魔法の練習5
あれ?どうしたんだろう。あきらかに今までとは違うこの感じ――何もしなくても勝手に指輪に全身の力が吸い寄せられていく。これが魔力なのか?
俺はゆっくりと目をつむる。これならいけそうだ。全身から力が湧いてくる。魔法陣をイメージするって言ってたな。それから――
「え?」
その瞬間、俺は後ろから何かに突き飛ばされた。魔法に夢中になっていたせいか俺は無抵抗のまま倒れてしまう。
「いってえな!何するんだよ!せっかくもう少しで感覚を――」
俺が後ろを振り向くと美穂が少し離れた位置で俺の方を口を半分開けたまま見ていた。
「どうしたんだ?」
生徒会長に視線を移すと生徒会長も美穂と同じように途方に暮れている状態だった。
あれ?美穂が俺を押し倒したんじゃないのか?一体誰が――。
「神山君」
生徒会長は俺の名前を呼んだ。その声はどことなく震えている気がする。生徒会長は自分の魔法をやめたのか、無数にあった魔法陣と氷の柱が消滅する。俺が態勢を崩したくらいで真剣だった二人が魔法をやめるとは思えない。
「なんだ?もうやめるのか?」
俺がそう聞いても生徒会長は口を開かず、ただ黙って俺に近づいてくる。そして、俺の前までやってきた。
「急に黙ってどうしたんだよ、なんか問題でもあったのか?」
「問題?」
生徒会長はようやく口を開く。
「とりあえず一言いい?」
「なん――ぐはぁ」
俺は生徒会長は一言いう前に、理由もなく思いきり腹を殴られた。
「あっはっはっは、待って、マジで、これやばい。お腹痛い」
俺が殴られた姿を見て大爆笑している。
「いや……シャレになってないから……いってーな。ちゃんと説明しろよ」
痛みが続く腹を抑えながら今にも消え入りそうな声で言った。
「ハッ!ついイラッときて手が出ちゃった」
「何がついイラッとだよ!!そんなくだらない理由で殴られてたまるか!」
俺がそう言うと生徒会長は凄い剣幕で俺をにらんでくる。
「さよ先輩……嫉妬とか見苦しいですよ。あっははっは!」
「さっきからあんたは笑い過ぎよ!殺すわよ!」
「いやーだってここまでくるともはやギャグじゃないですか。あー笑い疲れた」
「……私帰る」
そう言ってさっきまで激怒していた生徒会長は今度は不機嫌になり帰ろうとし始める。帰りたいのは俺の方だ。
「はぁ~ほんとさよ先輩は子供なんですから……ほら神山君が困ってますよ」
「もう嫌!やっぱり人なんて信じられない!離して!」
理解できない状況の中、本当に帰ろうとしている生徒会長を美穂が手を引っ張り止めている。
「いやいや、どうしてそうなるんですか?頭おかしいですよ?現実を見てください――めんどくさい人ですねー。直也に言いますよ?」
「…………」
最後の一言が決め手となったのか、それとも冷静になったのか、生徒会長が戻ってくる。
「少し取り乱したわ」
「いやいや!少しどころじゃいだろ!俺、殴られたんだぞ!」
「いいじゃない、神山君は男でしょ?」
こいつの中では男は殴っていい生き物だと思っているのだろうか?
「ごめんなさい、ちょっと悪乗りしすぎたわ」
「で、なんで怒ってるんだ?」
「神山君、自分でさっき何が起こったか状況を理解できてる?」
「さっき?俺が魔法を使おうとして態勢を崩した時のことか?」
「はぁ~やっぱり全く理解できてないのね。あなたは自分の魔法のせいで態勢を崩したの」
「は?俺が魔法を使ったってことか」
生徒会長が俺に対する何か嫉妬しているってことは分かるが、俺が魔法を使えたのがそんなにダメだったのだろうか?
「それでどうしてお前がキレてるんだよ」
「問題はそこじゃないの」
「じゃあなんだよ?魔法が使えたならそれでいいだろ?」
「そうね……ただそれだけなら別に良かったわ。全然良くないけど……」
「全く話が見えてこないんだが?」
「はあ?なんでよ?死にたいの?」
生徒会長が再び冷たい表情になり俺を暴言を吐いてくる。
「いや、だから落ち着けってば。さよ先輩、神山君は魔法初心者なんですよ?」
「じゃあ簡単に言うわ……神山君は物理魔法を使ったの属性はきっと風よ。あなたは自分の発生させた風で倒れたの」
「ああ、あれは俺の魔法だったのか?」
「ええ、そうよ。物理魔法って言うのはそんなに簡単にできるものじゃないの。精神魔法を物理魔法で行う。それで初めてできることなの」
「俺は順番を抜かして難しい物理魔法を使ったってことでいいのか?」
「……ええ、そこまでは千歩くらい譲ってもまだ許せた。全然許せないけど」
「まだ何かあるのか?」
「いい?神山君は今、魔法陣を使わずに魔法を使ったの」
俺は目を瞑っていたせいで気が付かなかった。でも、そんな深刻そうに言われても今の俺にはその凄さが理解できない。
「すまん、もっと分かりやすく説明できないのか?」
「これ以上、どうやって分かりやすく説明すればいいのよ!!!」
こいつがこんなに取り乱すなんて……きっと雛井ほどじゃないにしろそこそこ危ないってことなのだろうか?
「よくわからないけど、俺はどうしたらいいんだ?もう魔法は使わないほうがいいか?」
「そこまでは言わないけど……雛井さんよりは全然マシだけど……あーなんかもうどうでもよくなってきた。兎に角、神山君はまず最初に魔法陣の練習よ。人の前では魔法陣を出さずに魔法を使うことを禁止よ。わかったわね?」
「お、おう」
「なんか大変なことになりましたねー」
「何他人事みたいなこと言ってるのよ!」
「いいじゃいですかー私は楽しいですよ。さよ先輩も楽しさ重視ですよね?」
「これのどこが楽しいのよ!!はぁ~今更どうこう言っても仕方ないわね。異世界から来たって言ってた時点で少しはできるとか思ってたけど……甘かったわ。期待を通り越して嫉妬レベルになるなんて……」
「そんなにふてくされることないじゃないですか。これで少数精鋭のギルドができたじゃないですか」
「なんか悪いな……俺のせいで」
よくわからんがとりあえず謝っておこう。
「謝らなくていいわ。嫌味にしか聞こえないから……まあ、そうよね。仲間なんだから――じゃなかった。お、同じギルドだしね。もう気にしないでいいわ」
「素直じゃないですねー」
仲間か。生徒会長からそんな言葉が出るなんて、出会ったころと比べると想像もできない。こいつも徐々に心を開いてきてるんだろうか?




