表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/101

第66話

京の町中-


中條は、緊張した面持ちで、茶店に座っていた。

お茶の入った茶碗を手に持ってはいるが、何かを考え込むようにして動かない。

…横には、この日たまたま出会った明日香がお茶を飲んでいる。

中條は、これまで暖めていた思いを、明日香に告げようとしているのだが、それがなかなかできずにいるのである。


明日香「お久しぶりですね。」

中條「はっはぁ…」

明日香「嬉しかった…。今日は中條さんから声をかけてくださったんですもの…」


中條は真っ赤になって、茶碗をもてあそんでいる。中にはぬるくなったお茶が揺らいでいた。


明日香「巡察で歩かれているお姿は、よく見るんですけど、声をかけるわけにもいきませんし…。でも、お姿を見るたびに、お元気そうでよかった…ってほっとしますのよ。」

中條「…はぁ…」


中條は嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になっていた。

そして、ひとつ決心を決めると、ぐっとお茶を飲み干して、大きく一つ息をついた。


中條「あ、あの…明日香さん…!」

明日香「?…はい?」


明日香は不思議そうに、中條を見た。


中條「あの…僕…明後日は非番なんです。」

明日香「ひばん?…ひばんってなんですの?」

中條「え?」


中條は一気に気の抜けたようになった。


中條「あ…そ、その…休みなんです…」

明日香「まぁ!」


明日香の頬に赤みがさした。その言葉で、何かを悟ったのだろう。…が、照れくさそうに「そうですの」と言ってうつむいた。


中條「あの…明後日…の…明日香さんのご都合は…」

明日香「…別に…何もありませんわ。」


中條は心臓が高まるのを感じた。そして、再び大きく息をつくと、明日香に向いて言った。


中條「…よかったら…ご一緒にどこかへ行きませんか?」


中條の言葉がおかしいことも気づかず、明日香は胸の前で両手を組んで、嬉しそうにうなずいた。


明日香「…はい…!」


中條は真っ赤になって、下を向いた。明日香もその中條の様子に、同じようにうつむいてしまった。


…実はその様子を、遠くから総司と山野が見ていた。

元々は、三人で歩いている時に、明日香に出会ったのだった。遠くに明日香が歩いている姿を中條が見つけたのだが、何も言わずに通り過ぎようとしたところで、山野が中條の異変に気づき、明日香の存在に気づいた。総司と山野は声をかけてくるように言ったのだが、中條は「今でなくてもいいですから」と逃げようとした。しかし、そんな中條に総司が言った。


総司「会える時に会っておかないと…後悔することになるよ。」


中條はその総司の言葉で、決心を固めたのだった。


山野「…うまくいったようですね。」


山野が、赤くなっている2人の姿を微笑ましく見ながら総司に言った。総司は、微笑んでうなずいた。


総司「…私たちは、先に帰りましょう。」


総司はそう言って、屯所に向かって歩き出した。山野もうなずいて、ちらと中條の方を見てから、総司に続いた。


総司(これで、中條君がもっと笑顔を見せてくれるようになるといいけれど…)


総司は、心からそう願っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ