第84話
新選組屯所-
結局、それから二人は屯所へ戻った。
永倉は「つきあってくれてありがとう。」と言って、部屋へ戻っていった。
永倉はただ、総司に藤堂のことを伝えたかったのだろう。
最近、総司は部屋に閉じこもることが多いので、正直隊の動きに疎くなっていた。
土方たちも、総司の体のことを思ってか、前のように総司を部屋に呼び出すこともなくなっている。
もしかすると、先日、寝ているときに土方が来たのは、そのことを伝えようとしていたのか…
総司(藤堂さんが…)
総司は衝撃を受けていた。
部屋へ戻っても、しばらく座り込んだままぼんやりとしていた。
……
池田屋事変の時、藤堂は眉間に傷を負い、総司は喀血して倒れた。
二人とも斬りあいの途中で外へ出されてしまったが、総司が目を覚ました時はもう池田屋の中は落ち着いていたように思う。その時横にいた藤堂が話し掛けてきた。血だらけの手ぬぐいで額を押さえていた。
藤堂「大丈夫ですか?沖田さん。」
総司がどうしたのかと聞くと、藤堂は苦笑いをしながら、手ぬぐいをはずして傷を指差して見せた。
藤堂「こんなとこ斬られるなんて、まぬけでしょう…」
そう言って苦笑した。痛いだろうに、そんな風に見せないのが、何か藤堂らしかった。
……
総司はその場に寝転んで、試衛館の頃のことを思い出していた。近藤、土方、山南、井上、永倉、原田、斎藤、藤堂…そして、総司。…江戸を出るときは、皆同じ思いでいたはずである。
それが、伊東の入隊、山南の切腹で藤堂だけが離れていった。
しかしその頃から皆の気持ちが少し離れはじめたようにも感じていた。
総司(皆…いつか、ばらばらになってしまうのだろうか…)
総司は何か悪い予感を感じた。取り越し苦労であってほしい…と思ったとき、ふすまの外でことりと音がした。
総司(…中條君かな?…)
総司はそう思い、起き上がった。
「…沖田さん、いらっしゃいますか?」
総司「…!…」
藤堂の声だった。




