1
「となると、何も起きないはずがないな」
「それは断定できません」
「すべてがこのときのための準備に過ぎないかもしれない」
「断定できません」
「もしお前が昨日のうちに来てくれれば、未然に防げたかもしれない」
「申し訳ありません」
「いや、お前が悪いのではない。すべては決められていたこと。その歯車に甲斐雪人も深く関わっていたというだけのこと」
篠塚桃花は一度俯く。図書棟の中、北側にある小さなスペース、正面には日比野が座っている。両肘を突き、真剣なまなざしで篠塚の動きに気を配っている。時間が早いせいもあり、他の生徒の姿は見えない。その上夏休みも始まっている。宿舎を利用している生徒の中には実家に帰ってしまっている子もいる。いつもにまして静かな朝だ。それに、藤枝百合子もいない。そのかわり、いつもより遅い時間に校長が図書棟の鍵を開けた。調べ物がしたいと日比野から接触した結果だ。もし日比野が来なければ、今日は鍵を誰も開けなかったかもしれない。否、昨日閉めていったものがいるのだから、遅かれ司書の係りの生徒が来て開けることになっただろうが。
篠塚が日比野に気がついたのは偶然に近い。普段からそうしているとはいえ、篠塚も一応注意をし、生徒が少ない時間帯に図書棟を利用する。夜間が多いが、昼間でも同じだ。日比野に気がついた彼女が声をかけると、お待ちしておりました、と日比野は答えた。
「結論を言うと、すでに過去のことだ。犯人の特定はお前の言ったとおりだろう、間違いない。だが、遅すぎた、それだけだ。もっと早くに私のもとに来たならば、状況は変わっていたかもしれない」
「おじゃまをするわけにはいかない。それに、この学園へ入るのは容易なことではない。別件があったからこそ、こうして調べものという理由に図書棟に入ることができたのですから」
「まあよい。お前がすべきことは、すぐに山荘に向かうことだ。もし、そいつがまだ行動を起こしていないのならば、間に合うかもしれない」
「そうします」
「それに、甲斐雪人だけでは不安だ。あいつのことだ。きっと見当違いな活躍をしていそうだ」
「それほど無能に思えませんでしたが」
「お前には劣る」
「あなたにはひどく劣ります」
「そういうことだ」
「それでは失礼させていただきます」
日比野は立ち上がり、深くお辞儀をする。律儀な男だ。
だがそれよりも、恐れていたことが起きている。いずれ起きるだろう事は予想していた範囲のことだが、これではあまりにも芹沢雅が哀れすぎる。
少し遅れて篠塚は立ち上がると、自分の、図書棟の隠された部屋へと戻った。




