第7話
聖也の部屋はモノクロ調できれいな部屋だった。三分の一がベッドのワンルームだったが、邪魔な物が何も見当たらない。たいがい男の人の部屋は綺麗なのだ。「怪しい」という人もいるが、きっと物が女よりも少ない事と、そして私のつきあう男たちはみんなセンスがいいからだと思う。
部屋を見渡すと、床にはプリントアウトをした写真が散らばっていた。大学の友達との写真だろうか。
「見ていい?」
「いいよー」
「大学の?」
「そう。楽しそうでしょ?」
みんなで楽しそうに集合写真を撮っているもの。友達と二人で変顔をしているもの。そして、六人での集合写真では両脇の女の子の肩へと腕を回し、酔っ払い顔でニコニコしているもの。
「楽しそう」
「大学生活楽しんでそうで安心したでしょ?」
今日はそんな写真も全く気にならなかった。ただ、何が目的でこんな写真を用意しておいたんだろう?そっちのほうが謎だった。
「ビデオ観ようか」
「うん。」
「ってゆうかさ、こうやってプライベートで二人で会ってるのって夢みたいだね」
「まーね」
「何その返事は?」
「はい」
明らかに気持ちが冷めてきているのがわかった。
それでも無理やりに楽しい気分を作ろうと、いつもと変わらずずっと笑顔で過ごしていた。
観る映画はホラー映画だ。高さの浅いベッドに二人で腰掛けながら、二人でジーっと画面に見入る。
「おっ」
「わー」
「こわっ」
何度感嘆をあげただろう。
最後の最後にものすごく怖いシーンが出てくると、
「何?今の?」
と二人は顔を見合わせる。エンドロールが流れる。
次の瞬間、右側に座る聖也の顔が近づく。そして、おもむろに右手を私の首の後ろに回してくる。
「愛してるよ」
「・・・」
私は何を考えていたのだろう。自分でもわからない。ただそれに私の体は応えていた。どのくらいの間キスを続けていただろう。聖也の右手が・・・
目覚めたら朝の五時だった。隣では聖也は気持ち良さそうに眠っている。何か喋った気がするがあまり気にも留めなかった。昨晩は一体なんだったんだろう?あんまり考えない方がいい気がする。もう少し眠ろう。
気がつくと、音楽が鳴っていた。
「あ、うるさかった?」
「ううん、大丈夫!誰の曲?これ」
「○○○○○○。いい曲でしょ?最近ずっと聴いてる」
私の好みと聖也の好みとでは、本当に合わない。そう思った。
「そういえば、昨日ごめん・・・」
「いや、大丈夫だよ」
気づけば、聖也には今日、「大丈夫」ばかり言っている気がする。
・・・・・・・
初めての気まずい沈黙が流れる。
「この歌詞いいね」
気まずさをかき消すために、思ってもいない言葉を放つ。
「♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聖也が口づさむ。
もう、終わりだな。この時しっかりとそう思った。
「トイレ借りるね」
「どうぞー」
トイレの中に着信音が聞こえた。私の携帯電話はバッグの脇ポケットに入っているはずだ。トイレから出ると、聖也が私の携帯電話を持っていて、焦りながらバックに戻す姿が見えた。
「電気どこー?」
気づかないふりをした。
「何か電話鳴ってたよ」
「ありがとう」
見てみると着信表示には、「聡」と表示されていた。携帯電話の画面を眺めていると
「いいの?かけ直さなくて」
「あとでかけ直すから」
帰り際には、家の玄関で、駅のホームで、何度もキスを交わした。
「なんかさ、俺たちまるで遠距離恋愛みたいだね」
「そうだね」
私にはこれがきっと最後のキスだとわかっていた。