第87話
総司の部屋-
伊東達が新選組と袂をわかってから、半年以上が過ぎた。
その半年の間に、土方は江戸へ隊士を集めに奔走し、斎藤も名前を変えて帰ってきていた。
そして最近、坂本龍馬が暗殺されたという情報が入ってきた。
それも、下手人は十番隊組長の原田だという噂が流れた。伊東が、坂本龍馬が殺された場所に残されていた差料を見て「原田のものである」と認めたためらしい。
もちろん、身に覚えのない原田は激怒し「伊東を斬る」と言って暴れたそうだがなんとか押さえたようだ。
しかし、伊東はどうしてそんな証言をしたのか…。そして坂本龍馬を殺した真犯人は誰か…。
総司はこのところずっと、巡察から帰ればすぐに体を横にせずにはいられないほどの疲れを感じるようになった。
今日も、体を横たえている。
そして、ただぼんやりと天井を見つめながら考えをめぐらしていた。
総司「伊東さんたちとの戦が近づいているのかな…」
しかし、その戦に自分の体が耐えられるか、総司には自信がなかった。
「総司…入っていいか?」
土方の声がした。
総司は、あわてて体を起こして返事をした。
ふすまが開いた。
土方「休んでいたのか…」
入るなり、土方が言った。
総司は「ええ」と微笑んで答えた。
土方は厳しい表情で、総司の前に座った。
総司「なんの御用です?…何か隊でありましたか?」
土方「いや…まぁ、いつもと変わらん」
土方は、何か無愛想にそう言った。
総司「どうしました。怖い顔を一層怖くして。」
総司がそう言って笑ったが、土方はそれにつられない。
何か二人の間に、重苦しい空気が漂っていた。
総司「…土方さん…?」
土方は、ただ黙っている。
土方と総司は、しばらく黙ったまま向き合っていた。
が、やがて土方が重い口を開いた。
土方「…総司…このところ…お前の体の具合がどんどん悪くなっているように思うが…どうだ?」
総司は、どきりとした。もう隠すこともできない程に憔悴していることは自分でもわかっていたが…。
総司「…仰るとおりです。」
総司はいつものように「大丈夫ですよ。」と笑えなかった。またそんな自分が哀しくもあった。
土方「その様子じゃ、お前に隊を守ってもらうわけにもいかん。」
総司「……」
土方「伊東達は戦をはじめる気でいる。そして…近藤さんを暗殺するつもりだという情報も入っている。今、そのことで近藤さんと策を練っているところだ…本当ならば、おまえの力が必要だが…今のおまえの様子を見ると…。」
総司「それ以上は言われずともわかっています。」
総司はそう言って、まるで童子のような笑顔を土方に向けた。




