第98話
新選組屯所-
新選組は、伏見に行くことが決まった。
それと同時に屯所内はあわただしくなった。
そんな中、総司だけは床の中にいた。
礼庵が最後の稽古から、毎日のように来てくれていた。
今日も来てくれたが、伏見に行くことは言えなかった。総司自身、別れを言うのが辛かったのである。
総司(明日来られたら言おう…)
そう思っていたが、翌日も、その翌日も結局言えずじまいになってしまった。
……
土方が部屋に現れた。そして、憮然とした表情で座ると、間髪いれずに総司に言った
土方「おまえの姉さんに文をだそうと思っている。江戸へ戻れ。…伏見では九分九厘戦になる…。そんな時にお前のような病人を抱えるわけにはいかないんだよ。」
総司は当然のように首を振った。が、土方も簡単には引き下がるわけにはいかない。
土方「…では、あの女医者のところにでもかくまってもらえ。…伏見のことが済んだら迎えに行くから。」
土方は、近藤には内緒でことを進めようとしていたのだった。「地獄の果てまでついてきてもらおう」という近藤の言葉には同意したが、土方にとっては、「そうはできない…」というような気持ちがどこかにあったのである。
しかし総司は、そんな土方の気持ちを知ってか、にっこりと微笑んで言った。
総司「その手には乗りませんよ。私は、最後までお二人についていくと決めたんです。何を言われてもついていきます。」
土方は唇を噛んで涙を堪えている風を見せたが、やがてそれをごまかすように、立ち上がって背を向けた。
土方「…勝手にしろ!」
土方は怒ったように部屋を出て行った。その足音が聞こえなくなってから、総司はおもむろに咳き込み、その場にくずれた。
総司(…これではいけない…少しでも体力を戻して、迷惑をかけないようにしなければ…)
総司は独り咳き込み続けた。




