわしのドストライクな女になるがなあ、、と思っていたのだが、愛着しか湧かない。妹かわいい。
いざ妹を持ってみると不思議なもので、下心など一切湧かず、もう愛でる気持ちしかない。全世界シスコン選手権異世界代表にだってなれちゃう。たぶん異世界だから世界選手権には参加できないね!うっかり!
ラミアちゃんもラミアちゃんで、お兄ちゃんっこのようでとても僕に懐いてくれている。ありがたい。兄妹仲睦じいのはよいことだ。
ちなみにこのラミアちゃんなんとレアな天啓持ちのようで将来有望、回復系の天啓をもっている。おそらくは神官などになって教会につかえるのかなあと思っている。
やだやだぁ〜おにいちゃんと一緒にいる〜〜(裏声)
うっへぇ僕の妹かわいいなぁなどと脳内で一人会話している。意外と楽しいんだよこれ。
あと僕のこれは病気なので将来妹に診てもらおうと思ってるんだ!!!!将来が待ち遠しいね!
ちなみに父であるがここ最近は家を空けており、仕事に勤しんでいるご様子で、ギルド商会の方に泊まり込んでいる。
大変だなあ。
ひとごとではない、、、、ひとごとではないのだレミルよ、、、お前も働かなくてはならないのだ、、、
うっ、頭がっ。
おっとこんなことをしている余裕はない。
朝食を食べ終えた僕は外出用の衣服に着替え、ギルドへと向かった。
俺たちの冒険は、まだまだこれからだ!!
というのも理由があり、さすがに働かずにトーストと親の脛を齧り続けるのも申し訳ないので、自分の食い扶持くらいは自分で稼ごうと思い、職が見つかるまでの間は冒険者として雑用をこなして過ごすことにした。
働かずに食べるトーストはうまいが食べてる時の母の目が日に日に細くなっていくんですよね。たぶん一ヶ月後には閉じちゃうんじゃね?ってくらい細くなってるの。アハ体験かよってスピードだけど確実に細くなってるんですよね。いやほんとに怖い。
僕だってやる気になればできるんですよ、ここはね、お兄ちゃんが一人前の冒険者だってことをね、ラミアにも見せてやらねばいけない、そう思うんですよ!
わーー!レミルお兄ちゃん頑張ってー!(裏声)
えへへぇ、、、、
ギルドは僕の脳内に引けをとらないくらいの賑わいを見せていた。
「あら、レミルくん、いらっしゃい」
「おはようございます」
このギルドの受付のお嬢さんはとても可愛らしく、いつも明るい笑顔で冒険者を迎えている。
受付嬢の基本は笑顔、接客は笑顔で。ここらへんは日本と変わりはないようで、馴染み深いというか、懐かしいものをかんじて心に暖かいものを感じる。ついでに抱きしめて欲しい。
ふむ、、、そのお胸Eはありますねぇ、、、、
ついでに抱きしめて欲しい。心に暖かいものをもっと感じたいのだ。
言わずもがな、そんなこと本人に言えるわけもなく、話題は世間話から依頼の話へと切り替わる。
「んーー、今のところですと、こちらなどはどうでしょうか」
お仕事口調の受付嬢さんも、こう、ほら、グッとくるよね!!いいね!ふぁぼふぁぼ!リツイートしちゃう!
「町外れの村まで手紙を届ける依頼ですか、じゃあこれにします」
「はい、ハンコ押しました。じゃあまずは薬屋さんのところで手紙を受け取ってきてね、そこから町外れの鍛冶屋のガルダさんまで届けること、最近は魔物もちょくちょく出るみたいだし、くれぐれも気をつけてね、あ、お気をつけてくださいね、では、いってらっしゃい」
言い直すところ、、すき、、です、、、、
行ってきます、と心なし爽やかめの笑顔で返して薬屋へと向かった。
魔物かー!!!やだなーー!!!会いたくないなーー!!!
「うえーん、みんなしてそんなフラグたてないでよ、、、」
薬屋で手紙を受け取り、街の西門へと向かう途中、通りすがるお兄さんや騎士団の警備のおっちゃんにことごとくフラグを立てられ、僕のメンタルはすでに死んだ。
薬屋さんにも言われた、、、魔物がいるから気をつけてって、、、、フラグビンビンじゃん、、、、ふええん、、、
お兄ちゃん!大好き!頑張って!(裏声)
しかし心の中の妹は今日も可愛い。いつだって可愛い。
よぅし!お兄ちゃん本気だしちゃうぞー!
んー。帰ってきたら薬屋さんに頭のお薬もらおう。
そう決めてトボトボと町外れの村へと足を進めた。