第80話
総司の部屋-
中條は総司の床の用意をしていた。
その横で、総司は粉薬を口に含むと、中條が持ってきてくれた湯飲みの中の水を飲み干した。
総司の顔がゆがんだ。
総司「…薬の味って、何度飲んでも慣れないね。」
その総司の呟きに、中條はなんと答えていいのかわからず、ただ黙々と床の準備をしていた。
総司「…会いたいな…」
中條「…え?…」
中條はぎくりとして動きを止め、総司を見た。総司は文机にひじをついて、空を見上げている。
総司「八木さんや…壬生寺の子ども達…しばらく会っていないから…」
中條「…そう…ですね…」
総司「でも…子ども達の相手はもうできないかなぁ…」
中條「大丈夫ですよ!」
総司は驚いた表情で、中條を見た。
中條「きっと今だけです。また具合がよくなられます。…今までだってそうだったんですから。」
中條は無理に明るい声を出して言った。総司が微笑んだ。
総司「そうだね…。今までのように…また元気になれるかな。」
中條は、うなずいた。
中條「少しでも早く元気になられるためにも、とにかく体を休めて、お食事をとるようにしてください。…僕、もっと料理を勉強して、おいしいものを作りますから…!」
総司「…ありがとう…頼みます。」
中條「…さぁ…どうぞ横になってください。お食事まで、まだ時間もあります。」
総司「巡察は夜からでしたね。」
中條は一瞬言葉につまったが「はい」と答えた。
総司「じゃぁ、ゆっくり休むとしよう。…ありがとう、中條君。」
中條は深々と頭を下げると、総司の部屋を出た。
何かやるせないような思いが、中條の胸をしめつけていた。




