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サードパーティー  作者: なつ
第二章 一日目には過剰な演出を
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 2

 途中サービスエリアに寄ること数回。高速を降りてからしばらく経つと周りの風景は自然の山々へと変わった。道は曲がりくねっていて、数名の生徒と藤枝百合子が吐き気を訴えバスを止めて休憩することも数回。

 ようやく少し開けたところにバスが止まると、芹沢雅の誘導に従ってバスを降りた。芹沢は運転手と一言、二言ほど会話をしてから振り返る。バスはゆっくりと動き出しもと来た道を戻っていく。

 一応駐車場なのだろう、都心の公園並みの広さがある。けれど建物は見えない。

「皆さんお疲れ様です、ようやく到着ですわ」

「ううう、気持ち悪い。合宿所はどこにあるの?」

「あらあら。わたくしの別荘までここから歩いて二十分ほどです。遊歩道がありますから、それでは早速参りましょう」

 甲斐雪人は隣でトランクに半ばもたれかかっている夢宮さやかを見た。夢宮も途中で吐き気を訴えた一人だ。そういう甲斐も訴えこそはしなかったものの、さすがにあれだけ曲がりくねった道を来ると平気ではいられない。ざっとみたところ、平気そうな顔をしているのはアルフレッド・インディーと芹沢雅だけだ。

「慣れてるのですか?」

 甲斐は芹沢に聞いた。

「そうね、わたくしはここに来る機会がよくありますから。それにもう荷物も運んでありますし。荷物も運べないほどに疲れている方がありましたら、わたくしがお手伝いしますわ」

 屈託なく芹沢は言うが、誰もその申し出を受ける者はいない。いや、受けることなどできるはずもない。

「大丈夫そうですわね。それでは行きましょうか」

 ふふふと笑いながら芹沢は歩き出した。バスが来た道とほぼ反対側に小さな階段が着いていてそこを上がると土を固めた獣道が姿を現した。左右には緑の木々が迫っていて、太陽の光を抑えてくれている。

 秋になれば紅葉が美しいだろうし、この季節の遊歩道としても申し分ないほどの素敵さなのだが、いかんせん体調が着いていかない。

 藤枝百合子も同様のようで、歩きながら会話をすると、明日気分がよくなってから楽しむとのことだ。

「分かっちゃいたけど、この距離はきついっすわ」

「はぁ、天国と地獄だな」

 小野寺光一と光次が二人で大きめなトランクを運びながらため息をつく。テンションの問題もあるのだろうが、五十嵐さつきも田村澪も顔色が悪い。

「ねえねえ、甲斐くん」

 赤いソバージュの髪を揺らしながら、来栖都が甲斐の隣に来た。彼女の荷物は多くない。肩からかけているバッグだけだ。着替えしか持ってきていないのかもしれない。

「都さん、でしたっけ」

「正解。光栄だわ、覚えて貰えていて」

「十名くらいなら」

「甲斐くんって、前の全校集会のときに自己紹介してたでしょ。なんか、あの時って色々立て込んでたじゃない。それで、結局自己紹介を聞いた記憶がないのよ」

 甲斐が体育館で自己紹介をしたとき、芹沢によってマイクの電源が切られていたのだ。聞いた記憶がないのは当然だろう。

「ああいうのは苦手で。それに自分にそんな価値があるとは思えないし」

「あらあら、謙遜しちゃって。そんな子がこの合宿に参加できるわけないじゃないの」

「甲斐くんは、一年生で量子論のレポートを提出したんですよ」

 聞いていたのか、芹沢が振り返って顔を傾けた。

「提出するだけならできますよ。課題で出されたものだから、必死に」

「本当に? 量子論なんて、三年になってやっと学び始めるものじゃない」

「そうらしいですね。この学園には僕に対して意地悪をする人がいるんですよ」

「ははは、何それ。じゃあ、シュレーディンガーの猫の話も知ってるの?」

「現実にそんな実験したら世間が黙ってないですよ。ああ、でもあの時代ならやりかねないのかも」

「単純な思考実験なんだけどね、私も理系だけど、猫の気持ちを考えると涙が溢れて来ちゃうもの」

「その枕詞いらないんじゃない?」

「マクラコ?」

「都さんならシュレーディンガーの猫をどう解釈しますか?」

「現実的な話じゃない。量子の世界の揺らぎが、私たちの世界の揺らぎをそこまで支配しているなんてありえない」

「ありえないというのは感情的な表現です」

「だって、ありえないと思わない?」

「神はサイコロを振る」

 来栖は一度黙ってからもう一度赤い髪を揺らした。

「うん、甲斐くん、あなた素敵だわ。こんな話ができる一年坊なんて、いないよ」

「いいわね、そちら側は」

 トランクを押しながら夢宮が甲斐を睨む。

「聞いたこともないような単語を連発して。雪くんはいつそんなことを学んでいるのよ」

「いつだろうね。半ばは望んでいないのだけど」

 顔を上げると、前方にすでに建物は見えていた。


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