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全員の動きが止まる。
最初に立ち上がったのはアルフレッド・インディーだ。甲斐雪人も立ち上がる。叫び声は夢宮さやかのものだ。
「わたくしも参ります」
芹沢雅も立ち上がると、キッチンから廊下を走る。T字を右に曲がり、最初の扉。扉には使用中のタグが降りている。
「さやかさん、どうしたのですか?」
「が、ぎ、ぎぎ、ぎ、ち、ちよ、ちょー」
「大丈夫か?」
甲斐も声をあげる。
「わ、あた、しはだい、じょうぶ。で、も、ち、ちょーっと、まて、まって。あ、ああ。でも、ミヤビ、さま、いい、よ。あ、でも、だめ」
「何だ、開けるぞ?」
「だん、だめー、あと10秒」
「何だよ」
「ふ、服着てんのよ、待ってよ」
ようやく夢宮の言葉が落ち着いてくる。少し待つと、中から夢宮が扉を開けた。けれど、まだYシャツを適当に着ているだけだ、さっと見て掛け違えているのに気がつく。けれど、それ以上に夢宮の表情がおかしい。
「へい、ベイビー、顔色が悪いね」
「大丈夫、少し、落ち着いた。でも、見ないほうがいい。特に、ミヤビさまは」
「どうされたのですか?」
「雪くん、見てきて。浴室に、ああ、でも見ないほうがいいかも」
「はっきりしないな」
けれど、甲斐の胸は激しく打っている。夢宮が指した浴室のすりガラスの扉。そこに、うっすらと黒い塊が透けて見える。浴室の床に何かがある。
「何?」
夢宮は答えない。甲斐はアルフレッドと一度視線を合わせてから、扉に近づく。ノブに手を掛けて力を込める。
黒い塊の正体が判明する。
表向きに、
裸で、
胸に杭を打たれて、
動かない、
死んでいる、
あの顔は、
小野寺光次だ。
胸からはおびただしい血が流れており、シャワーが当てられている。甲斐の足元近くまで濁った湯が溢れている。
「シット」
「最悪だ」
浴室の壁面に、光次の血によってだろうか、文字が書かれている。
「お前は美しい」
芹沢がそれを声に出して読んだ。
「シャワーを止めますわ。甲斐くん、彼がまだ生きているか確認できますか?」
甲斐は頷く。芹沢はさっとソックスを脱ぐと浴室へと入っていく。小野寺を回るように移動して、シャワーの蛇口を捻る。甲斐はその小野寺の近くへ。だめだ。どう考えても生きているはずがない。胸に、間違いなく刺さっている。それに、見開かれた目から生気を感じられない。
「ここで殺されたのでしょうか?」
「分かりません。ですが、杭を刺されたのはここに間違いがありません。血が流れています。脱衣所に血痕は残っていませんでした」
分からない。
けれど、不思議だ。
まるで、遮断機でも下りてしまったように。
目の前の惨状を冷静に見ている自分がいる。
アルフレッドでさえ、浴室の入り口で腰を抜かしている。
自分が、分からない。
まるで、あの時と同じように、自分とはまるで関係のない状況を眺めているように。
冷静でいられる。
「平気、ですか?」
「わたくしは、あまり大丈夫ではありません。ですが、今自分のすべきことをしているだけです」
「夢宮が服を脱いで浴室に入ろうとしたのですから、脱衣所に彼の着ていたものはなかったはずです。別の場所で殺されたのか、気絶させられたのか、ここに運び込まれたのだと思います」
「あるいは、ここに誘って後で服を持っていったのかもしれませんわ」
「とにかく、一度ダイニングに戻りましょう。それで全員を集めないと」
「そうですわね」
目を瞑り、大きく深呼吸をする。
「戻りましょう」




