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バターを塗った


ーー寒い。


季節外れの寒さにやられ、いっこうにおさまることのない鼻のむずむずにはさすがの僕も限界を感じ始めていた。



安西先生、、こたつが、恋しいです、、、、



こうして冷え切った部屋の冷え切った床で冷え切った身体を休めていると心まで冷え切っちゃってもう大変!


誰かわたしを温めて!



あはぁんおじさんこと、ナイフぶっ刺し野郎(仮)に僕のお腹をズブズブ大パニックにされてから体感にして二週間が経った。


食って寝ては起き、食って寝ては起きを繰り返すたび、あの出来事が夢だったように思えてきてしまう。



夢だったんじゃね感が強い。夢オチきぼんぬ。


いやぁほんと夢だったらよかったのにね!!!!



人生そんなに甘くはないのよと高校の時の先生がよく言っていたがこんなにも厳しいなんて聞いていない。


教えてジャーニー。僕はどうすればよかったの。教えてアルプス。



やってられんた!ということで考えることを半ば放棄しつつある僕は、そんなこんなで今住んでいるこのお家に世話になっている。


世話になっているというかなんかここの息子らしいんですよね。



そして見た感じだけど世界は至って平和だった。


街の中を駆け回る騎士団!

時折北西にある森から湧き出て町外れの畑を襲う魔物!

夜な夜な酔っ払い同士の喧嘩で飛び交う魔法!


もう一度言います。世界は至って平和だった。完。



切実に終わっていただきたい。こんなファンタジー転生物語は嫌な予感しかしないのである。


皆んな仲良く平和に暮らそーーーよーーーーー!!!!!!!!!!!!!ねぇーー!!!!!!かんかんかーーーん!!!!



はい。ちゃんと現実見ますね。そして起きますね。



一階から麦の焼ける香ばしい匂いがし始めたところで、布団をもぞもぞと動かして活動を始めた。



「おはようレミル、起きたばかりのところ悪いんだけどお父さんとラミアを起こしてきてくれない?」


「おはよう、母さん。うん、口をゆすいだら起こしに行くよ」



いつもわるいわね、レミルは賢くて助かるわ。と言って母はフライパンに卵を落とした。



母の名はレイミアといって、これまた美人のできた奥さんなのだ。色白の肌に透き通った蒼い目、朝早くから家事を始めるのにも関わらず、彼女の髪は綺麗に梳かされ、朝日を浴びて白金の輝きを放っている。



レミル氏自分の母をげき褒めである。だって可愛いんだもの。れみを。


俺の母さんがこんなに可愛いわけがない!


はい。



いやほんとのところこのレイミアお母さんまーじで可愛いんだわ。ドストライク。スリーアウトチェンジ。



もうレミルちゃんったら朝から元気!(自重)



それにきいて、カテゴリー的にはこれ僕のお母さんなんですけど気持ち的にはお母さんとは言いにくい。どっちかというとそのなんていうか人妻よりでもうなんていうか俺の母さんがこんなに可愛いわけがない!


はい。



正直なところレミルという名前にはまだ慣れない。



前世の記憶を持ち合わせている手前、国山相汰という名前の愛着を捨てられずにいるのだ。


これがまた複雑なものでレミルさん今年でなんと7歳になる。


そして僕にはソウタとして過ごしてきた23年間の記憶と、レミルとして過ごしてきた7年間の記憶が混在しており、それはもうてんやわんやしているのだ。



すごいよね!こんな美形のショタの中身がくそニートだよ!おめでとう!!



レイミアお母様なんてトーストにバターを塗る仕草だけでもう朝から元気百倍アンパンマンなのに僕の前世のお母さんなんて顔にバター塗ってんのかよってくらいのここらへんでやめときますね。



二つ年下である妹のラミアと我らがお父様であるランドレを起こし、四人揃って食卓を囲む。


この見慣れたはずの風景に嫌な頭痛と違和感を覚えながら、一口、また一口と齧るトーストはどこか味気がなく、それを誤魔化すようにミルクを喉に注いだ。


なぜ自分は前世の記憶を取り戻してしまったのか。



この剣と魔法の織りなす世界で僕はどう生きていけばいいのか。



「レミル、おまえもあと三年で就職するんだからな。何になりたいのか、しっかり考えておくんだぞ」



うぉおおおおおぉぉぉぉおぉおぉおんんん!!!



働きたくないよぉふええん。えぐえぐ。




この世界ではそんな泣き言も言えるわけがなく、頑張るよ、と笑って返した僕は、ふと前世の母の顔を思い浮かべた。



母さん、どうしてるだろうか。



そんな思いにふけりながら、また一口、トーストを齧った。



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