第85話
総司の部屋-
藤堂は、総司の前で何か緊張した面持ちで座っている。
総司「…二人でお話するのは、久しぶりですね。」
藤堂「ええ…。沖田さんの体のこと…とても心配だったんだすけど…」
総司「ありがとう。」
二人は少し微笑みあって、しばらく沈黙した。
総司がその沈黙を破った。
総司「永倉さんから、お聞きしました。…新選組を出られるそうですね。」
藤堂「!…はい…。」
藤堂はふと「そうか…永倉さんが…」と呟いた。
総司「永倉さんは藤堂さんが出て行かれるのを、とても残念がっていました。もちろん…私もです。試衛館から一緒だった藤堂さんがいなくなるわけですから…。」
藤堂「…もう、あの頃とは違います。」
藤堂は、少し苦々しげに呟いた。
総司「…そうかもしれませんね…」
藤堂「それに…斎藤さんも一緒なんです。」
総司「!…斎藤さんも!?」
総司は驚いた。斎藤はどちらの派でもないような、飄々とした感じだったように思っていたのだが…。まさか伊東についていくとは考えもしなかった。
総司「そうですか…。…ますます、寂しくなりますね…」
総司の沈んだ表情を見て、藤堂は何か申し訳なさげに黙り込んだ。
総司「もう…藤堂さんの気持ちは固まっているでしょうから、私などが今更引きとめてもどうしようもないでしょうが…。ただ…藤堂さんと刀を合わせることだけは避けたいと思っています。」
藤堂「……」
総司「…どうぞ、お元気で。」
藤堂「沖田さんも…。」
総司はにっこりと笑ってうなずいた。しばらく二人は沈黙した。
藤堂「…じゃぁ…これで…」
藤堂が立ち上がった。総司は何か言ってひきとめたいが、言葉が見つからない。
藤堂「…沖田さん…」
藤堂はふすまを開いたまま、総司に振り返った。
総司「…はい…」
藤堂「…万が一、刀を合わせることになったら…お互い情けは無用ですよ。」
総司「…!…」
総司はしばらく黙っていたが、やがてこくりとうなずいた。
藤堂「…では…どうぞお体に気をつけて。」
藤堂は部屋を出て行った。
総司はしばらく、じっと膝で結んだ拳を見つめて動かなかった。




