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サードパーティー  作者: なつ
第四章 選択肢は限られる
24/28

 3

 甲斐雪人は考える。犯人は自分ではない。夢宮さやかもありえない。自分が寝ている間に彼女が犯行を行うことができるだろうか。といっても、甲斐もそれほど寝ていないし、こちらが確実に寝ていなければ、犯行を行えるはずがない。そして、睡眠薬のようなものを飲まされたわけもなく、つまりは特別に睡魔があったわけでもない。あるいは、もし、甲斐の部屋に来る前に彼女が犯行を終えていたとしたらどうだろうか。だが、11時台には田村、藤枝、坂崎がお風呂を使っている。

 お風呂?

 甲斐は違和感を覚え、小野寺光次の部屋を思い出す。彼の服はなかった。脱衣所にもなかった。服を盗られたのだろうか、何のために?

 もし脱衣所に彼の服があったら、彼の死体の発見は大きく遅れるだろう。芹沢雅がお風呂を掃除しようとしたとき、声をかけるかもしれない。

 だとしたら、やはり小野寺光次はあそこで殺されたのかもしれない。

 来栖都はずっと寝ていたという。坂崎陽菜に言わせれば、当然のことのようだ。

 そして田村澪とアルフレッド・インディーの話を信じるなら、二人にも犯行は不可能だ。残るのは、芹沢雅、藤枝百合子、柳ヶ瀬尋司、坂崎陽菜。

 藤枝はどうだろう。本当に酔っていたのだとしたら、とても犯行なんてできそうに思えない。だが、それが演技だとしたら。一階で皆が寝静まるのを待ち、確実に安全なタイミングで犯行を行うことができる。

「顔が怒ってまるわ」

 坂崎と芹沢がキッチンから戻ってきながら、甲斐の前にコーヒーカップを置く。芹沢が両手に持っていたサンドイッチをテーブルに並べる。

 殺された三人はどうなのだろう。三人に共通点があるだろうか。小野寺光一と光次。光一は二度目の合宿だという。それに五十嵐さつきも教わる側でもある。

「ああ、そう言えば」

 柳ヶ瀬が思い出したように手を打った。

「俺が部屋で寝る準備をしていたとき、五十嵐が一度俺の部屋に来たな。課題で分からないところがあるので質問がしたいって」

「何時ごろですか?」

「さあ、十二時を回ってたと思うが。眠たいから明日にしろって追い返したけど」

「他に、昨晩のことで覚えてることがありませんか?」

 甲斐はテーブルを見渡した。

「僕は十二時少し前に一度キッチンに下りてきました。夜食をつくるために。そのとき先生はここでもう飲んでいました」

「ええ、覚えています。確かお菓子を運んでもらいましたかしら。そういえば、それってどこに行ったの?」

「それを片付けたのは私です」

 坂崎が答える。

「一時少し前に、わたしもキッチンに来まして。その、お薬を飲みました。そのとき先生はもう眠っていました。ですので、お菓子を片付けて、ボトルも片付けようとしたのですが、抱きかかえてましたから」

「そ、そう?」

「それからすぐに二階に戻りました。お風呂場はどうだったかしら、意識してないので覚えていません」

「失礼ですが、薬は何の?」

「生理痛です。わたし、結構ひどいので、皆さんにご迷惑掛けたくありませんから」

「来栖さんに聞きたいのですが」

「え、はい、わたし?」

「小野寺光次さんが質問には来なかったですか?」

「さあ、わたし、本当に夜苦手だから。もしかしたら来たかもしれないけど、分からない」

「来栖さんはパソコンも得意ですか?」

「分からなくはないけど」

「今から光一さんの部屋に行きませんか? 彼はパソコンを持ってきていました。もしかしたら何か残っているかもしれない」

「ええ構わないですけど」

「ただ、あまり気持ちのよい状態ではないですけど」

「そ、そうよ、彼は部屋で殺されてるんでしょ?」

「行けませんか?」

「わ、分かったわ」

「他についてきてくれる人はいませんか?」

 手を上げる人はいない。パソコンを得意な人は少ないのかもしれないし、それに場所が場所だ。甲斐は立ち上がると来栖を連れて廊下へ出た。

「ねえ、甲斐くん、本当に私たちの中に犯人がいるの?」

「僕が犯人かもしれないとは考えていませんか?」

「そんな風に見えないもの。私も違うよ?」

「ありがとうございます。先ほどの話もそうですし、僕はここがどこなのかよく分かっていません。来た道を考えると、まわりはずっと山です。こうして来たことがあったとしても、次現地集合となったら、とてもじゃありませんが、ここにたどり着けません。それに、あんな装飾や文字を残しておいて、僕達と関係がないなんてことがあるでしょうか?」

「ほら、装飾をしたのは別の人かもしれないじゃない」

 甲斐は立ち止まった。

「それは、考えてみなかったけど……」

 そんなことがあるだろうか? 第三者がこの山荘にやってきて、あの三人を殺す。偶然その死体を見つけたメンバーの誰かが、あの装飾をする。あるいは、逆か……いくらなんでも不自然すぎる気がするが。

「でも、自分たちがこうして生きている限り、彼ら三人を狙ったと考えて間違いないと思います。それともまだ殺人は続くでしょうか?」

「さあ」

 来栖は肩を震わせた。狙われたのはあの三人に間違いがない。そして、四冊の本のキーワードはすべて出尽くしている。

「でもだったら、どうしてお嬢様は無事なのかしら。ああ、もちろん無事なのは嬉しいのよ。でも、お嬢様が襲われたのって、昨日私たちがカレー食べてた時でしょ?」

「それにメッセージも残っていた」

 分からない、と甲斐は心のなかで呟いてからもう一度歩き始める。階段を登り、その突き当りまでくる。左手には鏡、正面には今はカーテンがあるが同じように鏡が飾られている。少なくとも芹沢はその鏡を知らないと言っていた。そしてここで、右から襲われた、と。証言を思い出しながら、右を見る。廊下はまっすぐ続いていて、ここから一番奥が小野寺光一の部屋だ。

 来栖に少し待っているよういうと、甲斐は先に入り、ベッドからシーツをとって、光一の体にかけた。それから来栖を中に入れる。

「こ、これはこれでリアルね。でもありがとう」

 机の上にパソコンがある。その隣には課題の紙が置かれている。ざっと数えて三十枚ほどあったが、半分は小野寺光次のものだ。どうやら二人で一緒にここで課題をこなしていたようだ。小野寺光次の分の十二枚はすでに終了している。二時間くらいですべて終わらせることはできるだろう。光一の十七枚はあと八枚が手付かずだ。九枚なら一時間半くらいだろうか。

「ネットにつないでたみたい。掲示板で、この課題の内容を質問して、返事を貰っている。ざっと見たところ、そうやって課題をこなしてたみたいね。全然自分で考えてるところがないみたいよ」

「他に最近使ったものは?」

「ワードで殴り書きされたこの文章ね、私は存在する。タイトルはアイーシャとドラクの物語ってあるわ。保存されたのは夜中の四時十二分」

「アイーシャとドラクってどういう意味?」

「さあ。何かの小説の登場人物なんじゃないかしら」

「掲示板の最後の更新は?」

「三時半。質問内容は、その紙の通り、答えは更新されてるけど、彼の返事はない」

「光次の質問は?」

「理系の内容は夜中の一時五十分ね。二時八分に、ありがとうという内容が書かれているわ。どちらが返事をしたのか分からないけど」

「なるほどね」

「何か分かったの?」

「進展なし。他に怪しいファイルはない?」

「怪しいファイルはたくさんあるけど、関係なさそう」

「何、怪しいって」

「変な画像よ、全くいやらしい」

「ああ、そう。五十嵐さんの部屋にも寄って行きたいんだけど、大丈夫?」

「そこには死体ないんでしょ?」

 甲斐は頷く。来栖を先に立たせると、部屋から出る。そこで一度大きく深呼吸をしてから、五十嵐の部屋へ。

 扉を開けて、机の元へ行く。課題の枚数は三十二枚。こなしてあるのは二十五枚だ。四時間以上かかる量だろう。早くても一時くらいだ。ここで手が詰まって柳ヶ瀬に助けを求めに行ったのかもしれない。

「何か分かったの?」

「進展なし」

 甲斐は答えた。


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