第79話
新選組道場-
総司は咳がおさまってからも、しばらくその場にしゃがみこんだままでいた。
咳き込むことに体力が奪われてしまっている。もはや、竹刀を握る気力すらなかった。
何故か突然、姉みつの顔を思い出した。
江戸から出てくるときの、不安そうな姉の顔。
総司(…姉さん…もう…姉さんに顔を合わせられないよ…)
今、脳裏にうつる姉の顔は何か怒っていた。
『あなたはいったい京で何をしてきたのです』
そう言っているかのようだった。
総司(…近藤先生や土方さんのお役に立とうと思ったけれど…結局迷惑をかけてしまいました。…ごめんなさい…姉さん…。)
総司は、思わず謝っていた。
総司(…好いた人すら幸せにしてやれなかった。…たくさん人を斬ったから、ばちがあたったのかな…。)
「先生!!」
その声に、総司は我に返った。中條が血相を変えて駆け寄ってきていた。
中條「先生!大丈夫ですか!?」
総司「ええ…。ちょっと咳が出てしまって…。」
中條「だめじゃないですかっ!少しでも体を休めるようにと、礼庵先生にも言われてたじゃないですか!…さぁ、お部屋へ戻りましょう。立てますか?」
総司「…ん…」
総司はゆっくりと立ち上がり、何もなかったかのように歩いてみせた。…しかし、視界がかなり狭くなっている。
中條は黙って、総司の後ろをついて歩いていた。中條には総司が必死に平静を装っているのがわかっている。しかし、体を支えようとはしなかった。総司が嫌がることをわかっているからである。
総司「…今度の稽古までに、体力を戻しておかないといけませんね。」
中條「……」
中條は、総司に稽古に出て欲しくなかった。そんなことよりも、ゆっくり体を休めて欲しい。…しかし、言えなかった。総司の性格を知る限り、そうはしないだろうことをわかっていたからである。
総司「…でも、邪魔になるかな…今のようなことになったら…」
中條「邪魔になるなんてことは…!…決して…」
中條は言葉に詰まった。…本当は「そうです」と言ってしまった方が総司のためなのではないかと思ったのである。
しかし、中條に言えるはずがなかった。
二人は総司の部屋の前についた。
総司「中條君、薬を飲みたいから、水を持ってきてくれるかい?」
中條「はい…!」
総司「すまないね…」
総司は中條に微笑を残すと、部屋に入っていった。
中條は何故かすぐには動けなかった。




