表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/101

第75話

翌日-


十番隊の槍の稽古中に、中條が防具をつけて現れた。


原田「おお!中條か!」


稽古を見ていた原田が、うれしそうに中條に駆け寄った。


原田「もしかして、十番隊に入る決心をしてくれたのかい?」

中條「違います!」


中條がにこにこと笑いながら、身を引いた。


中條「沖田先生に言われたんです。槍もやってみろって。」

原田「総司が?」

中條「両方使える人間がいたら、一番隊の戦力があがるからと…」

原田「ちっ…都合のいい奴だなぁ…」


原田はそう言って、大声で笑った。


原田「でも、嬉しいよ。俺が教えてやる。びしびし鍛えてやるから、覚悟しろよ。」

中條「はい!よろしくお願いします!」


原田は、中條のすがすがしい表情に、ふと眉を寄せた。


原田(可哀想なやつだ…。こいつはもう、女を好きになることはないだろうな…)


その原田の表情に、中條は慌てるように自分の体を見た。


中條「…何か、変ですか?」

原田「いや、そうじゃない。」


原田はそう言いながら笑って、少し中條から離れて言った。


原田「中條…槍を体の横に立てて、足を開いて立って見ろ」

中條「は?」


中條は、原田に言われるままやってみた。


中條「…こう…ですか?」


原田が、中條を指差して笑った。


原田「武蔵坊弁慶って、こんな風だったんだろうなぁ!」

中條「???弁慶は槍じゃなくて、長刀なぎなたじゃなかったですか?」

原田「いいんだよ、そんな細かいことは!」


原田は、くすくすと笑いながら言った。


原田「それより、おめえよ…壬生狂言の弁慶役で、面なしで出られるぞ!」

中條「原田先生!真面目にやってくださいっ!!」


二人のやりとりに、十番隊の全員が笑った。


……


槍の稽古の後、中條は明日香と会うはずだった川辺に来た。

目を閉じ、明日香の笑顔を思い浮かべた。


『身は離れても、心は中條様にずっと寄り添うております。』


手紙の最後にあったその文字には、涙が落ちたようなにじみがあった。


中條(明日香さん、お幸せに。)


中條はそう思うと、袂に入れていた小さな木箱を取り出し開いた。そして、少し顔を近づけた。


中條(明日香さんに似合う香り…)


木箱の中には「香り袋」が入っていた。明日香につけてもらうつもりだった。…だが、つけてもらうことはもうない。中條は木箱をそっと閉じた。


中條「初めてで…最後の恋を、ありがとうございました…」


中條はそう呟くと、木箱を川に放り投げた。

…木箱は、一旦沈んだが、やがて浮かび上がり、そのまま流れていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ