第4話
昨日の話は本当だったのか?夢だったのか?気がついた時には私は、自分の部屋のベッドで目覚めていた。午後三時半。バックを漁ると、遊園地のチケットが二枚入っていた。とっさに携帯電話を見る。
『ゆっくり眠ってね。おやすみ、優香』
夢じゃない。思い出した。あのあと一度だけ唇にキスをされて・・・。時間は四時半だった。さすがの聖也も少しだけ気まずかったのだろうか。次に会う約束だけして、始発で帰ってきたのだ。
『昨日はありがとう』
メールを打つが、照れくさくて、喜んでいる事は伝えたくない。まだ、聖也の行動は冗談だったのかもしれないという思いがどこかにある。そういえば今日は予定もない。考えることは聖也の事ばかりだ。今何をしてるんだろう?私の事は考えているだろうか?もしかすると友達と遊んでいて、私の事などこれっぽっちも考えていないのではないか?考え出すと切りがない。タバコをふかしながらボーっとする。
電話が鳴る。ヤスだ。
「もしもし」
「お前最近なんかあった?」
「え?何で?」
「なんか冷たい」
「そんなこと・・・」
「はっきり言えよ」
「別に何にもないよ」
「じゃあ、別にいいけど、バイバイ」
電話はすぐに切れた。バイバイって、永遠にバイバイだろうか?今日のバイバイだろうか?どうせなら、永遠でもいい。そんな気持ちがあるが言い出せない。最近のヤスからは、私から別れを切り出してほしいようにも思える。それとも、本当に私が最近冷たすぎるのかもしれない。それでも、思い立ったが吉日。早く物事を済ませようと考える。
『ヤス。バイバイ。ごめんね』
・・・・・・。
ベッドに横になり、携帯電話を握り締めながら天井をボーっと見つめる。ヤスからの返信も連絡もこない。それどころか、聖也からの連絡もこない。暇すぎてしかたがない。メールの受信音が鳴る。急いでメールを確認する。
『来週の土曜日あいてる?柏で飲もう?』
親友の樹里からだった。聖也と同じく高校時代のクラスメイトだ。
『来週はちょっと用事があるの。ごめん、また連絡するね』
即効で断りのメールを入れる。来週はまた聖也に会う約束がある。あ、そうだ・・・
『そういえば、聖ちゃんとつきあうことになったんだけど!』
シャワーを浴び、髪の毛をタオルでパンパンと乾かしながら、またベッドに横たわる。
また暇だ。こんな時は地元の友達と遊ぶしかない。聖也のことで話したいことがいっぱいだった。アカリにメールを入れてみる。
『今日あいてる?』
『今、初石のデニーズにいるよ、来て!ちなみに亮二たちもいるけど』
ちょっと躊躇したが、まーいっか、暇だし行ってみよう!と決め、歯を磨く。
『じゃあ、一時間後に行きます!』
ドライヤーで髪を乾かし、ファンデーションを塗り、眉毛だけ書くとすぐに家を飛び出した。
「ひさしぶりー」
「優香ーーー」
懐かしい声が響く。大学に入ってから時間が取れなくなり、ひさしぶりに地元の友達と顔を合わせた。私を含めて四人だ。亮二も清々しい顔でこっちを見て笑顔だ。実は、亮二は、私の前に付き合っていた彼女との間に子供ができ、亮二の知らない間に一人で生むことを決めていたところに、亮二が戻っていったのだった。私との関係は半年で終わっていた。
「亮二、パパの調子はどう?」
「最悪!全く遊べねーし」
「あたしもママになりたーい」
「ヤスとの子供早く産めよ」
「実はさ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・
「おめでとう」
「でも、ヤスも悲惨だな」
「しょうがないよ。やりたい放題だったし」
アカリがすかさずフォローに入る。その時、私の携帯電話の受信音が鳴る。樹里からだ。
『聖也って今新しい彼女いなかったっけ?』
私は動揺する。でも、誰にも言えない。
みんなの会話は次から次へと進んでいくが、周りの声が半分しか耳に入らない。
「せいぜい、その聖也くんとお幸せにな」
あやふやな対応をしているところで、会話は違う話へと移る。
それから今夜もカラオケだ。
「ラブラブな歌聴かせるなよ」
「うるさいなー」
本当は気になっている。考えるのは後にしよう。すると、着信音が鳴る。聖也だ。出ようかどうしようかと迷っている間に電話は切れるが。すかさずメールが入ってくる。
『今日は一日中ゴロゴロ寝てたよ、優香は何してるの?』
『私もゴロゴロてたけど、今は地元でまたカラオケだよ』
『そっか、楽しんできてね』
メールなんて打っている暇もないが、メールが終わってしまうのも悲しい気がする。帰ってからにすればいいや、と考えて、今を楽しむことに専念する。
気がつくと夜の十一時。いつもより早いが今日は他に考えることもできてしまい、早めに家に帰ることにした。
「じゃあねーバイバイ」
「お幸せにーーー」
「うるさいし。バイバイ」
みんなそれぞれに色々と恋愛をしてるようだった。私の恋愛は正しいのか間違っているのか、自転車を漕ぎながらしばらく考えていたが答えはわからない。
『おやすみ、チュッ』
聖也からだ。ショックだった。本当にもう寝てしまうのだろうか。それとも・・・。
さみしくてしたまらなかった。家に着くと、
「お風呂沸いてるわよー」
「シャワーでいいや」
「やーねー・・・」
ボソボソと母親の声が聞こえたが、私は部屋のドアをバタンと閉めて、樹里にメールを打つ。
『え?聖也って今も彼女いるの?知らなかった』
『なんとなくそんな噂を聞いただけ』
返す言葉が見つからない。色々な考えが浮かぶ。想像力が今までに無く掻きたてられ、私にはひとつの想像が浮かぶ。もしかすると、ヤスが冷たかったのは別れたかったからなのかも知れない。私から別れを切り出させたくて、聖也に私を落とすように頼んだのかも知れない。一度考えてしまうと、全てがそう思えてくる。聖也のおでこにあった傷は、ヤスにつけられた傷なのか。そう考えると全て辻褄が合ってくる。頭をブルンと振る。まーいいか。ダメなら他を探せばいいんだから。そんな、今までのような考えと、今回は違うんだ、という思いとがある。聖也とはずっと友達でいたかった。付き合うことが無くても、ずっと何でも分かり合える友達でいたかった。それでも、気づいてみたら私は、聖也の事など何ひとつ知らなかったのかもしれない。どんな女の子がタイプで、家に帰ると何をやっているのか。いや、そんな事じゃない。本当の嘘つきなのか?いつも冗談ばかりで、どれが本当でどれが嘘なのかもわからない。彼女いるの?聞きたかったがどうしてもそれを聞くことができない。重い女に思われたくない。聖也が遊びなら、私も遊びだっていい。ただ二人の「仲良し」の関係が壊れる事が嫌なのだ。
『寝てたらごめん。今帰ったよー。』
返信が、電話が、欲しかった。
それでも返事はなかった。