第9話
総司の部屋 夜-
総司、床の中にいるが、寝付けない。
じっと、天井を見つめている。
総司(さすがに…礼庵殿までは騙せなかったな…)
礼庵は診察を終えるなり「血を吐かなかったか」と総司に尋ねた。
礼庵『はっきりと申し上げますが、熱があるだけじゃない…。胸の具合もあまりよくない…』
総司は観念して、正直に答えた。
その後は、医者からもらった薬をちゃんと飲むように、そして、少しの時間でも横になって身体を休めるようにと、何度も念を押された。
総司(あの人にも子ども扱いだな…)
総司は苦笑した。
礼庵に言われたとおりに、あの苦い薬も、礼庵からもらった熱さましの薬も飲んだ。すると、ずっとだるかった体が少し楽になったような気がした。
総司(血を吐いたのは、しばらく薬を飲まなかったためだったのかな…)
やっぱり薬とは利くものなのか。そう思い、総司は再び苦笑した。
そして、礼庵の厳しい顔、土方の鋭い視線、中條の心配そうな目…、背中をさすってくれたさえの「大丈夫どすか?」という可愛い声を思い出した。…そして、江戸で別れたときの姉の顔…。
総司(…皆に迷惑をかけている…。そして…これから一層、迷惑をかけつづけるのだろうな…)
その中に、もう想い人がいないことに安堵感を覚える。
総司(…それだけが、救いか…)
総司、目を閉じて想い人の顔を思い描く。
総司(…お元気だろうか…想い人殿…)
総司、想い人を思ううちに、やがて寝入ってしまう。
総司の安らかな寝息が静寂に広がっている。




