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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Chikuwa's aloof?

作者: あーく

 episode“ちくわ”



 遥か未来か、それとも地球によく似た世界か。

 一つの国がそこにはあった。


 リッジ帝国。


 この国の北と東の先には大山脈、西には大海、

 南には未踏領域と呼ばれる闇に満ちた謎の領域がある。

 行政・立法・司法の中心は三つある帝都だ。

 また国のトップには唯一無二の存在、『皇帝』がいるが、

 皇帝至上主義ではなく、議会があり、民主自治も行われている。

 軍隊は存在し、帝国軍という大きな括りの中に、

 exm(イグジム)大隊、機械化部隊、宮内部隊、精鋭騎士隊の四つがある。



 舞台は、帝国軍exm大隊の駐在基地が存在する第三帝都“スレアム”の東にある草原地帯。

 そこにある帝国所属の自治地区『レシステ』。



 時は、NeHi暦1884年。

 事の始まりは、ある日の朝。

 レシステのある一つの家で、何て事ないはずの一つのニュースが放送されたことだった。



「……『練り物製造企業、倒産』?」



 朝食の卵焼きを口に入れようとしていた13歳くらいの少年、

 カイ・ギムーヴは、字幕を思わず復唱した。

 暫しの間呆けたようにニュースを見ていたが、卵焼きを咀嚼する。だし巻きはうまかった。



「まぁでも、ちくわとかかまぼこが無くなるんだな」



 今回ニュースで取り上げられていた企業は、相当古い歴史がある企業で、

 今まで残ってきているのが奇跡とまで言われていた。

 練り物、と呼ばれるちくわやかまぼこなどを一手に製造しており、

 ファンも少なからずいたようだ。


 しかし、そんな企業でも金銭面で限界を迎えていた。それが今回ニュースになったのだった。



「ふーん…」



 自分もちくわは好きな方であったので、残念に思いながらも、

 しょうがないことだ、とカイは割り切っていた。


 そう、カイは。



「なん……ですって?」



「あっ」



 カイは完全に忘れていた。

 自分よりも遥かにちくわを愛し、

 ちくわ依存症とまで化している母、アメリ・ギムーヴの事を。

 アメリは食後の紅茶をキッチンから持ってくる最中で、

 あまりの驚きに、手に持ったカップを落としそうだった。



「これは……最悪の事態……」

「あの? 母さん?」



 どこかへトリップしてしまったアメリは、カイの呼び掛けにも反応しない。



「決めた……私は、戦争を起こす……!」

「母さん!?」



 誰も、アメリの決意は止められなかった。



  ◇



 場所は、帝都程では無いが相当な規模を誇る、帝国西側の湾岸の臨海都市。

 そこにはニュースにあった倒産した企業の練り物工場があった。

 アメリはこの近くにあった軍基地に殴り込んでいた。

 彼女は一人で、ちくわを持ち、戦っている。



「認めなさい、ちくわの力を!

 あなたたちが侮り、廃そうとしたちくわによって、眠れえええっ!!!」

『うわあああああっ!!』



 兵士達が紙切れのように簡単に吹き飛ぶ。

 ちくわには、秘めたる力があった。

 古代では無かったその力が、現代になってそれは発現した。



 全てを吹き飛ばし、受け流す力。



 ちくわは、然るべき者が使うことによって恐ろしい武器と化す。

 それは、アメリ。



 アメリ・ギムーヴはちくわの継承者に選ばれた。

 よって、ちくわは継承者の閧の声に応える。



「ひれ伏しなさい! 私は、止まらない!!」

「くそっ、たかが練り物! しかも使い手は女性だぞ!?」

「たかが? その油断が全ての終わりよ!」

「ぐああっ!」



 ちくわを一閃。命こそ刈り取ることは無いが、男は気絶してしまった。

 今、戦いが行われている基地内にはちくわによって気絶したものがおよそ一万。

 たった一人で、アメリは全てを屠っていた。



「囲めぇ! 勝てないわけ、ない!」

『おう!』



 アメリを包囲したのは、この基地に駐在していたexm大隊の兵士達。



「ふふっ、私の言い分が通らないというのに、負けられないでしょ?」

「行けええええっ!」



 大挙してアメリに押し寄せる兵士達。

 しかし、アメリは笑みすら浮かべてみせた。



「ちくわ流抜刀術『深淵の中心・超重力渦』」



 アメリがちくわを一振り。

 それだけで闇が世界を包み、重力の渦が兵士達を襲う。



 ――――ちくわの中心に空いた穴は深淵の闇の如し。

 見るものを異世界へと引きずり込むその穴は、なんと表そうか。

 それはまさに、宇宙に渦巻くブラックホールではあるまいか。

 禍々しき魔力を帯びた超重力渦は全てを吹き飛ばし、何人足りとも触れさせない。


 身をもって味わえ、その力を。



「なんだこれは!? 最早、ちくわなんかではない!!」



 ある兵士の裏返った声は、ちくわへの恐怖がまざまざと表れていた。

 事実、彼だけではなく皆、腰が引けていた。



「あら、普通のちくわよ?」



 そう言って、アメリは今まで振るっていたちくわを食し始めた。


「うん、おいしい」

「武器を自ら捨てた……? 今しかないッ!!

 これが真に最後!! 捕らえろぉぉぉッ!!」



 兵士達も今の光景には目を見開き驚愕していた。

 だからこそ、今しかないことが分かる。

 兵士達がアメリに押し寄せようかとする、その時。



「ごめんなさい。まだ、終わりじゃないの」



 彼女は妖艶な笑みを浮かべ、懐から二つのちくわを取り出した。



「しまっ……!」

「皆さん、眠りなさいな」



 二刀流、もとい二ちくわ流で残る兵士を一蹴。

 この辺りで立っているのはアメリだけになった。


 アメリが一人で倒した数、おおよそ三万。


 とてつもない数字だった。



「さて、交渉に行きましょうか」



 笑顔で、誰に言うわけでもなく、呟いた。



 ――――結果として、アメリの交渉は成功に終わる。

 見事、ちくわの再製造を勝ち取ったのだった。

 この事変により、アメリ・ギムーヴは要注意人物として帝国にマークされる。

 また、恐ろしき力を発揮せしめたちくわは、第三級禁忌指定。

 新たに、第三級禁忌“tikuwa”が誕生した。

 また暴れられては堪らないため、アメリは禁忌とはいえ、ちくわの購入権を得る。

 なお、ちくわは一般の市場にはほぼ流通しなくなったという。



 そして、アメリは何事も無かったかのように家に戻ると、

 心配した様子のカイにこう告げたと言う。



「ちくわは孤高なのよ?」



 後世にまで残る、台詞が誕生した瞬間だった。



 これは、ちくわに狂った一人の女性が成し遂げてしまった奇跡の物語。

 傍から見れば、あまりにも無謀な話だ。

 しかし、彼女は命を懸けてまで戦った。

 彼女のちくわに対する執念は、凄まじかったのだ。

 なお、これは機密事項であり、知るものは軍上層部とその戦いに参加した者だけだ。


 通称、ちくわ事変。


 その記憶は帝国上層部の者や事変に居合わせた軍兵士達に、鮮烈に焼き付いた。



 episode“ちくわ”fin


見てくださりありがとうございました。

皆さんもちくわには、くれぐれもお気をつけを…

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