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第68話

屯所の台所-


賄いの少女が、米を炊く準備をしている。しかし手が荒れていて、なかなか米をとげないでいる。他には誰も人がいない。

そこへ、中條が外へ出る前に水を飲もうと現れる。「あの…」と声をかけるが、少女の様子に気づく。


中條「?…どうしたのですか?」


少女、驚いて中條に振り返る。


少女「あ、中條はん…。」


中條、少女の前にある桶を覗き込む。


中條「お米をとぐんですか?あ…」


中條、少女の手に気づく。


中條「可哀想に…ひどい手だなぁ…」


少女、はっとして手を隠す。


中條「僕がやってあげましょう。どれ…」


中條、そう言って手洗い場に行く。少女が驚く。


少女「中條はん、いいんです。うちが怒られますよって…」


中條「大丈夫ですよ。その時は、僕がちゃんと言いますから…。さ、そこにでも座っててください。」

少女「…でも…」

中條「僕得意なんですよ。ご飯を研ぐのは。…よいしょっと。」


中條、桶の前に座り込み、米をとぎはじめる。少女は顔を赤くして、中條に言われるまま、後ろで座ってみている。


中條「今度、礼庵先生に、その手の薬もらってきてあげましょう。それじゃ、仕事にならないでしょう。…僕も経験あるからわかるんですよ。手荒れ…」

少女「…中條はんて…おもしろい人どすなぁ」

中條「え?」

少女「なんでも、できはるんどすなぁ。新選組のお務めも…こういうことも」


中條、米を研ぎながら苦笑する。


中條「そんなことないですよ。務めの方だって、得意じゃない。本当は、ここの下働きにでも雇ってもらった方が良かったなんて思っているんです。」

少女「そんな、中條はんが下働きやなんて…」

中條「僕、新選組に入る前は、宿屋で下働きしてたんです。…そうだなぁ、江戸から出てきてすぐだから…3・4年くらいか。」


少女、驚いている。


少女「…そうどすか。」


2人はしばらく無言になるが、少女が突然口を開く。


少女「中條はん…好きな人いはりますか?」

中條「え?」


中條、一瞬手を止めるが、すぐに動かす。


中條「ええ、いますよ。」

少女「両思いどすか?」

中條「…それは自信がないな。でも会う約束はしているんです。」

少女「そうどすか。会う約束をしてはるだけどすか。」


少女、少しうれしそうにしている。


中條「そうだ。」


中條、急に少女に振り返る。


中條「あなたは、何か贈り物をもらえるとしたら何がいいですか?」

少女「え?」


少女、真っ赤になる。


少女「中條はんがくださるものでしたら、なんでも…」

中條「は?」


少女、照れくさそうに袂をもてあそんでいる。が、中條は「ああ」と言って、再び米を研ぎだす。


中條「あの人がそう言ってくださるかもしれない、ということですか。」

少女「え?」


少女はそんなつもりではない。


中條「そうかなぁ。そんなこと言ってくださるだろうか、あの人が。」


中條、米をとぎ終える。


中條「さて、これでよしと。後はできます?」


中條がそう言って振り返った。少女がうなずいたのを見て手洗い場へ行き、そのまま水を口に含むと、外へ出て行った。

少女は、じっと中條の出て行った後を見ている。

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