第91話
油小路-
伊東の亡骸が寒空の下で放り出されている。
着物や袴は凍り付いてかちかちに固まっていた。
そして、その周囲の民家などに、新選組の隊士達が白い息を吐いて潜んでいる。
伊東は、近藤の妾家で招かれるまま酒を飲み、その帰りに襲われたのである。
中條は、永倉の傍にいた。
近藤の命で、藤堂を逃がす役目を担っていた。
やがて、御陵衛士たちがかごを持って現れた。もちろん藤堂もその中にいる。
その衛士たちの姿を見て、永倉がちっと舌打ちした。
永倉「ばかな奴らだ…鎖でも着込んできて欲しかったな…。」
中條は目を見開いて、永倉の背中越しに衛士たちを見た。
確かに皆、軽装である。
中條「よほど腕に自信があるんでしょうか…」
永倉「……」
永倉は答えない。
しばらくして、襲撃の合図を出した。
永倉に続いて、中條も飛び出した。
……
中條は、藤堂へと向かった。藤堂は死に物狂いで、襲い掛かってくる隊士達を振り切っている。
永倉は途中で邪魔が入り、中條の後ろから走ってきていた。
中條「藤堂先生!!」
中條は、藤堂を攻める隊士達を振り払うようにして、藤堂へと突進した。何も知らない藤堂は中條の刀をつばで受け、鬼のような形相で中條を睨みつけた。
中條「局長から、藤堂先生をお助けするよう申し付かりました。」
中條の押し殺したその言葉に、藤堂は目を見開いた。
中條は藤堂の体を民家の方へ押し付け、誰にも襲わせないようにした。
藤堂「局長が…私を…?」
中條「逃げてください…!…僕が誘導します。」
そのとき、永倉の声がした。
永倉「藤堂!!」
永倉は、中條を振り払って目配せした。中條はうなずいて、藤堂に刀を向けたまま後ろへと回る。
藤堂は、永倉に剣を向けた。
永倉「逃げろ!…早く!」
藤堂は、目を見開いた。
藤堂「…永倉さん…」
中條「藤堂先生!こちらです!」
中條の押し殺した声に藤堂はふと振り返り、躊躇する様子を見せた。
が、すぐに決意した表情を見せて一歩踏み出したとき、突然一人の隊士が藤堂めがけて突進してきた。
藤堂「!!!!」
中條「藤堂先生!!」
藤堂は、背中から刺し貫かれた。
永倉が「ばかやろう!」とその隊士を引き剥がしたが、何も知らぬ隊士達が次々に藤堂の体へ刀をつきたてた。
中條「藤堂先生っ!!」
中條は悲鳴にも似た声を上げながら、永倉と一緒に隊士達を必死に引き剥がした。
傷だらけになった藤堂の体は、溝の中へ逆さに落ちた。
永倉「藤堂っ!!!」
中條はやっとの思いで、藤堂の体を引き上げた。
藤堂の息は、もはやない。
永倉は、その体を抱きしめて泣いた。
中條は放心したように、永倉の横で突っ立っているだけだった。




