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早田音さよの超絶物語  作者: 中二病少女
第一章 私達の出会い
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ライトロード魔法学校

 雛井が言っていた学校に到着する。学校に来る間にいろんな場所を通ったがほとんど俺のいた世界と変わらなかった。車も自転車も普通に通ってたし、コンビニやスーパーも普通にあった。中は入ってはないが外から見た感じ俺のいた世界のものと変わらなかった。すれ違う人やコンビニから出てくる人――すべてが普通だ。ここがほんとに魔法使いの住む世界だったらもっとこう空飛ぶほうきとか魔法で動く車とかあってもいいと思うんだけどな……別の世界に来たと言うよりも別の町に来たと言ったほうが正しいのかもしれない。

 これだけ見るとまだ俺は夢を見てるだけなんじゃないかと思ってしまう…………。でも――これは紛れもない現実だ。さっきのケルベロスに襲われたことを思い出す。よくあれで死ななかったな俺。それもこれも全部この目の前にいる雛井のおかげだ。こいつには感謝してもしきれない。

 そういや学校ってこんなに夜遅くまでやってるものなのか?帰宅部だったので学校がこんなに遅くに学校に来るのに違和感がある。結局、俺は記憶を思い出すことはできなかった。俺は部活には入ってなかったから友人と言える友達はそんなに多くなかった――でも、たった一人だけ親友と呼べるくらい仲のいい友達がいた。そいつのことすらも思い出せないけど……。

「あれ?門が閉まってます」

 学校はどこからどう見ても普通の学校にしか見えない。普通の学校と比べると少し大きいくらいか。魔法学校って言うくらいだから結構期待してたんだけどな……。

「もう遅い時間だし誰もいないんじゃないか?」

「そ、そうですね。ごめんなさい、私こんなに遅い時間に来たことなくて……」

 実をいうと最初からあまりあてにしてなかった。さっきはテンパっていてこいつのことを頼もしいと感じでいたが……一緒に行動しているとどうもそうは見えない。森を抜けてからのこいつはずっとおどおどしてるし、なんか世間知らずっぽい感じがする。さっきはあんなに頼もしかったのに……。まあ、世間知らずとか別の世界から来たばかりの俺が言える立場じゃないけど……。さて、今からどうするか。

「今からどうしましょ?」

「うーん、お前は友達とかいないのか?仲のいいやつで」

 このままじゃあまり有益な情報は得れそうにない。

「ご、ごめんなさい…………私その、親しい友達とかあんまり居なくって……」

 雛井は言いづらさそうに言う。さっきそんなこと言ってたな。

「そうか、悪いこと聞いたな」

「いえ、気にしないでください。別に全くいないってわけじゃないので……」

 雛井はあははと笑いながら誤魔化す。こいつ友達いないのか……出会った時は確かに俺のことを警戒していた気がする。今も少しは警戒されてると思うが、最初よりはマシになったと思う。喋ってる感じだと友達くらいたくさん作れそうな気がするけどな……。

「あなた達そこでなにやってるの?」

 ――――いきなり声をかけられ勢いよく後ろを振り向いてしまう。なんだこいつ?

「そ、そんなに驚かなくても。ただ話しかけただけよ?」

 さっきあんなことがあったせいでつい過剰に反応してしまう。

 長い黒髪に整った顔立ちの女。年は二十歳前後だろうか?雛井の知り合いか?

「こ、校長先生!」

「こいつが校長?この女が?」

 少し驚いてしまう。あまりの若さに普通の教員でも全く違和感がない。むしろ、校長って方が無理がある気がする……。俺の中では学校の校長って年寄のイメージが強いからそう思ってしまうのだろう。

「ええ、私はこのライトロード魔法学校の校長です。帰りの戸締りをしていて、あなた達がいたから話しかけたのよ。こんなところで何してるの?」

「そ、それは……」

 ここで言ってもいいが学校の校長に話すことなのか?ここにきて迷ってしまう。

 それにこいつに俺の話を信じてもらえるのか?しかもこんな若くて経験の浅そうな校長に……。警察とかに相談した方がいいんじゃないか?そもそももしほんとに別の世界なら警察なんて存在してるのか?

「この神山つかさ君が迷いの森の中で記憶を失って倒れてたんです」

 ――などと考えてる間に雛井が状況を説明していた。まあ、警察に言ってもガキの遊びってことでまともに取り合ってもらえなさそうだしこの校長でいいか。なんでもいい――今はとにかく情報がほしい。

「えっと、とりあえずここは寒いので学校に行きましょうか。そこで詳しい話を聞くわ」



 校長に連れられて人気のない廊下を歩く俺達。月の光が差し込み真っ暗な廊下を明るく照らす。薄暗くてあまりはっきりとは見えないが周りを見渡してみてもやっぱり普通の教室と変わらない気がする。この校長ってやつも普通の人にしか見えない。本当に魔法使いの学校なら魔法使いっぽいものがあってもいい気がするけど。



 しばらく歩き校長室に到着する。校長が電気をつけ辺りが明るくなる。校長室も俺が見たことある校長室と然程変わらない。高そうなソファーに机、高級感あふれている。

 違和感があるとすれば奥の棚に立てかけてある鎖でぐるぐるに巻かれている箱くらいだろうか?この部屋の雰囲気壊しすぎだろ。学校なんだから倉庫とかでも入れればいいの……。

「ああ~着いた~。なんでこの学校はこうも大きく作ってあるのかしら。ただ歩くのめんどくさいだけだわ!あ、このソファーにでも適当に座って」

 校長は奥の自分の机には座らず客用の俺達とは反対側のソファーにダイブし、寝転がりながらソファー顔をうずくめる。

「やっぱこのソファー最高ね。このソファーがなかったら私校長なんてやってないわ~」

 こんなのが校長でいいのか?これじゃ教師にすら見えない。

「それじゃあ、早速話してもらえる?あ、別に校長先生だからってそんなに緊張しないでいいから」

 態勢を立て直し校長がそう言ってくる。こんなんじゃ緊張しようもないだろ。思わずツッコんでしまいたくなる。この学校はこいつが校長で大丈夫なのか?隣の雛井を見ると少しそわそわしている。こいつはこの校長相手に緊張でもしてるのだろうか。



 俺は今まであったことをすべて話した。俺が話を始めると校長は先ほどまでの態度とはまったく違い真剣な表情で話を聞いていた。これは期待できそうだ。雛井もさっき言っていた。校長は凄いやつだって……。もしかしたら案外すぐに帰れるんじゃないか?

 話が終わると、うーんと顔に手を当て考え始める。

「話しを聞く感じだと記憶喪失は自然になった可能性もあるけど、多分魔法が原因かもしれないわね」

 そうか……完全に忘れていた。今思えば確かにそうかもしれない。魔法が存在する世界。俺の常識が一切通用しない――そんな世界だってことを忘れていた。

「いきなりで申し訳ないんだが、校長の魔法で俺の記憶は戻せないのか?」

「私の魔法で?ごめんなさい。私にはそういう魔法は使えないの」

 さすがにそんなに上手くいかないか……。こいつでも無理となるとやっぱり俺の記憶はもう戻らないのか?一体これからどうすればいいんだ……。でも、魔法のせいで記憶がなくなったってことが分かっただけでも十分か。

「――今の話しが本当にならね」

 は?何言ってるんだこいつ。急に校長の雰囲気が変わる。

「確かに今のあなたの言うことを信じるのは簡単だけどあなたが私を騙すために嘘をついてる可能性もあるわ」

「は!?なんだよそれ!なんで俺が嘘をつく必要があるんだよ!」

「だから言ってるでしょ。私を騙すためって」

「お前を騙して俺に何のメリットがあるんだ?」

 突然意味不明なことを言い出す校長に対して俺は喧嘩口調になってしまう。

「この学校には立入り禁止区域ついてのいろいろな資料があったりするの。もしそれを悪用されたらいろんな人達に被害がでるの?分かる?」

「わからねえよ!ならなんで俺を学校の中に入れてるんだ?」

 頭では怒ってはいけない――そう思っていても口に出てしまう。

「今は私がそばについてるからいいの。危なかったわ。もし私がいないときにあなたがこの学校に来たらどうなっていたか」

 だめだこいつ……全く俺を信用する気がない。

「では仮にあなたの言ってることが本当にだとしましょう。でもそれはあなた自身がそう思ってるだけで実際はそうじゃないかもしれない」

「は?どういう意味だ?」

「さっきも言ったけど魔法で記憶を消せるように記憶を書き換えたりもできるの。つまり、記憶喪失にっなったとあなた自身が思ってるだけで実際は記憶を書き換えられてるだけかもしれないってことよ」

「待ってください。校長先生!神山君はそんなんじゃないです」

 今ままで黙っていた雛井が口を挟んでくる。

「雛井さんは断言できるの?もしそうだったら責任取れるの?」

「それは……」

「だったらもういい。悪かったな。無駄な時間を取らせて。信じてもらえないなら自分で何とかする。帰るぞ、雛井」

「待ちなさい。あなたにはここで死んでもらうわ」

 …………一瞬こいつが何を言ってるか理解できなかった。死ぬ?誰が?俺が?何で?さっきのケルベロスに襲われた時のことを思い出す。

「な、何言ってるんだよ!なんで殺されなきゃいけないんだよ!!俺が何したって言うんだよ!」

「言ったでしょ。あなたは危険な存在なの。そんな人を黙って帰すわけにはいかないわ」

「待ってください!なんでそこまでするんですか?神山君は――」

「何度も同じことを言わせないで。危険だからです。それ以外に理由はありません。邪魔するなら雛井さん、あなたも容赦なく殺します。これは仕方ないことなんです。分かってください」

 こいつ狂ってやがる――これが校長のやることかよ……。人殺し――この世界では当たり前のことなんだろうか……。

「雛井は黙ってろ」

「でも……」

「こいつは俺とは関係ない。だから手を出すな」

「おお、かっこいいですね。雛井さんのこと好きなんですか?」

「そんなんじゃねえよ。こいつには助けてもらって恩もあるしな。ただそれだけだ」

「逃げようなんて考えないでくださいね。もしそんな素振りを少しでも見せたら――雛井さんを殺します。私に生徒を殺すなんてことさせないでくださいね」

 校長は笑顔でそう言った……。これで完全に逃げれなくなった。いや、ここで逃げても助かりそうにないし別にどうでもいいか。そうか……俺はここで死ぬのか。どうせケルベロスに出合った時点で一回死を覚悟したしな。一日で二回も死にそうになるなんて思ってもなかった。

「こ、校長先生……殺すなら私を殺してください。神山君をここに連れてきたのは私の責任です」

「何言ってるんだお前バカだろ」

「そうですね。バカかもしれません。でも、と、友達を見殺しになんてできません……」

 雛井は震える声でそう言った……。なんで今日出会ったばかりの俺にここでしてくれるのか。やっぱりこういういざって時にこいつは頼りになる。普段もこれくらいしてほしいものだ。そうすればきっと友達なんてすぐできただろう。このままこいつに任せれば本当にこの現状を何とかしてくれそうな気がする……。でも――――

「そうか、なら良かった。俺はお前のことなんて友達とも何とも思ってないから安心しろ」

「え…………」

 友達じゃない。そう言われたのが相当ショックだったのか、雛井は目に涙を溜めて立ち尽くしてしまう。

「そういうのうざいからやめてくれる?」

 俺達のやり取りをみて待ちくたびれたのか――校長は自分の机の隣にある棚に立てかけてあった鎖でぐるぐる巻きにされている長い筒状の箱を開ける。その中から出てきたのは槍だった。槍なんて初めて見る。

「これはね。超魔双シリーズの一つ――超魔双グングニル。これは凄いのよ。投げて相手を貫くと使用者の手に自動で戻ってくるの。どう?すごいでしょ」

 自慢げにそう言ってくる。グングニルってなんだよ。神話とかの伝説の武器まで存在するのか。ケルベロスがいたんだから別にあっても全然不思議じゃないか。

 それに――俺でもわかる。あの槍感じる圧倒的な威圧感……。見ているだけで息がしづらい。一振りでこの学校でも破壊でる――そう思わせるほど、あの槍からは特別な何かを感じる。

「さてどっちから死にたいのかしら?」

 っくそ!どうすればいいんだ……。何かできることはないのか?なんとしても雛井だけは助けたい。俺に関わったせいで殺されるなんてありえないだろ。何としてもそれだけは阻止する。

「お前みたいな頭の弱いやつが校長なんてこの学校のやつは可哀想だな!同情したくなるぜ」

「それは雛井さんを殺させないようにするために私を挑発してるのかしら?ふふ、面白いわね。そんな子供だましに乗るの人なんてこの学校の生徒会長くらいですよ」

 俺の容易な考えはいとも簡単に見破られてしまう。

「でも、そこまで言うならいいでしょう。雛井さんは殺さないでおきます。可愛い生徒ですからね。この場はあなた一人の命で許してあげます」

「校長先生!」

「雛井さんは黙ってください。あなたは彼の覚悟を無駄にしたいんですか?」

 雛井はそう言われ黙り込んでしまう。これでこいつも殺されずに済んだだろう。

「あなたには悪いけど死んでください」

 せめて自分が何者なのか思い出してから死にたかった。死ぬ寸前に走馬灯を見るとか聞いたけどあれってどうなんだ?まあ、記憶がないからそんなのも見れないか……。

 意外にもこんな理不尽な死に方でも簡単に受け入れることが出来ている自分に驚いた。きっと雛井が助かるのが分かったからだろう。誰かの命を助けた気になれる。人ってそんな理由でも死を受け入れることができるんだな。

「一撃で楽にしてあげます」

 そう言って構えていた槍を俺に向かって勢い良く突き刺そうとする。出来れば苦しまずに死にたいな……。

「神山君!」


 ――――校長が槍を貫こうとする瞬間、俺を守るように雛井が俺の前に立つ。あぁー……何やってるんだこいつ……。せっかく俺が守ってやったのに。俺を守ろうとしてるのか?ほんとバカだな……。また貸しができたな。でも、このまま槍で突かれて両方死んでしまうだろう。最後は今日初めて会った女の子に守られて死ぬか――肝心なとこで結局、俺は何もできなかった…………。こいつにはなんて詫びればいいのか。俺がこんなことに巻き込まなければ死ぬことなんてなかったのに……。もし天国や来世とかが存在してるならこいつには謝らないとな……。

 そして俺は目を瞑った。


 ――――それからどれくらいの時間が経ったのか。俺の体を槍が貫通することはなかった。

 どうなったんだ?恐る恐る目を開けると槍は俺達に当たる前に寸止めされていた。こいつの気が変わったのか?

「なーんてね!どうだった今の演技?いやー我ながら完璧の演技だったな。はっははははははは」

「は?」

 待て待て待て!!演技??こいつが何を言ってるのかが理解できない。どういうことだ?

「だから今のは全部嘘。ちょっとくらい驚いた?ねえねえ?」

 どう私凄くない?と言わんばかりの顔で俺達に聞いてくる。こいつに対して本気で殺意が湧く。

「なんだよ!!ふざけんなよ!!驚いたなんてレベルじゃねえよ!!!!」

「ごめんごめん。そ、そんなに怒らないでよ。いいじゃんちょっとした冗談よ」

「今のが冗談!?お前バカかよ!!やっていい冗談とやっていい冗談があるだろ!!」

「私的には今のはやっていい冗談なんだけどな……」

 ここまでずれていると呆れてものが言えなくなってくる。雛井も腰を抜かしていて呆気にとられている。

「いいじゃんちょっとくらい。年寄りのお遊びってことで大目に見て」

「年寄りってあんた何歳だよ?」

「女性に年齢を聞くなんて失礼ね」

 むかっ!!こいつ大人じゃなかったら殴りかかってるくらいの面倒くささだ。

「一応言っとくけど、あなたが本当のことを言ってるのは始めからわかっていたわよ。なんたって私こう見えても校長先生ですから!」

 校長は腕を組み自慢げに言った。はぁ~なんかもう慣れてきた。いちいちイライラしていたらきりがない。

「まあもし記憶を改ざんされててもそんな大した事ないしね。そもそも情報が漏れてたその時はその時で対処するしね。私ってすごくない?ねぇねぇ?」

「そんなことより俺はこれからどうしたらいい?全部ウソってことは記憶のこともか?記憶を戻せないのか?お前校長なんだろ?」

 校長の話をスルーして話を進める。

「うーん。最初の話はほんとかな。私には記憶を戻すことはできないし、記憶を戻せる人に心当たりもないかな。あなたに魔法をかけた人ならなんとかなるかもしれないけど……。それか可能性は少ないけど、自然に治るのを待つしかないわ」

 校長は悠長に槍を箱にしまいながらそう言った。

「っち、校長のくせに使えないな」

「何その言いぐさ。さっきから思ってたけどあなた大人に対してその言葉使いは失礼よ。敬語をつかいなさいよ。敬語を!」

「別にどうでもいいだろ」

「確かにどうでもいいわね」

 うざっ!なんなんだこいつは!

「一つ提案なんだけど、この学校に入学してみたらどう?どうせ行く当てもないんでしょ?住む場所くらいなら手配するわよ」 

 確かに今は金も住む場所もない。これからもしこの世界でずっとではないにしろ生きていくなら必要なものだ。でも、こいつの提案っていうのがどうも引っかかる。

「どうせまたなんか違う理由があるんだろ」

「お、さすがね。私の性格を理解してきたわね。本当の理由聞きたい?」

「聞きたくない。どうせくだらない理由なんだろ。もう俺は帰る」

「くだらない理由じゃないわ!」

「じゃあなんだよ」

「私のただの暇つぶし」

 ――知ってた。

「帰る」

「いいじゃん、別に!入学式から一週間経って転校して来るなんてかなり目立つわよ。これでクラスで人気者間違いなし!別にウソはついてないし、お願い!どうせ行く当てがないのは本当のことでしょ」

「確かにそうだけど……」

 これを言われると何も言い返せない。

「あなたは知らないけどこの魔法学校にはギルド制度があるの。ギルドに入ればお金も稼げるのよ。最初は学校からの支援もあるし、お金ないと今後困らない?」

 確かに……。住む場所だけじゃなくて金すらないんだった……。

「学校なのに金も稼げるのか?どういうことだ?」

「入ったら教えてあげてもいいけどな……」

「じゃあ遠慮しとく。雛井はギルドのことについてはしってるか?」

「わ、私ですか?」

 俺はいまだに床に座り込んでいた雛井に話を振る。

「えっとですね、ギルド――」

「わあああああああああああああ」

 校長雛井の言葉を遮るためか大声で叫び始める。子供かよ!

「うるせぇな!」

「雛井さん、もしギルド制度について言ったら退学にしますよ」

 ドヤァと言わんばかりの顔でそう言い放つ。

「おい!そんなの職権乱用だろ!」

「これが校長先生の特権です!」

 こいつ完全に開き直ってやがる。

「っち。わかったよ!入ればいいんだろ!」

 聞いてみて合わなければ逃げだせばいいか。

 ――だか、俺のその一言を待っていたかのように校長がニヤっと笑う。そしてなぜかチューリップの様な白色の花を取り出した。

「なんだそれは?」

 恐る恐る聞いてみる……。嫌な予感しかしない。

「人の言葉を録音することのできる魔法の花よ。再生する花(リピートフラワー)って言うのよ。きっとあなたは初めて見るでしょうね」

 満面の笑みでそう答える。しまった……。校長が葉っぱの出っ張ってる部分の引っ張る。「わかったよ!入ればいいんだろ!」と俺の声が再生される。

「クズだな……」

「ははは。クズで結構!神山君、私はこれからあなたの通う学校の校長なのよ。それなのにそんな態度なの?」

 はあ――まあいいか……どうせこれから行く当てもなかったし。こいつの言いなりってのは気に入らないけど実際そんなこと言ってる場合じゃない。今の俺には何もないんだ。諦めてこの現実を受け入れるしかない。

「はいはい、すいませんでした。校長先生。じゃあ、ギルド制度について聞かせてくれ」

「あなたがどっから来たかわからないけど魔法が使えない一般の人が通う学校に通ってたと思えばいいのよね?」

「ああ、多分な。それで話しを進めてくれ」

「午前は基本的には魔法以外の普通の教科を勉強して、午後からが魔法を勉強する感じよ。午前はクラスごとに自分の教室で勉強するの。午後は自分のクラス、または自分の所属してるギルド室で勉強することになるわ。ギルド室って言うのはギルドごとに割り振られてる教室のことで勉強やクエストについて話す場所よ。ちなみに全員が全員ギルドに入ってるってわけじゃないわ。その為にクラスでの魔法の講習があるの。って言ってもほとんどは仲良しグループで雑談してるだけだからあなたが思ってるような魔法の勉強とは少し違うかもね。一週間もすれば慣れてくるわ」

 クエストか……ここでまた非日常的な単語が出てくる。ギルドやクエストなんてゲームの世界かよ……。

「部活ってわかるか?それみたいなものか?それにクエストって何だ?ゲームじゃあるまいし……」

「うーん、部活かー。まあそんな感じかな。少し前までは部活もあったんだけど魔法の勉強に集中してほしいってことで部活は撤去されちゃったの。私は部活動には賛成だったんだけどね――魔法は才能のある人しかできないうえに使える期間が限られてるからってのもあるけどね」

 学校に向かう途中にいろんなやつを見たけど確かに全員が魔法を使えるわけではなさそうだった。そもそも誰も魔法使いには見えなかった。

 それに使える期間って言うのはどういう意味なんだろう?魔法が使えてもそのうち使えなくなるってことなのか?

「次はクエストね。クエストって言うのはギルドの主な活動内容のことよ。学校に様々な依頼が届いてそれをギルドごとにやってくってことよ。まあ、届く依頼なんて基本はくだらないものばかりだけどね。しらないと思うけど、町の外には結構危ないとこもあってね。そこに物を取りに行ったりとかそんな感じかな。後はほとんどないけど偉い人の護衛とか人に害を与える生き物の討伐とか」

 いきなり話が物騒になる。こう言う話になると自分が元と世界とは別の世界にいるってことを実感できる。さっきの犬みたいな化け物と戦うのか?はっきりいって人が勝てる生き物とは思えないんだが……。

「そんなに危険なものもあるのか?たかが高校生にそんなことやらせてるのかよ?」

「大丈夫よ。言ったでしょ?ほとんどそんな危険なことは起きないし、それにもし起こってもほとんどは優秀なギルドの人たちだけで行くことになるから大体は安全よ」

 確かに俺が見たのはケルベロスが使った魔法だけだ。雛井も使っていたがよくわからなかったし、優秀な魔法使いはあの化け物を圧倒できるような魔法をみんな使えるのか?

 ――ん?それって大丈夫なのか?悪意を持った魔法使いで組織を組んだりしたら大変なことになるんじゃないか?

「他に何か質問はある?って言っても聞きたいことなんてたくさんあるか。説明するのめんどいからわからないことがあったらその都度周囲の人に聞いといて」

「ああ、そうするよ。あんたに聞くよりは俺もそっちのほうがいい」

「頼むから他の生徒の前ではその口の聞き方は辞めてね」

 この場ならいいのかよ!!こいつ校長としてダメだろ……。

「今日はもう遅いしもう帰りなさい。なんかもうめんどくさくなってきた。また後日マジックフォンとか生徒手帳とか渡すわね」

「飽きるの早すぎるだろ!」 

 それにマジックフォンってなんだよ?まあ必要になった時に聞けばいいか。さすがに俺も早く帰りたい。

「学校は明日から来てね。クラスは雛井さんと一緒にするから明日は雛井さんと一緒に登校しておいで。転校の書類とかは――ある程度はこっちで済ませておくから」

 学校ってそんなに簡単には入れるものか?一応校長だしその辺は大丈夫か。そういや俺は結局どこに住むんだ?

「おい、待て。俺はどこに住むんだ?」

「雛井さんの家よ」

「校長先生ちょっと待ってください!」

 今まで座り込んでいた雛井が大声をあげいきなり立ち上がる。こいつずっと座り込んでいたのか?

「何か問題でもある?確か雛井さんって一人で暮らしてるのよね?」

「それはそうですけど……」

 いやいや、一人暮らしの女の子の家に会ったばっかりの男を住ませるって相当危ないだろ。もちろん、俺はこいつに対して何もする気はないけど。

「雛井さん、友達が困ってるんですよ!」

「とも……だ、ち……わ、わかりました。えっと、神山君、不束者ですがよろしくお願いします」

 おい!!それでいいのかよ!!

「お前はそれでいいのか?俺は別に構わないけど、女の一人暮らしで、しかもお前はまだ高校生なんだぞ。なんかあったらどうするんだ?」

「なんかってなんですか?」

 雛井は俺が言っていることが理解できないのか首を傾げている。

「ねー神山君。なんかってなんですか?私も聞きたいんですけどぉ?神山君が雛井さんになにかするってことですかぁ?」

 あーうざい。校長の前でこんなこと聞くんじゃなかった。

「いや、何でもない。これからよろしく頼むな。雛井」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 雛井は丁寧に頭を下げてくる。

「そうそう神山君、あなたが記憶がないことと別の世界から来たってことは絶対に他の生徒には内緒にしておいて。生徒だけじゃなくて教師にも。信頼できる人ができたらその人になら教えてもいいわ。わかった?」

「は?なんでだよ?」

「――いいからこれは絶対です」

 いままでの雰囲気とは違い最初の真剣な感じの校長だ。きっとこれは真面目な話しなんだろう。

「分かったよ。内緒にしとけばいいんだろ」

「雛井さんもお願いね。このことは信頼できる人以外には絶対に言わないように」

「分かりました」

「では、今度こそお開きにしましょ」 

 こうして俺達は校長に見送られ学校を後にした。

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