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四回目

夕食を終えた私は散歩へと向った。

この道は水路の脇をずーっと続く道。

もみじが在ったり、しだれ柳があったり。

ファインダーを覗いては銀と話をした。

もちろん写真も撮った。

銀が居る風景を切り取った。

「銀」

「あん?」

「写真。ちゃんと写ってるかな」

「如何だろうな。そういえば八千代は目は良いのか?」

「悪いよ」

「おいおい。ピント合ってんか?」

「あ……」

「頭も悪いのか」

「酷いなあ。猫のくせに」

「猫で悪いか」

「私結構頭いい方なんだよ」

「ほんとかよ」

「ほんとだよ」

他愛もない会話をした。

そんな会話でも私は楽しかった。

一人旅恰好よくね?何て思っていたけど、これはこれで良かった。

そして散歩で歩いていた道は終点を迎える。

有名なお寺さん。

その中でも有名な建物をファインダー越しに覗いた。

「銀。銀」

「何だ。何だ」

「ここの建物、銀と同じ名前」

頭文字には銀のがついている。

銀が付いてるのに銀色じゃない。

金が付いてる方は金色なのに。

「ほら銀撮るよ」

「はいはい」

「笑ってー」

「笑えません」

猫の銀は笑えないという。

笑顔を作れないという。

シャッターを切る私は笑ったと思う。

「銀色じゃないね」

「そうだな。残念か?」

「ううん。この古い感じ好きかも」

「そっか」

私はうーんと伸びをした。

「今日はこんなもんかな」

少し境内を回り、その後タクシーでホテルに戻った。

部屋に戻った私は、やっぱり銀と話をした。

で、喧嘩した。

この糞猫私の事を……人が気にしている事を!

実際私は目が悪くてメガネを掛けるべきなんだけど。

でもそれは、眼鏡を掛けるという行為は命取りとなる。

だって似合わないから。

普通の似合わなさを超えるレベルだから!

そんな私に銀はこんな質問をした。

「八千代は目が悪いのにメガネ掛けないの?」

「いや。まあ」

「コンタクト?」

「いや。コンタクトは怖くて」

「じゃあ何で?」

「笑わないでよ」

魔が差した。

旅行中で、さらに不思議な体験中という事で浮かれていたんだと思う。

メガネを掛けて鏡に映った自分をファインダー越しに見る。

そこには腹を抱えて転げまわる銀が居た。

猫が腹抱えるってどーよ!

顔はどっちかと言うと威嚇してる時の顔みたいだけど。

「ぎゃはは!何それ!メガネブス!」

「銀!」

「ぶははは!」

「ちょっと!酷くない?メガネブスって!」

「だってさ。だははは!」

「銀は笑うと変な顔のくせに!」

「はぁ?何言ってんだ八千代。……ぷっ」

「威嚇したみたいな顔してさ!猫なんて脳味噌これっぽっちしかないから表情が作れないんでしょ?」

「小さい脳味噌で悪かったな」

「ほーんと。やだやだ」

「八千代のメガネの方が嫌だけど」

「この脳味噌不足!」

「このメガネブス!」

私はカメラをベッドに置いてシャワーを浴びた。

シャワーを浴びながら少し後悔した。

いや。少しじゃないや。

嘘ついた事を後悔した。

私にメガネが似合わない事は当たってる。

でも、銀は表情無くても、笑ったり、怒ったり、色々な表現を見せてくれる。

私の気の所為かもしれないけれど、それでも私にはそう感じた。

だから表情がないなんて、嘘だ。

うん。謝ろう。

私はシャワーから出るとすぐにファインダーを覗いた。

「さっきはごめん。言い過ぎたよ」

銀はすぐにそう言った。

「ん?」

「だからごめんって」

銀は卑怯だ。

私が先に謝るはずだったのに。

「私もごめん」

「仲直りだ」

「そうだね。うん。仲直り」

そう言って私はシャッターを切った。

まるで修学旅行の夜のように、私と銀は遅くまで話した。

いつの間にか私は寝てしまったけど。

この時24枚撮りのフィルムは残り14枚。


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