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第74話

中條は、しばらくためらった後、原田を見て言った。


中條「…あの人は、大店おおだなのお嬢様で…縁談の話があったとかで…」


原田は、全て悟ったように目を伏せた。


中條「…親同士で、まとめられてしまったのだそうです。…僕と会う、約束の前日に…。」


原田は、頭を掻きながら言った。


原田「そりゃ、仕方がねぇな。相手が商人だと言ったって、うちみたいな「出来合いの武士」が太刀打ちできる話じゃねぇや。」


中條は、その正直な言葉に驚いて原田を見た。


原田「ま、務めに精を出してたら、そのうち、もっといい女に会えるさ。」


中條の目が、戸惑った様子を見せた。


原田「務めと言えばよ、総司におめえを十番隊に回せって言った事があったんだけど、断られたんだよ。おめえを手離したくないってよ。」


中條は、その原田の言葉に目を見開いた。


原田「あいつでさえ、おめえと生身でやりあうのは恐いそうだ。やっと型が整ってきたところに、取られちゃたまらないってさ。」

中條「沖田先生が、そんなことを?」

原田「ああ。」


中條は、少し表情を緩めた。原田は中條の肩に手を乗せて言った。


原田「まぁ、これからもいろいろあるだろうが、総司の期待を裏切らないように頑張るこった。」


中條は「はい!」と笑顔で答えた。原田は、中條の肩に手を乗せたまま、真顔になって言った。


原田「…なぁ、十番隊へ来ねえか?」


中條は、目を見開いて原田を見た。


原田「総司には断られたけどよ…。おめえはでかい分、細かく動けねぇ。だから、刀より槍の方が合っていると思うんだ。」


原田は槍の名手であった。そんな原田の誘いにも関わらず、中條は少し考える風を見せた。


原田「どうだい?」


原田が、中條の顔を覗き込んだ。

中條は迷いのない目で、原田を真っ直ぐ見返した。


中條「僕は、沖田先生にもっと教えてもらいたいことがあります。刀もろくにつかえないのに、槍を使いこなせるとは思いません。」


その中條の返事に、原田は頭を掻いた。


原田「俺まで振られるとはな。」


中條はあわてて「そんなつもりは…」と口篭もった。


原田「いいさ。今の話、忘れてくれよな。じゃ。」


原田は悪びれた様子もなく、立ち去って行った。中條はその原田の背中に頭を下げた。

中條は、十番隊組長の原田に誘われたことも嬉しかったが、何よりも沖田が自分を手離したくないと言ってくれた事が嬉しかった。


『あいつでさえ、おめえと生身でやりあうのは恐いそうだ。』


中條はその原田の言葉を思い出してふと頬を緩めた。が、やがてはっと真顔に戻すと、あわてて薪を集め始めた。


…そして、その後姿を総司が見ていた。もちろん、原田との会話も聞いている。

総司は哀しそうに目を伏せ、その場を立ち去った。

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