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ダイニングに戻る途中、甲斐雪人たちは二階の部屋をすべて見て回る。けれど五十嵐さつきの姿はどこにもなかった。一階に降りて、トイレを覗き、それからリビング、ロビーを通ってダイニングに入った。全員の視線が一斉に集まる。
「お待たせしました」
「それでどうなった? 二人とも殺されてたのか?」
柳ヶ瀬尋司が眼鏡を動かしながら震えた声を出す。
「違いますわ」
甲斐も最初の位置に座る。
「現状を説明します。殺されていたのは、一人だけ。小野寺光一さんが部屋で殺されていました」
「五十嵐さんは?」
「どこにもいません。念のため皆さんのお部屋と一階を見て回りましたが」
「それって、彼女が殺したって話?」
「分かりません」
「分かりませんって」
「柳ヶ瀬さん、落ち着いて下さい」
甲斐は立ち上がった。
「落ち着けって、ふざけるなよ。二人も殺されてるんだぞ、どう落ち着けっていうんだ」
「そんなことは全員分かっています。それでも落ち着いて下さい」
「うるさいな、無理だよ」
「無理なら黙れ!」
甲斐は叫んだ。
「お前は何もやってないじゃないか。ただ震えてるだけで。そんな奴がでかい口を叩くんじゃねぇよ」
「甲斐くんこそ、落ち着いて下さい」
芹沢の手が甲斐の胸を抑える。ビクッと甲斐の体が跳ねる。
「す、すいません」
芹沢に頭を下げてから甲斐は椅子に座りなおした。柳ヶ瀬は俯き、歯軋りをしている。
「とにかく、まずわたくしたちがやらなければならないことを考えましょう」
「警察へは連絡したの?」
来栖都が手を上げる。
「そうだわ、忘れてたわ」
「先生、ロビーの下駄箱の近くに電話があります、それで警察に連絡を」
藤枝百合子は返事をすることなくダイニングから外へ出る。精神的にだいぶ疲れているようだ。
「本当に五十嵐さんが殺したのかしら?」
「それは分かりません。彼女の部屋を拝見しましたが、荷物は置いてありました。課題の紙も途中の状態で、少し部屋を出た、という印象を僕は受けました」
「逃げたのかもしれないわ」
「分かりません。ですが、外を探す必要もあります。柳ヶ瀬さん、今度はご一緒できますか?」
「さっきは悪かった。そういうのは男の役目だな」
柳ヶ瀬は立ち上がる。
「それって最低の思想。わたしも行く」
来栖も立ち上がる。そこへ藤枝が戻ってくる。
「お電話、代わってもらえますか、場所の説明ができなくて」
「あら、分かりましたわ。山奥の僻地ですからね。わたくしも住所しかわかりませんわ。坂崎さん、田村さん、アルフくんはここで待っていて下さい」
「ミーも、だいぶ良くなった、手伝うよ」
「いいえ、ここにいて下さい」
「オーケー、それが役目ね、徹するよ」
甲斐も立ち上がり、ロビーに移る。芹沢は受話器を持ち、警察と話をしている。電話は通じているようだ。数時間もすれば警察が来るだろう、それまでに甲斐ができることは何だろうか。
もし、篠塚桃花がこの状況を見たら、すぐに犯人を突き止めることができるだろうか。
けれど、今彼女はいない。
それなら、自分で考えるしかない。
どうして自分が?
だって、しょうがないじゃないか。
あの時だって、
結局……
「おい、甲斐、行くぞ」
柳ヶ瀬はすでに靴を履いていた。来栖もブーツを履いている。ジャージにブーツは激しく似合わない。
甲斐も靴箱から自分の靴を取り履いた。
柳ヶ瀬が玄関を横に開ける。次の瞬間、柳ヶ瀬はしりもちをつく。
「やっ」
来栖が短い悲鳴。
甲斐も外を見た瞬間、言葉を失う。
五十嵐さつきだ。
すぐ先に仰向けに。
胸には杭。
甲斐はゆっくり近づいた。
昨日と同じ服だ。
その服に、何かが挟まっている。
甲斐は手を伸ばす。
「お、おい、触るのかよ?」
大量の紙。
おそらく、昨日のテストだ。
その一番上に、赤い文字の書かれた紙を見つける。
「聡明でなければ、良き助言にも気がつかない」




