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はたから見ても夢宮さやかは真っ白だった。
授業中に先生が名指したときでさえ全く反応しないほどだ。甲斐雪人はペンを回しながら神田隆志を見ると、彼は肩をすくめて笑って見せた。
放課後、甲斐が再び荷物をまとめていると、夢宮が魂の抜けた表情で甲斐の机の前に来る。
「ゴメンナサイ」
消え入りそうな声だ。
「旅のしおりを返して下さい」
差し出された両手はわなわなと震えている。神田が夢宮の背中を軽く叩く。
「いや、今日は面白かったよ、なかなか。芹沢さんから警告を受けて、俺も協力して一緒に勉強しようって言ってたのにな。で、旅のしおりを作るために徹夜をしておいてこの結果とは、力を入れるところを完全に誤ってるよな」
普段ならパンチでも飛びそうなところであるが、夢宮はまるで反応しない。神田もさすがにやばいと思ったのか、頬をぽりぽりと掻いている。
「旅行楽しみにしてたけど、残念。まあ、これはまた別の機会ということで」
「いいえ、もう、わたしなんて」
本当に消えてしまいそうだ。
「そんなに気を落とすことないよ。楽しそうじゃない、合宿って」
「地獄です」
「その合宿、僕も参加するし」
ぱっと夢宮の顔に色が戻り、不思議そうな顔をする。
「そんな嘘のような慰めいらないし」
「嘘じゃないよ」
「……もしかして、教える側?」
甲斐は頷く。甲斐は立ち上がると、夢宮の耳元で続けた。
「それに、芹沢さんも教える側で行くそうだよ」
「本当に?」
すでに声に力がこもっている。
「これは秘密だから、口外しないように。なんだかあまりにも真っ白だからね」
「本当なの?」
もう一度甲斐は頷く。夢宮の表情が次第に壊れていく。
「にへへへ」
くるっと振り返ると、夢宮は他の生徒のところへ行き旅のしおりを勇んで回収し始めた。
「おお、すごい変わりよう。いつの間にかあいつの扱い方覚えたな」
「さすがにあれだけ真っ白だとかわいそうだから」
「それに、お前合宿に参加するっての、本当なのか?」
「昨日芹沢さんにお願いされて」
「ああ、それで昨日彼女が宿舎に来てたのか。それにしてもすごいことだぞ。普通一年目から教える側になんて回れないぞ。二年、三年の中でも優秀な人材が選ばれるものなのに」
「だから困ってるんだよ。断るわけにもいかないし、上の学年の人には教えられそうもないし」
「まあ、がんばれってことだな」
大きく二回神田は頷くと、甲斐の肩を叩いた。




