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1話 僕と女神さんと弓

とある辺境の村


今年も雨が降らなかった。

その為田畑は枯れ果て、領主に納める税も払えるか怪しい状況になり、

苦境に立たされていた。


「もうこの村は終わりかもしれん・・・」

村長を筆頭に村のお偉いさん方が集う会議で誰かが呟いた。

その呟きを否定する人は残念ながら誰もおらず、暫くの間沈黙が場を支配した。

幸い領主は理解があった為、

村長の嘆願により税の先送りは理解してもらう事ができていた。

しかし、村民が食べていくだけの食料の当てが全く無かったのである。

また、昨年は飢饉から流行病に冒される人々が続出し、ただでさえ多くない人口も減ってしまっていた。

「やはり・・・」

躊躇しながら村長が話し始める。

「やはりあの子の力を借りるしかないかのぅ・・・」



ゴホッゴホッゴホッ

最近咳が酷くなっていく一方だな、と思いつつ魔方陣を必死に書いている少年がいる。

彼の名はアクシオス、10歳、辺境の村で類稀な召喚術の頭角を現し始めている少年である。

9歳までに既に風の精霊と契約を結んでいる。

この活躍によって流行病は終息を告げる事になっている。

「ふぅ・・・」

自身の持てる最高の魔力を持って書ききった魔法陣をみて一旦安堵する。

そこに村長がやってくる。

「アクシオスや・・・すまんが、やはりお主の力を借りる事になった」

村長は苦虫を噛み潰した様な顔で話し出す。

「はい!勿論です!」

表面上元気よく答えたアクシオスを見ながら村長は申し訳なさそうに頷くことしか出来なかった。

この世界において召喚術とは非常にリスキーな術であった。

どんなベテランであろうと術の失敗は自身の死を意味する。

また、召喚に成功したとしても、

使役した者への代償、願いを叶える為の代償が払えなければ何も出来ないのである。

代償とは召喚者の魔力もしくは、生贄もしくは、お金、使役した者が望む代用がきく何かである。

条件さえ整える事が出来れば、あらゆる事を自在に操る事が出来る為、志す者が絶える事は無い。


「では始めますので、明日までは僕の家には近づかないでください。失敗した時はごめんなさい」


村長は無言で頷き、アクシオスの家から去って行く。

「お前はまだ死ぬな・・・」

そう呟く村長の呟きはアクシオスの耳にもしっかり聞こえていた。


「お前はまだ死ぬな、か・・・」

アクシオスは苦笑いするしかなかった。

「9年前に父さんはこれと同じ召喚術で命を落としたのかな」

元々召喚術に長けた父が残した研究ノートには、

豊穣を司る者を召喚出来ると記載が残っていた。

アクシオスが1歳の事なので全て母親からの口伝になってはしまうが、

その母親も昨年の流行病で命を落としてしまっている。

その為、今となっては詳細を聞くことさえ叶わない。

しかし、結果として父は亡骸さえ残さず消失し、

召喚師の杖だけが残されていたそうだ。

召喚術は失敗または、使役した者と折り合いがつかない場合の事を考えて、

被害が発生する可能性がある人、モノを遠ざける事が一般的である。

その為、当時現場でどの様なやり取りがあったかを知るものは誰も居なかった。

しかし父の消失後、村の田畑は急速に息を吹き返し、次々に作物が出来ていたようだ。

アクシオスは思う、

父さんが命を賭して成功させた術に10歳の自分が果たして出来るであろうか、と。

それと同時に、母が亡くなってから村長には良くしてもらった為、恩返しが出来ればいいなと健気に思い、父が残した杖を強く握り締める。

「ゴホッゴホッゲホッ・・・ふぅ」

気を取り直し、魔法陣に魔力を流し込み、術を展開させていく。

それと同時に魔力が自分から吸い取られて行く感覚が広がる。

「(何度やってもこの感覚は慣れないなぁ・・・)」

と思いつつ、心の中で豊穣を司る者に呼びかけていく・・・・


この世界において、召喚術に呪文という概念は無い。

魔法陣を元に自分の魔力と望む願い、に引き寄せられる様に何かが召喚される。

その為、全く同じ魔法陣を使って召喚術を使っても同じ者が召喚出来る確約は無い。

もっとも、真名を教えてもらう契約が出来れば、再召喚の難易度は格段に下がり、ノーコストで召喚出来る様になる。


しばらくすると、

閃光と共に魔法陣の上にとんでもない美人なお姉さんが現れていた。

「私を呼んだのはあなたね?」

と笑顔で話しかけてくる。

「良かった・・・ここまでは・・・」

と気の緩みからか咳きの発作が始まってしまう。

「ゴホッゴホッゲホッゲホッ!」

咳きと共に大量の血がぶちまけられる。

「(せっかくここまで出来たのに・・・死んじゃうのかな・・・)」

急速に意識が遠のいていく中、

美人なお姉さんが慌てた顔で駆け寄ってくるのが見えたが、

そこでアクシオスの意識は途絶えた。



「うぅ・・・」

少しずつ意識が覚醒してくるアクシオス。

「大丈夫?」

心配そうに顔を覗き込むお姉さん

「僕は生きてるの・・・?」

心配そうにお姉さんに話しかけるアクシオス

「そう簡単に死なせないわよ?ちょっとサービスして加護もつけてみたしね?」

アクシオスに膝枕をしながらドヤ顔をして胸を張るお姉さん。

「(・・・下から見上げると凄い)」

もはや何が、とは言わずもがなである。

「それでいつまで君はそうしているのかな?私の膝枕は高いのよ?」

「ご、ごめんなさい」

といいつつ俊敏な動きで立ち上がる。

それと同時に、体調も先程とは比べ物にならない位良くなっている事に気づくアクシオス。

「(さっきの凄い痛みがなくなってる・・・これが加護の力なのかな?凄い・・・ちゃんとお礼言わないと!)」

「あ、あの!加護ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げるアクシオス。

「いいのよ。私の気まぐれだから。それよりあなたの願いは何なのかな?」

「(ここから交渉だ!頑張らないとっ)」


-少年説明中-


アクシオスは凄惨な村の状況を説明し、力を借りたい旨を包み隠さず話した。

「ふ~ん、なるほどね・・・

確かに豊穣を司る私なら力を貸す事は出来なくは無いけれど・・・君の魔力で足りるかな?」

少しだけいじわるそうな顔で問いかけるお姉さん

「(やっぱり代償は魔力だよね、そんなに減った気はしないけど、どうなんだろう?でも父さんはこの魔法陣を使って・・・)」

「ほらそんな泣きそうな顔しないの!私が悪者みたいじゃない」

とお姉さんは僕のほっぺたを摘んでむにゅむにゅしてくる

「なにふるんでふかひゃめてくだふぁい~

(痛くないけど、なんだか恥ずかしい)」

手をぱたぱたしながら涙目で必死に抗議するアクシオス

「(・・・なにこれ・・・かわいい!それに癒される~まだ貰ってないけれど、とっても美味しそうな魔力かもしれわね・・・お持ち帰りしてもいいかしら)」

微妙な機微を第六感で感じ取ったアクシオスはササッと距離を取る

「(よく分からないけど、背筋がぞくってしたよ・・・)」

「そ、そんなに警戒しなくてもいいのに・・・」

「そ、そんなことないよ、それよりお姉さんの力を借りたいんだけど、僕の魔力で足りそうですか?」

緊張しながら尋ねるアクシオス

「いいわよ」

そういうとお姉さんはどこからともなく弓を取り出す

「これを貸してあげるわよ、森で狩りをする時に役立つわよ?」

にっこり笑顔で差し出してくれる。

「えっと・・・僕、弓の使った事がないからちょっと・・・」

「(困った顔もかわいいわね~、いぢめたいかも・・・)あら、いいの?」

「う、うーん・・・」

「(こんなかわいい子が召喚してくる事なんて滅多に無いからって、いぢめすぎて契約破棄になっても嫌だしやめておこう)」

そもそも一般的に高位召喚術を行う人々はある程度の実績と経験を積んだ者しか行っていない為、総じて召喚術師の平均年齢はかなり高めである。


「これはただの弓のじゃないわよ?目視出来るものに対して必ず矢が当たるから誰でも使えるから安心しなさいね?勿論威力も抜群よ?弦を引くだけで矢が装填されるから心配ないわよ?」

そういうとおもむろに弓を構え、空に向かって矢を放つお姉さん

つられて空を見上げるアクシオスだったが、何も見つける事ができない

「少し待ってね」

「う、うん」

しばらくすると上空から音を立てながら何かが落ちてくる

そしてアクシオス達がいる所から50Mは離れている所にクレーターを作り何かは落ちた。

砂埃が晴れると、翼の生えたドラゴンが力尽きているようだ。

ただし、頭があったであろう場所は綺麗に吹き飛んでいたのでその威力が凄まじい事を物語っている。

本来ドラゴン討伐に使用される武具とは伝説級の名工が伝説の金属を使い鍛え上げたモノか、神聖な者から祝福を受けたモノ、忌まわしく呪われ代償を払い何かを汚す事に特化しきったモノが一般的である。

それ以外のもので攻撃した所でドラゴンの鱗に阻まれ、逆に武器が壊れる事が一般的である。

勿論、攻撃を当てる事が出来たらの話にはなるが・・・。

「ね?簡単でしょ?」

ウィンクをしながら笑顔で話しかけるお姉さん

「す、凄い武器ですね!?本当に借りちゃっていいんですか・・・?(これってアーティファクトなんじゃ・・・)」

軽く引きながら尋ねるアクシオス

「いいわよ?ただし、私は君に貸すのよ?その意味をよく理解してね?」

「は、はい!もし僕以外が使っちゃったらどうなるんですか?」

「え?」

「え?」

「知らないの?神々のアーティファクトを勝手に使ったりなんてしたら一瞬で消炭も残さず消滅するわよ?」

「(・・・やっぱりアーティファクトなんだ・・・神話の中の勇者が使うような武器だよね、コレ)」

あまりにも現実離れしすぎている出来事に驚きつつ、代償の魔力で自分が消滅するのではと泣きそうになるアクシオス

「なんでそんなに泣きそうな顔してるの?」

不思議そうに首を傾げているお姉さん

「ぼ、僕まだ死にたくないよ・・・」

大量に血を吐血し、意識を失う程の激痛を味わい、死ぬ事への具体的過ぎる恐怖から

とうとう堪えられなくなり泣き出してしまうアクシオス

「えぇ!?何で死ぬの!?」

「だ、だってこんなに強い武器を貸してくれるんだもん!僕の魔力じゃ足りっこないよ・・・うぅ・・・」

「そういう解釈をする訳ね・・・」

そういうとアクシオスをぎゅっと抱きしめる

「お馬鹿ね。私の武器を貸すのにここで魔力を吸い尽くす訳無いでしょ?」

「ほんとう?(母さんとは違うけど良い匂いがするし、やわらかい・・・)」

「本当よ?うそなんてついても意味ないでしょう?」

「うん・・・ありがとうお姉ちゃん」

やっと安心して笑顔を見せるアクシオス

「(その笑顔は反則よ・・・)じゃあこのまま魔力を貰うわよ?密着してると効率的に貰えるからね(もっと別の方法もあるけれど、この子には刺激が強すぎるわよね・・・)」

そう思うとぎゅっと抱きしめる女神さん

「はい!」

「(あぁこの子抱き枕に欲しいわ・・・)ん!?」

「(やっぱり何か駄目だったのかな・・・)」

「美味しい・・・」

「えっ!?」

「(こんな美味しい魔力は有史以来初めてかもしれないわね・・・ただ強力な呪いにかかってるじゃない!!これじゃ精々1、2年しか生きられないじゃない!誰よこんな馬鹿げた事してくれたのは!?こんな美味しい魔力があと1,2年しか味わえないんてとんでもない損失・・・!なんとしても阻止しなくちゃ!)」

「お姉ちゃん・・・?」

不安そうにアクシオスが尋ねる

「魔力はもういいわ、それよりコレを飲んでみて?」

「う、うん」

お姉さんの迫力に負けて思わず飲み干してしまうアクシオス

「おいしいジュースありがとう!」

「なら良かったわ~(分解されて、ただのジュースになるなんて・・・ネクタルではあの強力な呪いは消えないのね、普通の人間が飲むと簡単に不老不死になるのに、効果無しとはね、信じられない位強力な呪いね・・・となるとあの子に頼むしかないわね・・・)」

戦慄しつつも、この子を救う手立てをあっさり決めるお姉さんであった。

「お姉さん、この武器はいつまで貸してくれるんですか?」

「そうねぇ・・・2ヶ月にしましょう、期間が過ぎる前に私を再召喚してね?約束よ?」

「は、はい!」

「そういえば君の名前は何ていうのかしら?」

「僕はアクシオスです!お姉さんの真名はなんていうんですか?」

「私は------------


古代神話の中に同名の女神から加護と弓を借り受け、

魔王を撃ち滅ぼしたと記載があったが、その時アクシオスは知る由も無かった。




拙い文章を最後まで読破いただきありがとうございます。

誤字脱字等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。

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