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ボイス  作者: シアラ
7/9

第7話

聖也の部屋はモノクロ調できれいな部屋だった。三分の一がベッドのワンルームだったが、邪魔な物が何も見当たらない。たいがい男の人の部屋は綺麗なのだ。「怪しい」という人もいるが、きっと物が女よりも少ない事と、そして私のつきあう男たちはみんなセンスがいいからだと思う。

 部屋を見渡すと、床にはプリントアウトをした写真が散らばっていた。大学の友達との写真だろうか。

「見ていい?」

「いいよー」

「大学の?」

「そう。楽しそうでしょ?」

 みんなで楽しそうに集合写真を撮っているもの。友達と二人で変顔をしているもの。そして、六人での集合写真では両脇の女の子の肩へと腕を回し、酔っ払い顔でニコニコしているもの。

「楽しそう」

「大学生活楽しんでそうで安心したでしょ?」

 今日はそんな写真も全く気にならなかった。ただ、何が目的でこんな写真を用意しておいたんだろう?そっちのほうが謎だった。

「ビデオ観ようか」

「うん。」

「ってゆうかさ、こうやってプライベートで二人で会ってるのって夢みたいだね」

「まーね」

「何その返事は?」

「はい」

 明らかに気持ちが冷めてきているのがわかった。

それでも無理やりに楽しい気分を作ろうと、いつもと変わらずずっと笑顔で過ごしていた。

 観る映画はホラー映画だ。高さの浅いベッドに二人で腰掛けながら、二人でジーっと画面に見入る。

「おっ」

「わー」

「こわっ」

 何度感嘆をあげただろう。

最後の最後にものすごく怖いシーンが出てくると、

「何?今の?」

と二人は顔を見合わせる。エンドロールが流れる。

 次の瞬間、右側に座る聖也の顔が近づく。そして、おもむろに右手を私の首の後ろに回してくる。

「愛してるよ」

「・・・」

 私は何を考えていたのだろう。自分でもわからない。ただそれに私の体は応えていた。どのくらいの間キスを続けていただろう。聖也の右手が・・・


 目覚めたら朝の五時だった。隣では聖也は気持ち良さそうに眠っている。何か喋った気がするがあまり気にも留めなかった。昨晩は一体なんだったんだろう?あんまり考えない方がいい気がする。もう少し眠ろう。


 気がつくと、音楽が鳴っていた。

「あ、うるさかった?」

「ううん、大丈夫!誰の曲?これ」

「○○○○○○。いい曲でしょ?最近ずっと聴いてる」

 私の好みと聖也の好みとでは、本当に合わない。そう思った。

「そういえば、昨日ごめん・・・」

「いや、大丈夫だよ」

 気づけば、聖也には今日、「大丈夫」ばかり言っている気がする。

・・・・・・・

初めての気まずい沈黙が流れる。

「この歌詞いいね」

 気まずさをかき消すために、思ってもいない言葉を放つ。

「♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 聖也が口づさむ。

もう、終わりだな。この時しっかりとそう思った。

「トイレ借りるね」

「どうぞー」

 トイレの中に着信音が聞こえた。私の携帯電話はバッグの脇ポケットに入っているはずだ。トイレから出ると、聖也が私の携帯電話を持っていて、焦りながらバックに戻す姿が見えた。

「電気どこー?」

 気づかないふりをした。

「何か電話鳴ってたよ」

「ありがとう」

 見てみると着信表示には、「聡」と表示されていた。携帯電話の画面を眺めていると

「いいの?かけ直さなくて」

「あとでかけ直すから」

 帰り際には、家の玄関で、駅のホームで、何度もキスを交わした。

「なんかさ、俺たちまるで遠距離恋愛みたいだね」

「そうだね」

 私にはこれがきっと最後のキスだとわかっていた。

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