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サードパーティー  作者: なつ
第一章 舞台は遠く山荘で
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 7

 純正芹沢学園の校門の前のロータリーに小さめのバスが止まった。

 芹沢雅がバスの運転手に挨拶をすると、振り返り顔を傾けて笑顔を作った。それに答えることができたのは、わずか数名である。

 甲斐雪人は隣を見ると、一時期は意気を回復させていたものの再び白くなった夢宮さやかがいる。持っているのはトランク一つ。着替えと残りは勉強用具である。甲斐の荷物も同じようなものだ。

「ミヤビさまが一緒だとはいえ、この鬱っぷりは雪くんには分からないよね」

 今日これで何度目のため息だろう。最初は励ましの言葉をかけていたが、効果がないと判断し甲斐は無視をすることに決めていた。

 集まっているメンバーをひと通り見渡し、甲斐が知っている顔は芹沢と夢宮、それから今日は紫色のスカーフが揺れている藤枝百合子だけだった。基本的に学生だけで合宿は行われるのだが、引率として藤枝が着いてくることになった。

 バスの助手席側近くのドアが開き、順にバスに乗り込んでいく。甲斐が観測した限り、藤枝を除いて教える側の人間が甲斐と芹沢を入れて五名、教えられる側が夢宮を入れて六名の合計十二名だ。各学年二名ずつ、教える側の一年生は甲斐だけなのだろうと推測した。

 甲斐がバスに乗り込もうとしたとき、そこに立っていた芹沢が膝を折り顔を傾ける。

「ありがとうございます」

「いえいえ、面白そうですし」

「ええ、面白いですわ」

 さっとジェスチャーをされ、甲斐はバスに乗った。バスは小さいが中は思ったよりも広く、少し背を屈めるだけで歩けるほどだ。おそらく夢宮ならまっすぐ立っても天井に頭がつかないだろう。それに、左右にある座席のシートには柔らかそうな素材が用いられている。開いていたのは前の席で夢宮の隣である。夢宮が手招きをするので、甲斐はトランクを上に載せるとその隣に座った。藤枝は通路を挟んで反対側の窓側に座っていて、その隣も開いている。最後にバスに乗った芹沢が通路の正面に立ち、もう一度膝をおった。

「みなさん、ごきげんよう」

 隣の夢宮が唇を突き出し、小さな声でぶーという。小さな遠慮だ。

「まずは引率を引き受けて下さいました藤枝先生に感謝を」

 芹沢はさっと顔を動かし、藤枝を一度だけ見る。藤枝も同じように一度だけ顔を動かすと、片手を上に軽く振る。

「遊びの合宿じゃないし、楽な仕事。私は観光目的だけどね」

「ぶー」

 夢宮の声はさっきよりも大きい。わずかに起きる笑い声。

「ふふふ。ええ、秋に近づけば紅葉が美しいところですが、この季節も森林浴のためのコースもあります。どうぞ、先生はご自由に」

 それから芹沢の顔が甲斐に向けられる。

「甲斐雪人くんは、以前全校集会で紹介しましたが、転校してきてまだそれほどの期間が経っていません。一年生ですがとても優秀で期待が持てる生徒だと先生方から報告がありました。ですので、来年以降のことも考えて参加をお願いしましたところ、快く承諾をして下しました、ありがとうございます」

 甲斐は緊張して、一度だけ頭を下げた。それを見て、芹沢は再び微笑む。本当に反則なしぐさだ。

 バスがゆっくりと動き出す。芹沢は片手で体を支えると、甲斐の後ろに座った人に視線を送る。

「それから教師として参加を快諾して下さいました皆様、二年生の柳ヶ瀬尋司くん。彼は歴史のスペシャリストです。二年生のアルフレッド・インディーくん、英語なら彼に聞けば間違いありませんわ」

 二人は軽く立ち上がると同じように一礼した。

「よろしくお願いします」

「アルフと呼んでください、コールミー、アルフ」

 柳ヶ瀬は長い髪を左右に分けていて、厚い四角の形をしためがねをかけている。制服である必要はないが、制服を着ている。隣のアルフレッドの体格は非常にしっかりとしている。金髪を角刈りにしていて、アメフトをやっていますと言われると納得してしまうだろう。

「それから、三年生の来栖都さん、理科系の質問は彼女にするとすぐに答えてくれます。同じく三年生の坂崎陽菜さん、ふふふ、彼女はお料理全般です」

 来栖はきれいな赤色の髪をしている。染めたのだろうが痛々しくない。短めのソバージュで、白と黒のコントラストのあったシャツに髪よりも目立つ赤の短いネクタイをしている。一方の坂崎は黒のストレートが際立って見える。顔が小さくて下手したら八頭身くらいありそうだが、座っているので身長はよく分からない。ただ、坂崎が料理担当だとすると、教わる側は残り五人だ。

「都です、よろしく」

「坂崎です。疲れた頭にぐっとくる料理をがんばってつくります。期待して下さい。でも期待しすぎないでください」

 笑ったのは約半分。

「本当に貴重な休みを合宿にお付き合いくださいまして、ありがとうございます。それでは、残りは自己紹介をしてもらいましょう。学年とお名前、それから問題の教科を」

 芹沢は一番前に座っている夢宮を見た。夢宮はしずしずと立ち上がると、一度全体を見渡してから軽く礼をして座りなおす。

「夢宮さやかです。一年です。ほぼ、全教科が絶望的でした」

 後半の声が小さかったが、芹沢以外の空気が一瞬止まったのを甲斐は感じる。

「全般?」

 後ろの柳ヶ瀬だ。それから、バスの中の空気が緩んでいく。空気は、自分よりも下がいることへの安心感のようだ。逆に夢宮もこの空気の危険さを感じ、さらに小さくなる。

「わたしはやればできる子よ」

 と、甲斐にだけわずかに聞こえる声で彼女はつぶやいている。

「小野寺光次、一年っす。大体みっちーとみんな呼びます。今回のテストで理科系が苦手だということに気がつきましたので、来栖さんに質問攻めにします」

「低レベルな質問は無視するけど」

「失敗しましたー」

「お前はだまっとれ。俺は小野寺光一、こいつの兄で二年生。相変わらず文科系がだめで、今年も参加となってしまいました。努力します」

 二人の顔は兄弟ということもありよく似ている。が、兄の光一が坊主にしているのに対し、弟の光次は髪を肩辺りまで伸ばし茶色に染めている。それに苦手な教科も正反対だ。似ていないといえば似ていないが、根本の作りはやはり同じなのかもしれない。

 彼ら二人の後ろに座っていた窓側の女性が立ち上がる。

「私は五十嵐さつき。二年です。覚えるのが苦手で、歴史に問題がありました」

「私で最後ね、私は二年の田村澪。英語がだめだという話」

 五十嵐さつきは横に大きい。細い髪を一つにまとめているようだ。その隣の田村は五十嵐の影に隠れてしまいそうなほど小さい。篠塚桃花よりは大きいだろうが、それでももしかしたら百五十もないくらいかもしれない。

「はい、ありがとうございます。ここから合宿を行います山荘までは、まだ時間があります。おトイレなどご要望がありましたら遠慮なく声をかけてください」

 そういうと芹沢は藤枝の隣にようやく腰かけた。バスはすでに高速に乗っている。


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