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サードパーティー  作者: なつ
第一章 舞台は遠く山荘で
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 3

 図書棟で課題の準備を終えてから甲斐雪人が宿舎に戻ると、突然スリッパが甲斐の頭めがけて飛んできた。

 避けることもできず。

 頭を押さえて入り口に広がるロビーを見渡すと、口元に手を当てて驚いた表情をした芹沢雅の姿があった。彼女を中心に輪ができていて、それが一様に甲斐を睨んでいる。その中に、ものを投げ終わった格好をした夢宮さやかがいた。見ると左手にもスリッパが用意されている。

「ミヤビさまを待たせるとはどういう了見だー」

 と、彼女の叫び声があがる。それを芹沢が抑える。

「わたくしが勝手に来ただけですから、それに待つというほど待っていませんわ」

「でも、でもミヤビさま」

「さやかさん、どうか彼を怒らないであげて」

 顔を傾けて微笑む彼女の姿を見て、夢宮の血の気が引いていく。人だかりからも囁き声が消える。

「えー、っと」

 未だ頭を押さえたままの甲斐のすぐ傍までくると、芹沢は軽く膝を折るとこんばんは、と挨拶をした。

「ええっと」

 さっと彼女は手を動かすと、宿舎の外に出るようジェスチャーをした。まだ図書棟から借りた本を持ったままだったが、甲斐はしかたなく宿舎を出る。中からは黄色と黒い声が響いている。

「なんだか、後が恐いんですけど」

「心配ありませんわ。みんなとてもよい方々ですよ」

「それは芹沢さんだからですよ」

「おかしなことを言うのね」

 言いながら芹沢は微笑む。まるで理解していないようだが、その表情は本当に反則だ。これ以上何も言うことができない。

 宿舎の前から続く小道を抜けて校門と校舎を結ぶ広い通りを北に折れると、芹沢は一度だけ時計塔を見た。すでに太陽は落ちて暗くなっているが、時計だけは白く輝いている。

「もうすっかり体調は治ったみたいですね」

「大丈夫ですわ。わたくしも早く学校に戻りたかったですから」

 口元に手を当てて芹沢は微笑む。

「それに、きちんとお見舞いに来て下さったのは甲斐くんだけなんですよ、ですからお礼をさせて頂こうと思いまして」

「そうなんですか?」

「ええ。先生方は何名か見えましたけど」

「まあ、外出許可を得るのにすごく時間がかかりましたからね」

「厳しいでしょう。要領が悪いと結局外出許可を得られないで終わってしまいますから」

 もう一度彼女は笑う。

 第一学習棟と第二学習棟の間にある庭園で彼女は止まった。中央から少し外れた位置に水がめを持った女神像があり、そこから水が落ちている。周りには小さな池ができていて、それが止むことはない。芹沢にとってあまり来たくない場所ではないかと甲斐は思う。あそこの女神像に無理やり縛り付けられて脅されたのだから。

「平気ですか」

「問題ないですわ。すでに過去のことですから。それに甲斐くんにお願いがあるからわたくしは待っていたのですよ」

「ももの差し金ですか」

「違いますよ。でももしかしたら遠からずかもしれませんわ。彼女が作った問題も混ざっておりましたから」

 甲斐は理解できず首を捻った。

「毎年のことなんですが、先日のテストをもとに合宿を休みに行いますの。成績の下位のものを集めて、勉強合宿なんですけどね。そのメンバーはすでに決まっているのですが、合宿で教える側の教師も同じテストから選ぼうと思いまして」

 嫌な予感がする。

「さすがですわ。甲斐くんなら教師として一緒に合宿に来て下さいますよね」

「途中で感づきましたが、実は休みの予定はもう決まってまして」

 鞄から甲斐は夢宮から貰った旅のしおりを取り出した。

「みんなで旅行に行こうって」

「そうなんですの?」

 ぺらぺらと旅のしおりを芹沢はめくる。最後のページで彼女の動きは止まると、にっこりと甲斐に笑いかけた。

「夢宮さやかさんが企画なんですね、この旅行」

「そうです」

「彼女は合宿に参加するメンバーですわ」

 甲斐は神田の言葉を思い返す。

「休み返上で勉強をしていただきます」



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