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サードパーティー  作者: なつ
第二章 一日目には過剰な演出を
13/28

 6

 それから後の芹沢雅の行動は鮮やかだった。すぐにダイニングに移動すると、テストの合格者がいなかったことを発表し、二階の部屋割りを発表し、紙の束を教わる側に手渡す。

「これは?」

「宿題です。本格的な指導は明日からですが、これは明日の朝までにこなしていただく量となっています。わたくしでしたら一時間もあれば、すべての問題を解くことができます。ですので、皆さんもしっかり努力をして下さいましたら、明日の朝には充分間に合います」

「あの、眠る時間は?」

「ご自分で確保して下さい。それからバスルームは一つしかありません。それぞれの部屋にシャワーはついていますが、お風呂を利用されたいかたもあるでしょう。偶数時間は男性、奇数時間が女性の時間とします。もし破られた方がいましたら、それはもう大変なことになります」

「お風呂に入ってる時間なんてなさそうなんだけど」

 夢宮さやかが紙の束を見ながらつぶやく。明からに他の生徒よりも束が厚い。

 部屋割りは二階に入って順番に、藤枝百合子、芹沢雅、来栖都、坂崎陽菜、五十嵐さつき、田村澪、夢宮さやか、甲斐雪人、柳ヶ瀬尋司、アルフレッド・インディー、小野寺光次、小野寺光一となっている。

 甲斐はトランクを与えられた部屋に移動させると、少し休んでからダイニングに戻ってきた。時間はまだ夜の十時にもなっていない。眠るには明らかに早すぎる。キッチンで坂崎が洗い物をしていたので、手伝いましょうか、と声をかけた。

「いいえ、結構です。わたし、どちらかというとこちらのが好きなので」

「そうなんですか?」

「本当ですよ。こんなに楽しいことってないと思います。料理はこれをするための副産物に過ぎませんから」

 モデルのような小さな顔で坂崎は答える。

「そうですか。それではコーヒーを貰いたいんですが」

「分かりました、すぐに用意します」

「ああ、それなら私の分も」

 キッチンのドアから来栖が現れた。すでにお風呂に入った後のようで、あろうことか学校のジャージを着ている。

「それ、パジャマ代わりですか?」

「えへへ、いいでしょ」

 まだ濡れている髪もそのままに、来栖はダイニングの椅子に腰かける。

「甲斐くんも入ってこればよかったのに、歓迎したよ」

「何をですか」

「いやーん、照れちゃって、可愛いわね。お嬢様も一緒だったのよ」

「入ったら大変なことになるじゃないですか」

「ええもうそれはそれは大変なことになりますよ」

「はい、どうぞ」

 坂崎がコーヒーをテーブルに三つ置く。ついでに角砂糖の入ったケースも一緒にテーブルに置き、彼女も席に着いた。

「だめよ都ちゃん、甲斐くんをからかっちゃ。お嬢様のお気に入りなんだから」

「それも誤解ですよ」

「そうなの? さっきだって先生と甲斐くんが呼ばれるんだもん、絶対気に入ってるんだと思うけど」

「それはないですよ」

「じゃあ逆に聞くけど、甲斐くんはどっちが本命なの。お嬢様と、あの一年の夢宮って子と」

「そっちのがもっとありえない」

「あら、そっちって夢宮ちゃんのこと? 結構可愛いと思うけど」

「そういえば、あの子大丈夫なの? 前代未聞よ、あそこまで致命的なのは」

「確かに、この学園の生徒とは感じが違うなとは思うけど」

「よねぇ」

 コーヒーを冷ましながら来栖が妙に納得しながら頷く。

「で、どっちが本命?」

「どちらも本命じゃないですよ」

「あらあら、そうなの? じゃあ本命は?」

 甲斐の思考が一瞬止まる。ふと、浮かんだのは篠塚桃花の俯いた表情だ。

「もしかして藤枝先生とか。ちょっと渋いわね、その選択は」

「ち、違いますよ」

「じゃあ誰?」

「いませんよ、本命なんて」

「そうなんだぁ、可愛いなぁ、甲斐くんって本当に。今度ちゃんと紹介してよね」

 甲斐はごまかすようにコーヒーに口をつけた。すっと香りが鼻を抜ける。いつもよりずっとおいしく感じる。ちらと坂崎を見ると、彼女もコーヒーをすすりながら笑っている。

「そうだ、お二人に聞きたいことがあるんですが」

「なぁに。私は彼氏いないわよ。陽菜は婚約者がいるんだっけ?」

「いないわよ!」

「いえ、お二人のことじゃなくて、芹沢さんのことなんですが」

「なによ、本命じゃないんでしょ?」

「違いますけど」

「まあまあ。何が知りたいの?」

「どうして彼女、この学園でこんなに人気があるんですか?」

 甲斐の質問に、来栖と坂崎は互いに顔を合わせる。目を大きく見開いて、同じように互いに首を捻る。

「どうしてって、それはこの学園の学園長ですし、芹沢家のお嬢様ですから」

「それは知っています。でも、転校してきた僕からすると異常なほどの人気ぶりに見えるのですが。体育館でのときもそうですし、黄色の声が飛び交うのが不思議で不思議で」

「甲斐くんも本命ではないけどお嬢様のことは好きでしょう?」

「ええ、まあ」

「それと同じことだと思うな」

「頭脳明晰容姿端麗、その上気さくでわたしたちにもよく声をかけてくださるし。きっとお嬢様は高等部以外も含めて全学園の生徒の顔と名前を覚えていますわ」

「それはありそうですね。それではもう一つの質問なんですが、その状態ならこの合宿ってもっと楽しそうなものにならないですか?」

「そうねぇ。わたしたちは学年も同じだし、甲斐くんもよくお話しているようだからそれほど特別なイベントじゃないのかもしれないけど」

「確かに、もっと嬉しそうな悲鳴があがってもよさそうね。みんな遠慮してるのかしら」

「ミーは別に興味ないね」

 いつからいたのか、突然アルフレッドが話に参加してきた。すでに椅子に座っている。

「みんながみんな好きというわけではないのだろう? むろん嫌いではないが」

「その意見は賛成だ。男子生徒の半数は憎憎しく思ってる可能性があるぞ」

 同じように柳ヶ瀬もいつの間にか甲斐の近くに立っている。

「それよりも甲斐、お前をお風呂に誘いに来たんだが、どうだ? 十時も回ったことだし」

「ええ、本当に? しまったぁ。それじゃあ私は一時間我慢しないと」

 坂崎が両肘を着いてはぁとため息をついた。


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