平穏3
「ああー今日も疲れたー」
部屋に私に声が空しく響き渡る。今日は疲れた。本当に疲れた。
家に帰り自室に入ると私は制服を無造作に服を脱ぎ捨ていつもの着古したジャージに着替える。そしてベッドへ仰向けになりダイブする。カーテンが閉め切ってある為、部屋は真っ暗だ。薄暗い中何もない天井を私は一人寂しく見続ける。
だらしない姿で五分ほど時間を無駄にする。それが私の日課だ。この時間が一番好きだ。何にも考えないでボーっとしていると現実逃避できてるから……。
――――さてそろそろ優香に説教でもしに行きますか。そう思い体を起こそうとするとタイミングよくドアがノックされる。
「さよ入るね」
扉を開け私の親友が入ってくる。優香は部屋の電気を勝手につけ私の寝転がっている隣に座る。私は態勢を立て直し、眼鏡を外し魔法を使わずに髪を結んでツインテールにする。
「あんたね今日はよくもやってくれたわね」
私は隣に座る優香をポンと優しく叩く。
「楽しかったしいいじゃん。私も美穂と仲良くなれたし」
優香はまるで反省していない様子だ。ギルドでは見せない優香の貴重な笑顔。確かに優香に私以外の友達ができるのは嬉しいことだ。でもなんか寂しくなる。別に嫉妬してるわけじゃない……多分。
「はっきりいじるのやめてほしいんだけど?雛井さんと直也が冗談通じなくて困るのよ……」
私は皮肉を込めて言った。
「だから面白いの。少なくとも私は楽しいよ」
「それいじめてるやつの理論よね。自分は楽しいと思ってても相手は迷惑してるのよ?わかる?」
まあ迷惑なだけで別にそれほど嫌ってわけじゃない。でも、もう少し抑えてほしい。せめて私がキレださない程度にしてほしい。
「ほんとに嫌だと思ってるならやめるけど、迷惑なだけでそこまで嫌じゃないでしょ?さよめっちゃ楽しそうだよ?」
なんで優香は私の考えが分かるんだろう?私ってそんなに楽しそうにしてるの?そんな自覚全然ないけど……。
「まあ、そうね。別に迷惑なだけで嫌じゃないけど……」
「それに雛井さんや時葉君にも一般常識って言うか空気を読むってことを覚えさせたほうがいいわよ。今後の為にも」
「そうね、でもあの二人には無理だと思うわ。だってあの二人よ?」
「…………確かに。あれでこそあの二人だもんね。でも、将来は時葉君と結婚するんでしょ?」
「ちょ!あ、あんた何言ってるのよ!?結婚なんてするわけないでしょ!!」
優香にそう言われ動揺してしまう。私と直也が結婚??いやいや、でもそうか。付き合うってことはそういうことか。でへへ、結婚かいいなー。想像するだけでにやけてしまう。
「さよにやけてないでちゃんと私の話を聞いて」
「べ、別ににやけてなんかないわよ!ちゃんと話は聞いてるわよ!」
すると優香は黙り込んでしまう。どうしたんだろう?――――しばらく優香がじっと私の見つめる。なんか恥ずかしい……。
「な、なによ?」
「またジャージ?女の子なんだからもっとオシャレに気を使ったら?」
オシャレって……私や優香にはほとんど無関係の言葉が出る。
「あんたに言われたくないわよ!!自分の姿見てみなさいよ!」
同じように着古したジャージ姿の優香。こいつにだけはオシャレについて言われたくない。
「私はいいのよ。家から出ないし。時葉君がさよのその残念なジャージ姿見たら悲しむわよ」
ぐっ、確かにそうかもしれない。私は腕を組んで考え込んでしまう。
普通の女の子ってオシャレをするものなのだと私も思う。現にクラスでも、校則に違反してまで可愛いアクセサリーなどつけている人とかいる。その行為は私には理解できないものだ。
もしかして私って女子として終わってる?今まで私の周りの女の人なんて優香と吉田さんだけだったし、でも、吉田さんはいつも綺麗だと思う。いつもメイド服だけど。
男の子って普通は可愛い姿の女の子が好きだし、直也はどうなんだろう?ジャージ姿の私を見てどう思うだろうか?いや、でも直也は私のこと好きだし見た目とかあんまり気にしなさそうだよね?
「そんなことあるわけないでしょ?むしろ可愛いって褒めてくれるわ」
何の根拠もないけど私は言った。だって私そんなことしなくても可愛いと思う。服装なんて全然問題ない。
「そうなんだ、それならいいけど……。さよ、ここからの質問は真剣に答えて」
そして今度は真剣な表情をしながら言ってくる。きっと昼のことを聞いてくるのだろう。
「さよ。今日はどうしたの?神山君の話を聞いて明らかに少し様子が変だった。答えて」
「昔言ってた話覚えてる?幻獣がどうのって話」
「うん」
「そのことについて考えてたの。やっぱり異世界は本当に存在してるんだなーって」
「ふーん。で、さよは異世界に行きたいってこと?昔言ってたよね?もし別の世界があったら行くのが夢だって」
「うーん、どうなんだろう。その辺はよくわかんないわ」
言葉を濁しつつ私は答える。
「…………さよって自分が誤魔化す時の癖って分かる?」
優香は私の考えを見破るかのようにそう言った。
「そんな癖ないわよ!て、てか、別に誤魔化してないし!」
「……そんな興味津々な顔で言われても説得力ないよ」
「まあ、あんたには迷惑をかけないようにするから別にいいわよ。ギルドのみんなにもね」
「お願いだから変なことだけは考えないでね。多分、異世界に移動するってさよが思ってるほど――」
「はいはい、分かってるわよ。危険なことはしないから」
「……ほんと?」
「ほんとだからから大丈夫よ」
私は疑いの眼差しを向ける優香の頭を優しく撫でる。綺麗な茶色の髪は短いわりにさらさらとした指通りの良い髪。
「な、何するの?こ、子ども扱いはやめてってば――」
優香は顔を照れながら真っ赤にした。これが優香の唯一の弱点。頭を撫でてあげれば大抵誤魔化せる。
「さ、さよ、聞いてるの?」
私は無視して頭を撫で続ける。見た目も子供みたいだけど、こうしているといると私と同等の魔法が使えるなんてとても思えない。
「もうっ!」
優香は私の手を払い私から距離をとる。優香は少し怒った表情をしつつもどこか嬉しそうだ。
「前に言ったでしょ?頭はやめて。今度やったらほんとに怒るからね」
ぷんぷんと可愛く怒る仕草を見せる。優香も私と同じでかなりキャラ作っている。みんなの前でももっと今みたいにできれば雛井さんとも上手くいくと思うんだけど。でも、これでこそ優香だ。
「あとギルド名はほんとにあれで良かったの?」
「ええ、勿論!」
私は自信満々にそう答える。私の黒歴史より少し前の暗黒歴史とでもい言えばいいか?後悔しかない私のもう一つの子供時代。
「…………超絶物語か。懐かしいわね。私が無理やり優香を誘ってMMMOで作ったギルド」
「まさか一日で解散するなんて思わなかった。ずっと続けれるって思ってた」
あの時の優香はそんなふうに思っていたのか。私とは全く逆の意見だ。
「そう?あの頃の私達よ?一日以上ギルドが継続したことに驚きよ」
同じ時を過ごしてても人ってこんなにも考えてることが違うのか。
「なら愛箱先生に感謝しないとね」
MMMO内でギルドを作り一日で解散してしまった。その時のことは今でもはっきりと覚えている。いろいろな不運が重なり解散してしまった私のギルド超絶物語。きっと私のことを思ってこの名前を付けてくれたんだろう。
――いや、カユっちがそこまで考えてるわけないか。でも、本当に懐かしいな。あの頃は優香とこんなに仲良くなれるなんて思ってもなかった。
「私の話はこれでお終い。もう少しでご飯できるって吉田さんが言ってたよ」
これ以上昔の話をしたくなかったのか優香は話を強制的に終わらせる。
「分かったわ。少し部屋でぼーっとしてから行くから先に行っといて」
「わかった。じゃ先に行ってるね。いつもそのまま寝るんだから今日はちゃんと起きてきてね」
「はいはい、分かってるって」
――話を終え優香は私の部屋から出て行った。もうすぐご飯って言ってたな。今何時だろ?時間を確認しようとマジックフォンを確認すると美穂からルーム招待が届いている。
ギルド専用のアプリだ。アプリ――魔法使いの集まり。誰が名前を付けたのかわからないがもっとかっこいいネームングにできなかったのだろうか?
通話やチャットがし放題、ギルドの掲示板も見ることができる上にクエストまで受けることができる。いろんなギルドが愛用している神アプリだ。そうか、私もギルドに入ったのか。そう思うだけで、私は自然と笑顔になる。
――美穂さんがルームを制作しました
――美穂さんがルームに名前を付けました。
――ギルド超絶物語
美穂:森里お姉さまLOVE!うおおおおおおお。
漆黒のおとさー:あんた今日はよくも逃げたわね。明日覚えておきなさいよ。
美穂:うわー美穂先輩名前痛すぎ。
漆黒のおとさー:別にいいでしょ?
美穂:身内しか見ないのに変な名前付ける人ってほんとにいたんですね。はっきり言ってドン引きです……。
漆黒のおとさー:うっさいわね。別に人の勝手でしょ?
漆黒の直也:俺も先輩と一緒にしてみました!
美穂:…………。
つかさ:お前ら楽しそうだな。
美穂:森里お姉さまと一緒の会議とかマジ死ねる。
森里:あのこれ
美穂:森里お姉さまきたああああああああああ!!
つかさ:テンション高すぎだろ。
森里:ごめんなさい。打つのまだ慣れなくて。
漆黒のおとさー:ゆっくり慣れてけば大丈夫よ。
森里:ありがとうございます。神奈月さんはいないんですか?
漆黒のおとさー:あの子、マジックフォンあんまり見ないから多分気が付いてないわ。
つかさ:こんな機能があったのか。便利だな。
漆黒のおとさー:大体のギルドが使ってる便利なアプリよ。これからギルドの連絡はここにしてくわね。
森里:分かりました。
漆黒の直也:了解です!
つかさ:分かった。
美穂:おっけー
「楽しいな……」
私は呟いた。
くだらない内容だ。本当にくだらない。このくだらない時間が幸せだと思える人――それは一度絶望を味わったことがある人だと私は思っている。
最近、楽しいことが多くなってせいか毎日が楽しく感じてしまう。一日が早く終わるように感じる。前までは一日一日が無限の時間のように感じていた。ずっとこの時間が続いてほしい。
ずっと続けるのは無理ってわかっている。でも、できるだけ……できるだけ多くの時間をこのメンバーで過ごしたい。出合って間もないけど、みんなでいるとずっと昔から仲が良かった――そんなふうに思ってしまう。




