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ボイス  作者: シアラ
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第2話

 高校を卒業してしばらくすると聖也から連絡がきた。

「俺、一人暮らし始める事になったんだ」

「えー、いいなーどこどこ?」

「上野だよ、上野。俺、都会が好きだからさ。お前と違ってさ」

「そうだね、あたしは田舎が好きだからね!」

 普段は私の事は優ちゃんと呼ぶが、たまに「お前」と呼ぶ事がある。

「お前はやめて!ちゃんと名前で呼んでよ」

 しばらくはそう言っていたが、いつも変わらないのでもうとっくに諦めている。

 何度連絡をとっていただろう。私には相変わらずヤスが傍にいる。ヤスというのは、高校時代の一つ年下の後輩で、地元では有名なチーマーの頭だ。何度か偶然が重なり合い、やがて友達になり、それからヤスからの告白を受けて付き合うことになった。人懐こいヤスは、誰とでもすぐに友達になる。聖也も私との絡みから知り合いになり、たまに会話をする仲になっていた。それでも最近、電話でのヤスの様子が異様でどこかおかしいのだ。会う時は優しいのだが、電話ではやたらと攻撃的だ。

「優香、俺のこと本当に好き?俺は結婚したいけど、お前のことがわかんねーんだよ!態度が気に食わねー」

「俺、アイパーにするわ!もう暴走族もやめねーし!な」

一体何がしたいというのか訳がわからない。悪い少年との付き合いも大学生になったら縁を切りたい、と思うようになってきた矢先の話だった。

 聖也から連絡がきた時に、

「会いたいな」

 ついそんな言葉が口を突いて出てしまった。

「いいよー。いつにする?」

 相変わらず軽い聖也の言葉。

「来週の土曜はどう?次の日休みだし」

 どんどん言葉が飛び出してしまう。

「じゃあ土曜なら・・・夜11時半でどう?」

「オッケー!場所は?」

「柏のJR改札な」

 早々と会う日程が決まってしまったが、よく考えれば「お泊り」か「オール」は決定の時間という事だ。私はそんな事は聖也に合わせておけばいいや!という軽い気持ちだった。


 4月29日土曜日、夜10時。聖也からの電話が鳴る。

「悪いんだけど1時間遅らせて」

「わかった!」

「じゃあ後で」

 メイク直しに掛ける時間にも少し余裕ができる。オレンジ色のチークを入れてアイラインを目の下まぶたにまで入れる。そして眉の生え際まで真っ黒に塗りつぶす。今夜のメイクは少し濃いかもしれない。アイラインで囲みラインにするのは、クラブに行く時だけだ。私自身もなぜなのかわからないが、今夜のお出掛けはヤスとのデートよりも少しドキドキする。

「気のせいだよ」

 そう自分に言い聞かせる。慣れもしないタバコをくわえて、約束の時間までのんびり過ごす。家から最寄駅まで20分。そこから柏駅まで20分。大学生でアルバイト生活の私には経済的な余裕がある訳ではない。五千円札をお財布にねじ込むと、

「いってきまーす」

「ヤスくんなのね?」

 母親が尋ねる。

「・・・うん、そーだよ」

「いってらっしゃーい」

 少し後ろめたさを感じながらも、めんどくさい話をする時間も気持ちも今はない。4月だというのにまだまだ夜は肌寒い。「めんどくさいからいっか」上着を取ってこようか迷ったが、いつの間にか時間がぎりぎりになっていしまっていたので諦めた。今日はカーキ色のミニスカートに黒いフード付きパーカーだ。私のトレードマークは元気なミニスカート。地黒で幼児体型な分、私がミニスカートを履いても、いやらしく思う人はほぼいないだろう。時計の針は11時半を指す。駅まで自転車を飛ばす。

 駅の光がそろそろ見える場所に差し掛かるが、「あれ?うそ?」電車の時間を調べなかった。田舎のこの駅はそう遅くまで電車は通っていない。深夜に出掛ける時はたいがい、先輩たちの車で移動する事が多いので、まさかこんな時間に最終電車が出てしまっているとは思いもよらなかった。

「電車もうないよー」

 いつもならすぐに聖也にそう伝えるはずだ。何でも隠さずに話せる存在。それでも今夜の私は、「来週にしようか」そうなる事を恐れている。自分でもわからない感情だったが、急いでタクシーを見つける事を選んでいた。駅前に行くと、まだタクシーは2台停まっていた。

「柏駅西口までお願いします」

 車だと1時間は掛かるだろう。自分でも気づいていた。今日の私の行動はどこか少しおかしい。私は決して真面目な訳ではないが、恋愛では「体の浮気はしない」「二股はかけない」心に噓はついても、それだけは今までずっと守ってきたし、友達にも彼氏にもそれだけは守ると断言してきたのだ。「まさかね・・・」私はそれでも平然としていた。

「3300円です」

 深夜のタクシーはこんなにも掛かるものなのか。少なくともあと5時間は聖也と一緒にすごす事になる。付き合ってもいないのに、ましてや彼氏がいる身で、聖也に奢ってもらう気には到底なれない。お財布には7000円あったが、残りは4000円弱しかない。どうしてなのか、聖也にはタクシーの話だけは絶対に言いたくない。こんなに必死な気持ちに気づかれたくない。それでもコンビニも無い。あったところで貯金なんてありもしない。あと5000円持ってくれば良かったな、そんな気持ちでいっぱいだが、時間が無い。0時33分。

 改札まで走る。やっぱり肌寒い。今日はやっぱり・・・。それでも走り続けている。JRもまだ走り続けている。そろそろ終電が近いのだろう。駅には人がぞろぞろといる。

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