第90話
総司の部屋-
総司は、永倉が部屋を出てからずっと目を見開いて、天井を見ていた。
眠れない。どこか神経が立っているようだった。
夕方になって、ふすまの外から声がした。
「…沖田先生…お食事をお持ちしました。」
中條の声だった。何か震えている。
総司「…どうぞ。」
総司はそう答えて、ゆっくりと体を起こした。
そっとふすまが開き、中條がいつものように膳を持って入ってきた。
が、その目は真っ赤に腫れ上がっている。
総司「いつもありがとう…。そして…世話になったね。」
総司が微笑んで中條に言った。中條は腫れた目を見開いて総司を見た。
総司「…これからは賄いさんたちから持ってきてもらいます。…中條君は隊の務めに専念してください。」
中條「嫌です!」
中條の目から涙が零れ落ちた。
中條「僕は…ずっと先生の傍におります!…だめだとおっしゃるのなら、すぐに隊を抜けて賄いになります!」
総司「ばかを言うんじゃない。隊を抜けたら切腹ですよ。」
総司がにこにこと微笑みながら言った。
総司「それに君は、もう隊にはなくてはならない存在になっています…。入隊してきた時は、型も何もめちゃくちゃだったけれど…今はすっかり隊の重鎮です。本当によくがんばりましたね。」
中條は首を振った。
総司「…一時的な感情で、自分を見失ってはなりません。…これからも隊の役に立って欲しい。…私からのお願いです。」
中條はその場に泣き崩れた。
そのときふすまがいきなり開け放たれた。
山野を先頭に一番隊士達が皆その場に座り込んで泣いている。
総司「…!…」
山野「先生!…きっと戻ってきてください…お願いします。」
総司は皆の泣く姿を見て顔をくずしたが、すぐに柔らかい笑顔を見せた。
総司「…ありがとう…。…隊に戻れるように努力します。…でも、それまでちゃんと永倉さんの言うことを聞いて、二番隊に迷惑をかけないようにしてください。…わかりましたね。」
皆、一様にうなずいた。
泣き声はなかなか止まなかった。




