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サードパーティー  作者: なつ
第二章 一日目には過剰な演出を
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 3

 中に入ると、ログハウス特有の木の香りが心地よい。靴を脱いで上がった玄関ロビーこそそれほど広くなかったものの、すぐ左手に案内された部屋は普通の教室並みの広さがあった。いや、ほとんど教室だ。等間隔に五つの見慣れた机と椅子が置かれていて、机の上には紙と鉛筆が準備されている。

 机の正面には移動式のホワイトボードも準備をされていて、そこに19時まで、ときれいな書体が並んでいる。

「これは……」

 小野寺光次がホワイトボードを指しながら、兄の小野寺光一を見る。光一はただ首を横に振るだけ。

「おおよそ察しがついたと思いますが、まずはテストから始めさせていただきます。左から順番に、夢宮さやかさん、小野寺光次さん、五十嵐さつきさん、小野寺光一さん、田村澪さんの順番に座って下さい。テストは問題となった教科と同じところ、ほとんど同じ内容のものとなっています。当然皆さんはテストの見直しをしてあるはずですので、このテストはそう難しくないはずです」

 よどみなく芹沢雅は説明しながら、それぞれを机に誘導する。

「ですのでこのテストで高得点を取ることはそれほど難しいことではないでしょう。これはサービスです。このテストで八割以上の結果を出された方は、合宿での勉強はすべて免除します」

「本当に?」

「はい、本当です。前のホワイトボードに書かれているとおり、時間は19時まで。どうぞ皆さん、がんばって下さい」

 その五つの机から後ろに離れたところにソファーと楕円形の形をしたガラスのテーブルがあり、大きな窓から外の風景をよく見ることができた。芹沢は残りのメンバーをそちらに移動させると、坂崎陽菜の両手を持って立たせる。

「それでは坂崎さん、ご一緒に料理の準備に取り掛かりましょう」

「今夜のメニューは定番のカレーの予定です」

「それなら私も手伝えるわ」

 藤枝百合子も立ち上がる。

「本当ですか、助かります。十二人分となると、結構な量ですからね」

「坂崎さん、キッチンの場所は覚えていますか?」

「ええ、なんとなく。去年と変わってないですよね」

「もちろんですわ」

「甲斐くん、柳ヶ瀬くん、アルフくん、来栖さんはこちらで待っていて下さい。あまり大きな声を出さないように、ほら、彼らは必死ですから」

 言いながら芹沢はホワイトボードの方を見つめる。それから坂崎と藤枝を連れてこの部屋に入った戸を開けると三人は出て行った。

「来栖さんは手伝わないの?」

 ソファーに腰かけたまま柳ヶ瀬が来栖の顔を覗き込む。

「何それ。自分も手を上げなかったのに?」

「いや女性なんだから」

「最低な思想ね。その一言であなたのレベルが知れるわ」

「カームダウンね。まあまあ、そういきり立たず」

「一日目だしね。甲斐くんは料理得意そうだけど」

「嫌いじゃないけど、披露できるようなもんじゃないよ。それにカリキュラムに料理なんてあるの、この学園?」

「三年で進路が決まってるから、陽菜は」

「進路と言えば、甲斐、お前はもう決めてるのか、理系か文系」

 四角い眼鏡に片手をかけてから、柳ヶ瀬が甲斐を振り返った。

「甲斐くんは理系でしょ。さっきの話を聞いてる限り理系に来るべきだわ」

「途中なんだかややこしい話をしていたな。けれど、歴史についてはどうなんだ?」

「まだ決めていません。この学園は決めない状態で三年間過ごせるはずですから」

「それは両方学ぶ人だけよ。実際そんなことができる人はほとんどいない」

「芹沢さんは?」

「彼女くらい、私が知ってる人といえば。もちろん、他にもそのコースに進んでる人もいるけど、ただ進んでるだけだもの」

「中途半端に学ぶより、どちらかを徹底的に学んだほうが効率的だと思うぜ、俺は」

「いずれにせよ語学は必要ね、ワールドワイドよ、今の世の中」

「そうだね、特に語学は顕著だ。だけど、僕はどちらかに決めることが効率的だと思えない。文系理系なんて勝手に分けただけだから」

「ふーん、まあよくわかんないけど、あれだけの話ができるなら理系科目は得意なんでしょ?」

「嫌いじゃありません」

「その言い方聞くと、甲斐くんの料理が食べてみたくなるわ」

 そう言って来栖は赤い髪をゆらゆらと揺らした。

「問題、スペインの援助によるコロンブスの新大陸の発見、ポルトガルではバルトロメウ=ディアスによる喜望峰の確認、ヴァスコダ=ガマによるインド航路の発見。なぜこの時代このような航路の発見が連続したのか?」

「正直、歴史はあまり得意じゃないですが。スペインもポルトガルもヨーロッパの西側ですからね。確かその時代はオスマン=トルコが東方との貿易を支配していたはずです。まあ、さぞかし高い税を取っていたんでしょう。もし新航路を発見すれば、オスマン=トルコを通すことなく中国製品を確保できる。新航路の発見に対する危険と費用を考えても充分ペイできるという考えがあったんでしょう。王権も強くなっていたはずだし、キリスト教の布教も目的にあったんじゃないですか。それに技術力も上がって長い航海も可能になった。羅針盤もこの頃から実用に耐えうるようになった、とか。そんな辺りじゃないでしょうか」

「あまり得意じゃなくてその回答か、さすがだな」

「それっぽい理由を並べただけですよ。正解は?」

「他にも地球が球体なのか調べようとした、とか、黄金の国ジパングを目指した、とか、色々な説があるな。まあ、総合的な判断が下されたのだろうよ」

「ジャパンはジパングが語源」

 アルフレッドが胸を張る。

「じゃあ、ジパングの語源は?」

「うっ」

「日本という呼称の昔の発音がそうだったんだろうね。最後のGは日本じゃ発音しないだろうけど」

「お前、本当にすげぇな。そりゃ芹沢お嬢様もお前を連れてきたがるわけだよ。てか、むしろ教えるのはお前一人で充分なんじゃないか?」

「本当、そんな感じね」

「多分僕は夢宮用だと思うんだけど。都さんは小野寺光次くんでしょ、柳ヶ瀬さんは五十嵐さん、アルフさんは田村さんで、小野寺光一さんは芹沢さんが教えることになるんだろうし」

「ああ、そうね、そう考えるとマンツーマン指導という感じね、この合宿」

「カリキュラムは芹沢お嬢様が作ってくれているからほとんど俺ら準備してないんだけどな」

「それに」

 甲斐は五人の後姿を見てから続ける。

「このテストで合格できる人はいないのだろうと考えてるみたいじゃない?」



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