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二回目

そんなこんなでカメラを手に入れた。

私は家に帰って弄り倒した。

可愛過ぎる。

何この機械。

ありがとうお爺さん!

こいつめー。

愛いやつめー。

あひゃひゃひゃ。

私はファインダーを覗いた。

私の部屋の一部分だけが映し出されている。

「切り取る……」

呟いた。

お爺さんの言葉を思い出した。

お爺さんは思い出と言っていた。

思い出。

そうだ!

旅だ!

安易な考えだった。

思い出と言えば旅行。

一人旅とか恰好よくね?なんて思った。

だから、だから私は旅行に行く事にした。

一泊二日。

観光地。

一杯考えて、一杯調べた。

考えてる時に楽しすぎて涎が垂れたのは内緒。

そんな涎を垂れ流してる時だった。

大変な事実が私を襲った。

先立つものが無い事に気が付いたなう。

で、夏中バイト三昧。

旅費を稼いだ。

かー!いい汗かいたぜ。

もちろん家では一眼レフを愛でた。

無駄にファインダーを覗いた。

そして私は見事、夏の間に旅費を稼ぐことに成功した。

旅行先も決めた。

泊まる場所も決めた。

もちろん予約も取った。

新幹線の切符も買った。

カメラよし!

フィルムよし!

思い出作りの準備は整った。

いざ秋空の中、思い出作りの旅へ。



そんな訳で、私は現在新幹線揺られている。

新幹線ってあんまり揺れないけど。

とりあえずはお昼の駅弁タイム。

やっぱり旅行と言ったら駅弁。

何だこれ!美味しすぎる!

駅弁タイムを終えて少し仮眠。

アナウンスで目的の駅の名が告げられる。

新幹線はホームへと滑り込む。

ここからは地下鉄。

私は電車を乗り継ぎ宿泊地へと向かった。

すぐにでも観光したい気持ちを抑えてホテルへ。

チェックインを済ませて部屋に。

うーん狭い。

激安だったからしょうがない。

窓から街を見てみる。

おう!

和風な景色が広がっている。

景色は最高だよ!来て良かったー!

おっと。ここでこんなに感動してちゃ駄目だった。

荷物を置いていざ観光へ!

と、その前に。

ここにきて一大イベントの到来です。

リバーサルフィルム24枚撮りと高々と掲げる私。

このフィルムをカメラにセットするという!

ああ、もう手が震える。

ふーるーえーるー!だっはー!

とりあえず落ち着き、慎重にカメラの裏蓋を開ける。

フイルムを少しだけ出してスプー……。

あれ?なんだっけ?でもここで止まる訳には。考えるな!感じるんだ!

とりあえず装填。

裏蓋を閉めて、空シャッターを数回。

これで、これにて準備完了!

何んだろう。すっごい楽しい。

楽しすぎてちょっとちびりそうかも。

……。

大丈夫!

観光行く前にトイレ行っとこ。

そんなこんなで、カメラを首から下げて観光出発!

目的地は目星をつけていたからばっちし。

私は歩いて最初の目的地へと向かった。

やっぱり全く知らない道を歩くのってちょっと不安で、すっごく楽しい。

おお!こんなところにこんなモノが、とか。

ん?この道行けば近道なのかな、とか。

色んな発見があった。

そして目的地発見。

お寺さん。

何だこれ!でっかい門がある!

少しだけ紅葉したもみじが彩りを添える。

これを……これを撮ってみる!

そう私は思った。

そう決めた。

レンズカバーを外してファインダーを覗く。

もみじ。

門。

猫。

……猫?

門の前に一匹の黒猫が座っていた。

おっと?これはこれでナイスですな。

雰囲気出てますよ黒猫さん。

黒猫さんはこちらを、じーっと見つめている。

じゃあ、最初の思い出は黒猫さんで。

しっかりピントを合わせる。

大丈夫。これで合ってる筈。

そんな私のゆっくりな行動でも黒猫さんは逃げなかった。

うおー!震えるー!何よこれ!手が、ふーるーえーるー!またしても武者震いが!

私はぐっと手に力を籠め、ぐっと息を止めた。

止まった。今しかない。

人差し指を押し込み、シャッターを切った。

パカンという軽い音。

最初の一枚。

最初の思い出。

この空間。この時間。思い出を切り取った。

私はカメラを下ろす。

撮っちゃったよ。うははは。は。あれ?

視線の先にいたはずの黒猫さんが居なくなっている。

残念。撫で繰り回してやろうと思ったのに。

まぁいっか。



私はこのお寺さんの名所に向う。

水道橋。

明治あたりに造られた古い水道橋が在るらしい。

で、すぐに発見。

おお!これまた綺麗だ!

煉瓦造りの柱が連なり、アーチがぐっと奥行きを演出している。

このアーチがほんと素敵。

これは二枚目いっちゃいますか!いっちゃいましょうか!

うへへへー。

涎が出るのを我慢した。

危ない危ない。

私の口って緩いのか?緩いんですか!

口が緩いって嫌だな。

口元に変えておこう。

さっそく私はファインダーを覗く。

あれ?またまた黒猫さん?

ファインダー越しの煉瓦造りの柱に黒猫さんが寝ていた。

あらあら。黒猫さんたらもう。映りたがり屋、さ、ん。

いいよ、いいよー。

二枚目の思い出も黒猫さんに決定。

あ、でも、この位置からだと紅葉が映らないや。

私は少しだけ場所を移動することにした。

カメラを下ろす。

居ない。

黒猫さんは居なかった。

なかなかな早業ですこと。

逃げちゃったなら、しょうがないか。残念だけど。

私は二三歩移動して再度ファインダーを覗いた。

はい、こんにちは黒猫さん。何で居んの!

瞬間移動?ヤードラット星で修行でもしたの?

私はカメラを下ろした。

あれ?居ない。何でよ!

私はカメラを再度下ろして「はぁ」と溜息を付いた。

多分あれだ。初めての一人旅行だから。間違った、一人旅だった。

とりあえず、疲れてんのかな、私。

一枚撮ってからゆっくりしよう。

ファインダーを覗いた。

だからさ。

「何で居んのよ!」

つい叫んでしまった。

痛い視線を感じるけど無視。

こんな時は無視に限る。

それより。

「貴方は……」

「俺かい?黒猫だろ。どう見ても」

「いや。まあ。そうなんだけど」

「他に質問は?」

「あの……」

あれ?誰と話してんの、私。

ファインダーから映される黒猫はじっとこちらを見据えている。


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