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ダイニングのテーブルに甲斐雪人はつく。芹沢雅が坂崎陽菜にまだ寝ている人を起こしてくるようにお願いし、カウンターの近くに立った。アルフレッド・インディーと夢宮さやかはふらふらの足取りで席に座る。その様子のおかしさに、柳ヶ瀬尋司、田村澪の表情も固まる。
「何があったの?」
藤枝百合子も目を覚まし、芹沢の近くに立った。けれど、芹沢は坂崎らが降りてくるまで話を始めようとしない。甲斐もそれに逆らわない。
ダイニングは重苦しい空気に包まれている。
「おはよぅぅ」
キッチンから来栖都が入ってきた。髪を半ばアップにしている以外は昨日の学校のジャージのままだ。半ば眠っている。ダイニングの重苦しい空気に気がつき、それ以上言葉を挟まずに席につく。隣に座っている田村に、これ、食べていいの、と小さな声で聞いていた。
それからしばらくして坂崎が戻ってきた。
「五十嵐さんと小野寺兄弟は全然起きる気配がないみたいです」
「そう」
芹沢は小さく首を振ると、坂崎にも席に着くよう促した。少なくとも四人が、小野寺光次が起きてこない理由を知っている。
「さて、何が始まるんですか?」
椅子を少し後ろにずらし、柳ヶ瀬が芹沢を見た。
「ええ、率直に申し上げますわ。始まるのではなく、終わってしまったのです。さやかさんが先ほどお風呂に入ろうとしたのですが、そのお風呂場で小野寺光次さんが亡くなっていました」
「のぼせて頭でも?」
「いいえ、そんな単純なものではありません。殺されたのです」
「はぁ?」
来栖が寝ぼけ眼のまま声をあげる。
「もう一度言います。小野寺光次さんが殺されました」
「殺されたって」
柳ヶ瀬が甲斐、アルフレッド、夢宮の順に視線を走らせる。誰に合わせても冗談ではないという返事。甲斐も言葉には出さないが、否定しようがない。
「……誰に?」
「分かりません」
「いつ?」
「分かりません、昨日皆さんは何時ごろにお風呂を利用しましたか?」
芹沢雅、来栖都が9時台、甲斐とアルフレッドと柳ヶ瀬が10時台、坂崎、田村、藤枝は11時台で、夢宮が先ほど、ということだ。甲斐が12時少し前に1階に降りてきたときはどうだっただろうか、意識をしていなかったのでお風呂場の様子は確認していない。
「五十嵐さんと小野寺光一くんを起こしてきたほうがいいな」
柳ヶ瀬が顔を引きつらせる。
「坂崎さん、部屋の中は見ましたか?」
「いいえ、ノックをして声をかけただけです」
「一緒に来る勇気のある人はいますか?」
甲斐がテーブルを見回す。みんな視線が下がる。
「わたしが行きます、わたしが責任者ですから」
芹沢の隣に立った藤枝が挙手する。
「アルフは?」
「すまないね、まだ、ミーはちょっと、動けないよ」
「わたくしも行きます。皆さん、ここで待っていて下さい」
「あの、冗談じゃ、ないの?」
「都さん、落ち着いて、ここで待っていて下さい」
来栖は俯き、はいとつぶやいた。甲斐は立ち上がる。藤枝と芹沢に目で合図をしてから廊下へ出る。
「はぁ、わたし責任者失格ね。学校辞めないと」
「先生、その心配は後でして下さい」
「ごめんなさい」
「それに先生が、その、犯人ではないのでしょ?」
「違うわ」
階段を上がり、角を曲がる。五つ目が五十嵐の部屋だ。確認しながら、部屋をノックする。呼びかけるが返事はない。甲斐はノブに手を掛けて、ドアを開けた。
見たところ何もない。けれど、作り上ベッドの半分は見えない。甲斐は深呼吸してから奥へ進む。
ゆっくり。
何も見えてこない。
ベッドには誰もいない。甲斐は振り返り首を振る。それからユニットバスの扉をゆっくり開けた。
やはりいない。
使われた形跡もない。
もう一度甲斐は首を振った。
「部屋にはいないみたいです。ベッドも乱れていません。机に課題の紙がありましたが、まだ途中のようでした」
「どこへ行ったのかしら」
「分かりません、小野寺さんの部屋へ行きましょう」
「そうね」
続いて奥から二番目、小野寺光次の部屋を覗いた。中には開けられたトランクが置かれているだけで、他に何もない。トランクの中身も空だった。部屋を出て、一番奥の小野寺光一の部屋をノックする。
甲斐はノブに手を掛けて、扉を開ける。
わずかな間から、血の匂いが漂う。
隙間から中の様子が見える。
血。
ベッドの横に、仰向けに。
同じように杭を打たれ。
小野寺光一が、殺されている。
甲斐は部屋に入った。机の上に、ノートパソコンが置かれている。電源が入っているが画面は真っ黒だ。
甲斐はハンカチを持つと、パソコンに触れた。
画面がつく。
赤い文字。
「私は存在する」




