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サードパーティー  作者: なつ
第二章 一日目には過剰な演出を
11/28

 4

 途中夢宮さやかが二回ほど叫び声を上げた以外滞りなくテストの時間は進んだ。といっても、着いた時点で17時を回っていたのでテストの時間は二時間もなかったのだが。もし、誰も吐き気を訴えることなくもっと早い時間にここについていたとしたら、テスト時間はもっと長かったのだろうか。それとも、あらかじめこの時間に着くよう計算がされていたのだろうか。甲斐雪人には分からなかった。

 19時なったとほぼ同時に芹沢雅が扉を開けて入ってきた。

「はい、皆さん時間です。もう終わっていますか?」

「うっうっうっう」

 と肩を震わせているのは夢宮さやかだ。他にも明らかに終わったという空気を背中に負っているものもいる。小野寺光一だけは背中に自信が感じられるが、彼は二年連続でこの合宿に参加しているという。もしかしたらこのテストがあることを知っていたのかもしれない。

「それではテストを回収させていただきます。わたくしが採点をしている間に、どうぞ皆さんはお夕食を取っていて下さい」

「芹沢さんだけで採点するんですか?」

「ええ、採点だけなら楽なものです。教師の仕事は明日からしっかりお願いしますわ」

 甲斐は立ち上がると扉を見た。藤枝百合子と坂崎陽菜がそこに待っている。坂崎は白いウサギの描かれたエプロンをしていて、小さな顔が余計に小さく見える。

「坂崎さんの料理は本当にすばらしいですわ。先ほど少し先に頂きましたが、高級シェフの料理に劣りませんもの。わたくしが切りましたジャガイモがちょっとマイナスだったかしら」

「いいえ、そんなことありませんよ」

 顔を傾けて芹沢は微笑む。何度見ても反則だ。

「それでは皆さん、どうぞこちらに。テストのこともしばらく忘れて、栄養をしっかりつけましょう」

 坂崎がみんなを手招きする。甲斐も立ち上がるとそちらへ移動した。憔悴しきった夢宮たちを先に進ませてから、扉を抜ける。

 ロビーのほぼ対面に同じような扉があり、そこを通るとダイニングになっていた。すでにテーブルには料理が載っていてカレーの香ばしい匂いが漂っている。

「やべぇ、これは食欲そそる」

 柳ヶ瀬尋司が嬉しそうな悲鳴を上げる。

「どうぞ、席はご自由に。お代わりも充分にありますので、遠慮なく手を上げてください」

 左手にはカウンターがあり、その先がキッチンになっているようだ。そちらからいくつも湯気があがっている。甲斐も適当に席に着くと、左には小野寺光次、右には夢宮となった。意識したわけではないが一年生が自然と集まっていた。夢宮のさらに隣に柳ヶ瀬がいて、誕生日席に五十嵐さつき、柳ヶ瀬の対面にアルフレッド・インディー、夢宮の正面に田村澪と二年生が続く。甲斐の正面に小野寺光一が座り、その隣に藤枝、誕生日席に来栖都という順番だ。坂崎はカウンター付近にまっすぐ立っている。

「それでは、皆さん手を合わせてください」

 藤枝が両手を合わせる。不思議とみなこの習慣を守っている。

「頂きます」

 全員で声を合わせてから、夕食が始まった。いつもより時間が早かったが、お昼を食べてから時間が経っているので甲斐もお腹が空いていた。

 カレーは申し分なく……時々大きさの怪しいジャガイモとニンジンがあったが……野菜サラダも非の打ちようもなく、しばらく会話らしいものはなかった。

「うめー」

 という叫び声をあげたのは柳ヶ瀬だけではない。小野寺兄弟どちらも同じような声を出していたし、アルフレッドもデリシャスね、と唸っていた。

「お代わりはいりますか?」

 坂崎が全員の皿の様子を見ていて、少なくなったところで声をかけてくれる。そのタイミングも完璧で、甲斐は二度お代わりをした。

 ようやくみなの手が止まってきたころ、坂崎はテーブルにデザートとしてパイナップルを運んできた。

「ああ、幸せ、この幸せな時間がずっと続くといいのに」

 フォークでパイナップルの一切れを口に運びながら夢宮が顔をふるふると振る。

「テストどうだったの?」

「聞かないで」

「でも、同じ問題だったんでしょ」

「そうよ。でも、全教科だもの、全然時間が足りなくて」

「それじゃあ教科によっては八割の正解取れたんじゃないの?」

「期待、できない」

「テストを見直したって、理解できてなきゃ無理な話だよ」

 反対の光次が甲斐の肩を叩く。

「まあ、缶詰はつらいけど、こんな料理が食べられるならいいんじゃない?」

「ありがとう」

 聞こえていたのか、坂崎が遠くからお礼を言った。

「坂崎さんは食べないのですか?」

「頂きますよ、後で」

 甲斐はカウンターの上に飾られた時計を見た。そろそろ20時だ。採点はまだ終わらないのだろうか。


 ガシャーーーン。


 甲斐が芹沢のことを思った瞬間、突然何かが割れる音が大きく響いた。無意識に甲斐は立ち上がる。

「な、何の音?」

「分からない、どこから聞こえた?」

「分からないわ」

 妙な不安感を覚え、甲斐はダイニングを飛び出る。すぐに、最初の部屋へと走りこむ。

 芹沢の姿はない。最初と同じだ、五つの机が並び、その前にホワイトボードがある。違うといえば、ホワイトボードの左奥にある扉が開いていることだ。

「雪くん、ミヤビさまは?」

「分からない」

 夢宮がついてきて、同じように来栖、小野寺兄弟、アルフレッドが来ている。

「光一さん、この扉の先はどうなっているんですか?」

「あ、えっと」

「あなたは去年も来たのですよね」

「ああ、そうだ。確かその向こうには大きなお風呂とトイレがあって、あと廊下が二階に続いている」

「芹沢さん!」

 甲斐は大きな声を出した。けれど、返事はない。

「来栖さんと夢宮はお風呂を見に行ってきて、妙な胸騒ぎがする。僕たちは、二階を見に行こう」

「デンジャラスかもしれないね、ミーは残るよ」

「分かった。ダイニングでみんなと待っていてくれ」

「オーケーね」

 扉の先は左右に廊下が伸びていた。右に行けばキッチンと繋がっていると光一が説明してくれる。左に行くとT字に廊下が分かれていて、右にはお風呂場とトイレ、左には少し先に階段が見えている。夢宮と来栖は一緒にお風呂側へと歩いていく。それを見送ってから、甲斐は階段へと近づいた。階段は途中踊り場で180度回転している。

「二階はどうなってるの?」

「廊下が伸びていて、L字に廊下を曲がると、右側に部屋が続いている。南向きで縦長の部屋なんだけど、去年だとそこに一人ずつ泊まった」

 踊り場まで来ると、まっすぐ伸びた廊下が見える。そこに妙なふくらみがある。一気に階段を上がると、その妙なふくらみが廊下の角に倒れた人間だと認識できる。

「芹沢さん!」

 返事はない。

 甲斐は駆け寄る。と、突然甲斐は左に人の気配を感じ左を振り返った。

「うわっ」

 驚いてしりもちをつく。そこには、同じようにしりもちをついた、甲斐自身が映っていた。

 鏡だ。

「ど、どうした?」

「大丈夫、鏡があった」

 落ち着きを取り戻してから、芹沢の様子を見る。息はしている。気を失っているようだ。

「気を、失ってるだけみたい」

 それから甲斐は左右を確認する。すぐに、もう一つの鏡に気がついた。階段から正面の角にも鏡がかけられている。が、その鏡はヒビだらけで、もしかしたら芹沢はこの鏡に衝突したのかもしれない。

 甲斐が芹沢を持ち上げようとすると、ひらひらと紙が舞った。甲斐は持ち上げるのを一度止めると、その紙を見る。

「ドラキュラは時によって死ぬことはない」

 紙には赤い字でそう書かれていた。


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