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サードパーティー  作者: なつ
第二章 一日目には過剰な演出を
12/28

 5

 芹沢雅を最初の部屋のソファーに寝かせてから、甲斐雪人は夢宮さやからと話し、お風呂場の準備をしていてのぼせて彼女は倒れたのだろう、ということにした。とりあえず、他のメンバーを心配させないようにするためだ。二階のひび割れた鏡には、近くにあったカーテンを借用してカバーをかけておいた。あとは芹沢が気がついてから、何があったのか話を聞くということにした。来栖都だけそこに残り、他のメンバーはダイニングに戻った。

「何があったの?」

 ダイニングに入ると、五十嵐さつきが大きな体をゆすった。

「ミヤビさま、私たちのためにお風呂の用意をしてくれてたのよ。多分、それでのぼせてしまったようで」

「大丈夫なの」

「頭は打ってなさそうだったけど、今はソファーで休んでる」

「何か割れるような音が聞こえたけど」

「脱衣所にガラスが散乱してたから、多分花瓶なんじゃないかな、造花だと思うけど」

「甲斐くん、ちょっと」

 藤枝百合子が、甲斐をキッチンに呼び出す。甲斐は小野寺兄弟に肩をすくませてから、キッチンに行った。

「責任を負うのは私なんだから、嫌なことが起こって欲しくないんだけど、今の、本当の話?」

「状況から判断しただけです。芹沢さん、今気を失ってますから、意識を取り戻してから、本当に何があったのか聞きます」

「本当に?」

「どうして嘘だと思うんですか?」

「いえ、そういうわけじゃないけど」

 それからダイニングでしばらく待っていると、来栖がダイニングの入り口に現れた。

「先生と甲斐くん、お嬢様が呼んでます。お二人だけ」

 甲斐と藤枝は立ち上がると、ダイニングを出た。部屋を移ると、芹沢がソファーに座っている後姿が見える。二人はソファーに近づいた。

「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。驚いてしまっただけ」

「一応、まだみなには伝えていませんが」

「はい。先ほど来栖さんから伺いました。お風呂の準備をしていて、わたくし倒れてしまったようでして、恥ずかしいわ」

「責任者として、何があったのかきちんと知りたいところだわ」

「どうぞ、座って下さい、お話しますから」

 芹沢に促されて、二人はソファーに座った。

「テストの採点はそれほど時間がかかりませんでしたから、わたくしすぐにお風呂の準備に移りましたの。それでお風呂の準備も終わりまして、そろそろお食事も終わった頃かしらと思いまして、キッチンに向かおうと思いましたわ。そうしましたら、この部屋の扉が開いていまして、閉め忘れたかしら、と思いましてね、部屋の様子を伺いました」

 芹沢は指を顎に当てながら、時々首を傾げる。思い出しているようだ。

「ええ、そうしましたら、困ったことになってまして。皆さんの採点の終わったテストがなくなっていましたの。机の上にそれぞれ置いておきましたのに」

「夕食中、誰も部屋を出ませんでした」

「あら、そうですの? 誰のいたずらかしらと思いまして、それでふとホワイトボードを見ますと、二階に来い、と書かれていたんです。今は消されているようですけど。ええ、それでわたくし少し考えてから、とりあえず二階に行こうと思いまして。階段を上っている途中で、人の気配に気がつきましたの。ちょうど二階の角のところだと思います……いいえ、違いますわ。もっと遠くに感じました。ですから、わたくし不思議に思いまして。相手も動いているようでした。まだ二階には誰も案内していないはずでしたから。二階に上がりますと、二階にいるのは自分一人なのだとすぐに分かりましたわ。だって、ずっと先に見えたのは自分自身だったんですもの」

「鏡ですね」

「ええ、そうですわ。でも、あんな場所に鏡を飾った記憶がありませんから、わたくしすぐに角まで行きましたわ。そしたら突然左にもわたくしがおりまして、驚いてしまったんです。いいえ、左にいたのは私だけではありませんでした。次の瞬間、わたくし気を失っていまして。状況を考えると右にいたのかもしれません」

「誰かがいたのですか?」

「わたくしの気のせいかもしれません。左にも鏡がありまして、振り向いたのは一瞬でしたから」

「誰かに殴られたのですか?」

「分かりません」

「……お風呂場の話はどこへ行ったの?」

「あれは、明らかな嘘ですよ、先生」

「そうだと思っていたけど、ちょっとよくないんじゃないかしら」

「ええ、よくないのですわ、先生。テストがどこかへ行ってしまいまして、彼らになんと説明してよいのか」

「そこですか、問題は。でも、採点は終わっていたのでしょ」

 芹沢ははい、と頷く。

「誰か合格者はいたのですか?」

「いません」

「その事実だけで充分だと思いますが」

「納得して下さるかしら」

「芹沢さんが言えば大丈夫だと思います」

「だと良いのですが。ええ、でも仕方がありませんわ」

 芹沢はふふふと笑った。そのとき髪が揺れ、彼女の首が見える。そこが妙に赤い。

「あれ、芹沢さん、首?」

「え、何?」

 左手を首筋に当てると、ぱらぱらと赤いものが落ちる。固まった血のようだ。手を表に持ってきてから芹沢は首を捻る。

「何かしら」

「血っぽいですけど、痛くないですか?」

「ええ。もう渇いているみたいですわ」

 藤枝は立ち上がると、芹沢の首を近くで見た。

「二箇所、切れているようです。もう血は出ていませんが。いいえ、切れているというより、針のようなものを刺されたみたい」

「何なのかしら」

 甲斐は他の誰にも見せていない紙切れを思い出す。ドラキュラ? ばかげている。まるで牙でも刺さったかのようではないか。

「もう、誰がこんないたずらするのかしら、そんなに合宿がいやなのなら、最初から必死に勉強をすればよいのですわ。わたくしはこんな脅しには屈しませんから」

 こぶしを握って芹沢は立ち上がった。


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