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サードパーティー  作者: なつ
第四章 選択肢は限られる
27/28

 6

「なるほどな。お前の説明はよく分かった」

 薄暗い部屋で、篠塚桃花は本を読みながら返事をする。

「だが最後の詰めが甘かったな」

「うん、そう思う。だけど、間違った判断じゃなかったと思う」

「そこではない。その一つ手前だ」

「一つ前?」

「殺人は三つで完結していた。違うか?」

 どうだろう?

「お姉さまが気絶した事件を加えれば四つだ。そして象徴も四つだった。まずこれを認識しなければならない」

「そうだね、四つの本で四つのメッセージが残されていた」

「断言するが、もしお姉さまが犯人であればもう一つ死体が必要だ。そして藤枝もそのことに気がついていたはずだ」

「先生が?」

「その四つの本が見つかったのがどこだかお前は知っているな?」

「時計塔の部屋だろ? しかもももが読んでいた本じゃないか」

「そうだ。ならばお前も気がついておかしくないことだ」

「何だよ」

「わたしが読んでいた本は五冊だ」

 五冊?

「お姉さまが犯人なら五つ目の象徴が必要だ。いつかお前にも話しただろう、世界は緻密なからくりでできてていると。ラプラスの悪魔に関する本を読んでいた。わたしはそのことをお姉さまに教えてあるし、藤枝もあの部屋を見たのなら、あそこで読まれていた本が五冊だと知っていたはずだ」

「だけど、そんなのって」

「むろん証拠にはならない。だが、お前が切り捨てたもう一つの可能性のほうが現実的だ、という結論だ」

「ありえない」

「第三者だが、全くの無関係ではないものがいた。お前は日比野が逃げたという表現に納得したことに疑問を持たなかったのか?」

「だけど」

「そうでなければ、まだお前はあそこで尋問を受けていただろう」

「そうだけど」

「これは犯人がお姉さまに罪を着せようとした結果だ。お前は見事犯人の思惑通りの推理をしただけだ。だが、それを公表しなかったことだけはよい判断だ」

「それじゃあ犯人は芹沢さんに恨みを持っていて、あの場所に行ったということ?」

「恨みではないな。妬みだろう。それも雅の名前から判断して、それなのにお嬢様のような行動を取っているのが許せなかった、そんなところだろう」

「それでも」

「おそらくお姉さまが来年免許を取ったとしても、自分であそこまで運転できないだろう。住所だけであそこに向かおうとも、途中からは私有地だ。それでも、甲斐よ、あそこに辿りつけるものがいるだろう」

「警察?」

「日比野も大いに迷ったはずだ。甲斐はどうやってあそこまで行ったのだ」

「バスに乗って」

「犯人はその運転手だ」

「は?」

「それならばすべての犯行が可能だ。関係者であり、あの場所を知っている。そして、これはお前が知らない情報になるが、殺された三人とも顔見知りだ」

「だけど」

「お姉さまは嘘をついていない。二階へ行くよう指示があったから二階にあがった。鏡をあそこに飾った記憶がないといっている。それなら犯人が飾ったのだろう」

「どうして?」

「L字に折れた角に二箇所鏡を立てれば十時になる。一連の事件との兼ね合いだな。お前が知らなくてもよい。だが、ドラキュラに見立てたのならば、十字架という判断を犯人は期待したのかもしれないが。お前がその可能性に気が付かなかったから、犯人はいらいらしたかもしれないな。まぁそれはいいが。時系列的に説明するなら、犯人は外から様子を見ていたのだろう、それに盗聴器も用意してあったのだろうな。お姉さまが部屋からいなくなったのを確認すると、部屋に入りテストを盗む。そこでお姉さま宛のメモを残して、二階へ行き曲がり角の所で待っていた」

 篠塚は相変わらず本をめくりながら、説明を続ける。

「メモを見たお姉さまは、その指示通りに二階へ向かった。L字のところで犯人に襲われ、文字通り気絶した。犯人は一階に戻り、メモを消してから再び二階へ行き、鏡を割った。そしてそのまま窓から飛び降りた、と。山の斜面に建っているのだし、二階と言ってもそれほど高くはあるまい」

 そこから先は単純な話だ、深夜の安全な時間を利用して三人を殺した。

「犯人は合宿の形式をよく知っていたのだろう。それを利用してお姉さまを犯人に仕立てあげようとした。そしてそのために、お姉さまが犯人なら、もう一人疑わしきものをが必要となるからな、だからテストを盗み、夢宮に疑いが掛かるようにもしたのだろうな」

 本から目を離して篠塚は甲斐を見上げる。

「甲斐よ、この可能性と、お姉さまの自演の可能性、どちらがありえると思う?」

「もう答えは出ているじゃないか」

「今回情報が少なかったのは確かだが、絶対除外して安全な雅を容疑者に入れてしまったから起きたミスだ。今後は気をつけよ」

「悪かったよ」

「怒ってなどいない。お前が変な推理をするのは想定内だ。ただ、日比野から報告を受けたときは、正しい判断をしたと思ったがな」

「だから、悪かったって」

「怒っていないと言っておるだろう。むしろ感謝したいくらいだ」

 篠塚の手元を良く見ると、本の上下がさかさまだ。見てはいるが読んではいないようだ。甲斐は篠塚から本を取り上げる。

「あ、こら、何をする」

「まだ読むの?」

 篠塚は一度俯いてから体を捻り、甲斐の膝に乗った。俯いた表情はよく見えない。けれど、甲斐は愛おしく感じる。

 どうしてだろう、

 分からない。

 ああ、分からない。

 まったく分からない。

 今回は分からないことだらけだ。

 だから少しだけ、そこに飛び込むのも悪くないことだ。

 俯いた篠塚の頭に手を乗せて、甲斐は彼女を抱きしめた。


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