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サードパーティー  作者: なつ
第一章 舞台は遠く山荘で
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 5

 ゆっくりとした時間が流れている。篠塚桃花の腰かけているベッドよりも高い位置から降り注ぐ日の光が彼女の膝に置かれた本のページを照らしている。古い書体の横文字が並んでいるが、ページをめくるペースは日本語で書かれているものと大差ない。

 以前読んでいる途中で夜が明けてしまい途中になっていたものだ。あの時は別の、もっと刺激的な本に集中していたため今読んでいる本がこれほど面白いものだとは気がつかなかった。

 ぎしっと軋む音に篠塚の胸がはねる。珍しいことだ。理由は二つ考えられる。たまたま今読んでいる本がホラー小説であり、薄暗いこのスペースに軋む音というシチュエーションは似ていなくもない。もう一つの理由は……

「もも、じゃまするよ」

 本を脇に置き正面を向くと甲斐雪人が立っている。

「じゃまするなら帰ってくれ」

「ひどいなあ。どうせももが絡んでるんだろうと思って確かめにきたんだけど」

「何の話だ?」

「合宿。前のテストにももが作った問題があったんだって?」

「甲斐、もしかして合宿に行くのか?」

「誰のせいだよ」

「そこまでお前頭悪かったのか。失望したよ。それとも解答欄でも間違えたのか」

 篠塚の隣に座ると、あのなぁと甲斐は頭を押さえる。

「教える側でだよ。せっかくの休みなのに」

「甲斐にそんな能力などないだろう」

「ももが芹沢さんに頼んだんじゃないのか?」

「わたしが?」

 そんなことを雅お姉さまに頼むはずなどない、そんなことをすると、こうやって甲斐がここに来ることがしばらくできなくなってしまうではないか。という言葉を飲み込む。

「何?」

「な、なんでもない。それはすごいことじゃないか。お姉さまも甲斐の能力を理解し始めたということだ」

 それから何を話したのか覚えていない。こんなことは今までなかった。甲斐が楽しそうな表情をしているのに篠塚はそれだけ苦しくなる。なぜだろう。

 甲斐が立ち上がり再びベッドが揺れる。今日は泊まっていかないのか、と聞きたいのだけど声がでない。

「それじゃあ、おやすみ」

 篠塚は答えない。

 ぐるぐると世界が回る。

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 どうしてわたしはこんなところにいるのだろう、もう何千回と答えた質問だ。

 答えはすでに出ている。

 考えても無駄だ。

 無駄なことだ。

 分からない、分からない。

 すべて嘘だ。

 嘘ではないのかもしれない。

 真実だ。

 篠塚と芹沢の、

 その色は美しいけれど、

 穢れている。

 穢れているけど、

 美しい。

 すべてが遅い、

 遅すぎる。

 もう取り返すことができないほどに、遅れてしまっている。

 大丈夫、まだ間に合う、

 間に合うから、急ぐ。

 まだ知らないのかもしれない、

 知っていたら、間に合うなんて観測はできないかもしれない。

 分からない、

 けれど、急ぐ。

 急げばそれだけ、世界は遅くなる。

 遅くなり、遅くなり、すべてが止まる。

 ぐるぐると回る世界が、いつの間にか止んでいる。もしかしたら時間も止まってしまったのかもしれない。ありえない話ではない。時間なんて相対的な存在はいつ失われてもおかしくない。

 体が柔らかいものに包まれている。

「あらあら、ようやく戻ってきましたね」

「お姉さま」

 いつからか分からないが芹沢雅が篠塚の隣にいた。体を捻るようにして篠塚を抱きしめている。

「もう大丈夫だ、離れろ」

「泣いたあとが残ってますわ。最近また弱くなったんじゃない?」

「大丈夫だ」

 俯き、篠塚は小さくなる。

「それも甲斐くんのせいなんじゃない?」

「ち、違う」

 体を離すと、芹沢はぽんと篠塚の頭を叩いた。

「いいじゃない。いい傾向だわ」

「それよりもお姉さま、甲斐が合宿に参加するって、どういうことだ?」

「甲斐くんにはそれくらいの能力がありますわ」

「能力など関係ない。甲斐はまだ一年だ」

「ええ、分かっています」

「何を企んでいる?」

「企んでいるなんて、ひどい言い方だわ。大丈夫よ、わたくし甲斐くんを奪おうなんて思ってませんから」

「そんな心配をしているんじゃない」

「そうね、全く考えてないわけじゃないわ」

「危険だ」

「そう、危険。でも必要ですわ」

「お姉さまを危険に晒すわけにはいかない」

「本当のお姉さまは桃花よ」

「だから、危険だ」

「危険なのは桃花のほうだわ。油断しないことね。これ以上ここを知るものが増えるならば、ここから出なければいけないかもしれないわ」

「わたしは幽霊だ」

「幽霊は本を読まない」

「こんな本を読む生徒もいない」

「だからその本はマークされている」

 ちらと脇に置かれた本を見る。

「……返しておいてくれ」

「分かりました、お姉さま」

「お姉さまはあなたよ」

 篠塚は一度だけ顔を傾ける。


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