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第88話

総司の部屋 夜-


土方はその総司の笑顔に驚いた。


総司「これ以上、隊に迷惑をおかけしません。一番隊のことも…私のことも…すべて土方さんにお任せします。」


総司がその笑顔のまま言った。


土方「…総司…」


土方はそう絶句したきり、言葉が出なくなった。

そして、突然頭を垂れ、両手をついた。


総司「…土方さん…?」


総司が思わず腰を浮かせた時、土方の両拳に涙がぽたぽたと落ちた。


総司「…!…土方さん…泣いているのですか?」

土方「…ばかやろう…素直に言うことを聞く奴があるか…気が抜けちまったじゃないか。」

総司「…!…」


総司は、微笑んで腰を下ろした。


総司「…だって…たまには土方さんの言うこときかないと、追い出されちゃかなわないもの。」


そう言って笑った。


土方「…ばかやろう…」


土方は拳で涙を拭った。


総司「私を…追い出さないですよね。」

土方「…!…」

総司「…寝たきりになっても…そばにいさせてもらえますよね。」


土方は顔を上げた。

すると今度は総司が頭を垂れていた。


総司「死ぬまで…近藤さんと土方さんの傍にいさせてもらえますよね…。」

土方「……!」


土方はこらえきれずに、総司の頭を抱いた。


……


総司は床に体を横たえていた。じっと目を閉じているが、眠ってはいなかった。

その横には、土方がいる。


土方「…総司…隊を手放すのは一時的なことだ…。またお前の体力が戻ったら、隊は返す。だから早く体を治せよ。」


総司は眼を開いて土方を見た。


総司「…はい。」

土方「近藤さんと俺にどこまでもついていくといった言葉を忘れてくれるな。」

総司「忘れたりしませんよ。」


総司が微笑んでいった。

土方は安心したように笑顔を見せた。

総司は再び眼を閉じ、やがて寝息を立て始めた。

…それを見て、土方はそっと部屋を出て行った。


……


総司は、ふと目を見開いた。寝たふりをしただけだったのだ。


総司(もう…私は、本当に終わりなのだな…)


一番隊のことをすべて土方に任せる…そう決意したとたん体が重くなった。

もう一番隊組長ではなくなった。これからは隊士達に迷惑をかけずにすむというほっとした気持ちと、きっと、もう刀を振るうこともないのだという空しさが総司の心の中で交差した。

これまで総司の具合が悪い時は、永倉に隊をみてもらうことが多かった。…たぶん一番隊は永倉の二番隊に吸収されるだろう。

一番隊士達には、このところずっと心配をかけっぱなしだった。こんな頼りない長によくついてきてくれたと思う。


総司(皆に別れが言えるだろうか…。せめて礼を言いたいな。)


総司は目を閉じ、一番隊士達の一人一人の顔を思い出していた。

その目からすっと涙が零れ落ちた。

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