魔法学校の生徒2
ホームルームが終わり俺は机に倒れこむ。高校でする二回目の自己紹介。元の世界でも入学式の日に自己紹介をした気がする。自己紹介した時の記憶は消えてないと思うがその時のことはあんまりよく覚えていない。どうせ誰も聞いてないと思って適当に自己紹介をしたせいだ。だがこっちの世界はそうはいかなかった。全員に注目されている上に雛井までいた。人前で喋るのってここまで緊張するんだな。自己紹介なんて無心でやるのが当たり前だと思っていた。
隣を見てみると雛井がちらちらと俺の方を見ていた。なんか話したいことでもあるのか?
「なあ後で学校のこと案内してくれないか?広すぎてわけがわな――」
「こ、神山君……そ、その学校ではあんまり……」
雛井が俺の話を遮り狼狽えながらそう言ってくる。今更だけど、学校に来る前にあんまり話しかけるなって言われたな。こいつなんでこんなに動揺してるんだ?俺が雛井に話しかけた途端、急にクラス中がざわつき始める。
「なあ転校生。お前こいつのこと知らないのか?」
一人の男子生徒が話しかけてくる。なんだこいつ?
「そうだな、こいつとは昨日会ったばっかりだしな。何にも知らないといってもいいな」
俺は正直に答える。
「じゃあ面白いこと教えてやるよ」
「は?面白いこと?」
「ああ、こいつはな一般人以下のクズなんだよ!」
いきなり雛井をクズ扱いか……。ここでやっと雛井が話しかけないでほしいと言っていた理由が分かった気がする。
「どういう意味だ?」
「こいつは魔法使いのくせに魔法が使えないんだよ!」
「魔法使いなのに魔法が使えない?」
そういや雛井も俺のこと見て魔法使いって言ってた気がするな。魔法が使えるから魔法使いってわけじゃないのか?じゃあ俺も魔法が使えるってことなのか?まあ使えなかったらあの校長が俺を学校に入学させるわけないか。いや、あいつは魔法とか使えなくても普通に面白いやつだったら誰でも入学させそうだな。
「ああそうだ。こいつは素質があるのに魔法が使えないんだよ。魔法使いの恥晒しなんだよ!しかもこいつが魔法を使ったらなぜか近くのやつが魔法を失敗するんだよ!」
「失敗?それってこいつの近くで魔法を使ったやつの実力がなかっただけじゃないのか?」
「そんなわけないだろ。みんながみんなそう言ってるんだぜ?まともじゃないやつ以外そいつに近寄らないぜ」
なら俺はきっとまともじゃないやつの部類なのだろう。自分でも自分がまともじゃないのは理解しているつもりだが他人に言われると腹が立つ。
「こいつは他の魔法使いにも影響がでる邪魔な存在なんだよ。一般人以下のクズなんだよ。あっはっははっはははは――」
やっぱりか……。雛井は俺をこういう目に合わせないようにする為に、学校じゃ関わらないようにしようとしたのだろう。クラスからこんなふうに思われてるなら学校にギリギリに来きたくなる。むしろ行きたくなくなる。俺なら絶対に不登校になっているだろう。
ほとんどの男子が笑い始める。女子もこそこそと聞こえないように何か話している。時葉を含む何人かの生徒はこの状況についていけずに呆然としている。こいつらは何にも知らなかったのだろうか?そんなことよりかなりムカついてきたな。友人の為にここまで頭にくることなんて実際にあるんだな。マンガやアニメの中だけの話だと思ってた。
「そうか……。結局何が言いたいんだ?」
「今の話しを聞いてわからなかったのかよ?こいつには近づかないほうがいいって言いたいんだよ。わかったか?お前も魔法が使えなくなるぞ?」
分かっている。今思い返してみれば雛井は確かにケルベロスに対して同じことをやっていた。狙った相手の魔法を失敗させるなんてかなり強いんじゃないのか?そうでもないのかな?ふと俺はそんなことを思った――今はそんなこと思ってる場合じゃないか。
これからの学校生活のことを考えると確かにこいつらの味方をしたほうがいいのかもしれない。多分、少し前の俺ならそうしてただろう。そもそもクラスのやつと話そうとも思わなかったし、きっとこんなことに巻きもまれることもありえなかったと思う。
「で?何だ?魔法使えるのがそんなに偉いのか?魔法使えないやつなんてたくさんいるだろ?お前らはそいつらのこともバカにしてるってことだよな?」
気が付けば俺はそんなことを口走っていた。クラスが一瞬にして静まり返る。きっと俺が雛井の味方をしたことに驚いてるのだろう。言った俺自身もかなり驚いている。
「そ、そうだよ。それがどうしたんだ?それにお前魔法使いのくせに一般人の味方するのかよ」
「そうだな、少なくともお前の味方をするつもりは全くないな」
「何だと?お前生意気だな。そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前は滝見だ。階級はD級だぞ?お前それを知ってて喧嘩売ってんのか?」
D級?どういう意味だ?アルファベット順ってことだと考えると上から四番目に強いってことか?わからん。もしかして俺ってやばいやつに喧嘩を売ってしまったのだろうか?
「なあ雛井。そのD級とかってどれくらい凄いんだ?」
「AからFまであってDは上から四番目ですけど……」
「あっはっはっはははははは!!滑稽だな!お前下から二番目でそんなに威張ってるのかよ。いかにも小物って感じだな」
俺は近くにある自分の机をバンバンと叩きながら腹を抱えて笑いながらそう言った。こいつにイラついていたせいかつい本音が出てしまった。どうせこう言うふうに言うやつってほとんどが口だけのやつだろう。
「何だとお前やんのか?」
やっぱり煽って正解だったな。こういう単純なやつは絶対簡単な挑発に乗ってくると思っていた。もちろん、俺は魔法なんか使えない――が、これだけ条件が整えば十分だ。少しビビらせてるか。
「お前こそ俺とやるのか?俺がなんでこんな時期に転校してきたと思ってるんだ?普通おかしいと思わないのか?実は俺――」
俺はそこで話すのをやめてニヤッと余裕の笑みを見せる。もしこいつが挑発に乗ってきて俺に魔法を使ってきたら勝ち目なんてあるわけがない。それでも俺は言葉を続ける。
「なっ、どういうことだ?」
クラスがざわつき始める。校長にやられた時はイラってきたけど、やってみると案外楽しいもんだな。
「おっと、これは校長から口止めされてたんだった。まあそんなことはどうでもいいか?お前が俺と戦いたいなら戦ってやってもいいけどな。どうする?」
俺でも校長に実力差を見せつけられた時に戦意喪失したんだ。これだけ言っておけばさすがに――
「っくそー、…………ならやってやるよ。先生たちに見つかると面倒だ。屋上に来な」
――――あー、うん、世の中うまくいかないもんだな。ここでビビってくれればよかったのに。終わったな……俺の人生が……。
「そ、そうだな。俺の魔法はこんな小さい部屋で使ったら大変なことになるからな。屋上なら丁度いいだろう」
周りの生徒から「これやばくない?」「誰か先生呼んで来いよ」などと声が聞こえてきた。こいつそんなにつよいのか?ケルベロスや校長のやばい槍を見ていたせいかこいつを見ても全然恐いと感じない。
「俺先生呼んでくるよ」
そう言ってさっきまで俺と話していた時葉が慌てて教室から出て行った。あいつ結構いいやつだな。これからはもっと仲良くするか……。まあ教師呼んでくれるなら大丈夫だろう。
「神山君……」
雛井が心配そうに俺の方を見ている。きっと自分のせいで俺が喧嘩に巻き込まれたんだろうと思ってるのだろう。
実際その通りだが……。
「雛井は心配しなくていいぞ。これは俺とこいつの喧嘩だ」
あーくっそー、何か切り抜ける方法はないのか?教師が来たら泣きついてもいいがここまできてそれはダサすぎるだろ。今更だけどこれからのことを考えると穏便に解決した方が良かったんじゃないかと思ってしまう。
「全員静かにしてください」
俺達が屋上へ行こうと歩き出した時、教室の外から声が聞こえ全員が一斉にその人に視線を向けた。そこには朝俺に学校を案内してくれた生徒会長の姿があった。
「一体こんな朝早くから何やってたんですか?」
「生徒会長いいところに来たぜ。全部こいつが悪いんだよ。こいつがすべての魔法使いをバカにしたんだ。だから、こうして俺がこの転校生に――」
「ごめんなさい、本当は一部始終を見ていたの。だから大体のことはわかるわ。私からしたらあなたの方が悪いように見えたのだけれど?」
「っち、でも……」
「でもではありません。最初に雛井さんの噂について言っておきます。もちろんこれは雛井さんのせいではありません。『雛井さんが近くにいると魔法が失敗する』そう思い込んだせいで魔法を上手く使えなかっただけです。魔法は精神状態に強く影響されますからね。最初に誰がこんな噂を流したのか知らないですけど、これがこの噂の真実です」
再びクラスがざわつき始める。
「え、そうだったの?」
「やっぱりなそんなことあるわけないと思ってたんだよ」
まあ、こんなことだろうと思ってた。目の前の滝見は目を見開き愕然としている。
「あなた滝見君ですよね?自分より階級の下の見るのではなく上の人と自分を比較してみてはどうですか?言い方が少しきつくなってしまうかもしれないですけど、私から見たらあなたも雛井さんもそんなに大差ないですよ。一年生で階級がD級はとてもすごいことです。だからといって人を貶していいことにはなりません。人には得意なものとそうでないものがいるんです。さきほど一般人よりも自分の方が優れていると言ってましたよね?それは魔法の分野にかけてだけです。他の分野で滝見君よりも優れている人はたくさんいると思いますよ。ここまで言えば今から何をすればいいかわかりますよね?」
滝見はそう言われ俺の前にやってくる。
「悪かった!お前にムカついて感情的になっていた。生徒会長の言うとおりだ。まじで悪かった」
真剣な表情でそう言いながら頭を下げてくる。
「いや気にするな。俺の方こそ悪かった。俺も少し感情的になりすぎていた。もともと俺はお前とは戦うつもりなかったしな」
どうせ勝てないし。戦っていたら間違いなく俺はやばかっただろう。
「そうか、これからは仲良くやっていこうぜ」
「ああ、俺の方こそよろしくな」
滝見は俺への謝罪を済ませると今度は雛井の方を向いた。
「雛井さん。今まで悪かった!」
そう言って俺にやったようにして雛井に頭を下げる。雛井は滝見の行動が理解できず戸惑っている。
「ど、どど、どうしたんですか?あ、頭をあげてください」
「いや、これは俺のけじめだ。ほんとにすまなかった」
「べべ、別にいいですよ。本当に気にしてませんからもう頭を下げるのはやめてください」
「私達も今まで避けててごめんなさい。変な噂に惑わせれて近づこうともしないで……」
滝見が謝り始めるとクラスの生徒達も一緒になって謝り始めた。
「だ、大丈夫ですから、本当に気にしてませんからもう謝らないでください」
照れながら嬉しそうに言っていた。良かった……。これで雛井もクラスで辛い思いをしなくて済むだろう。
「では、私はこれで失礼します。皆さん、これからもたのしい学校生活を――」
そう言って生徒会長は教室から出て行こうとする。颯爽と現れて問題を解決して颯爽と帰って行く生徒会長。かっこよすぎるだろ。
「あ、雛井さんと神山君は少し話しがあるので来てもらってもいいですか?」
笑顔で微笑みながら生徒会長が言った。俺と雛井は顔を見合わせる。一体どうしたんだろう?