第66話
京の町中-
中條は、緊張した面持ちで、茶店に座っていた。
お茶の入った茶碗を手に持ってはいるが、何かを考え込むようにして動かない。
…横には、この日たまたま出会った明日香がお茶を飲んでいる。
中條は、これまで暖めていた思いを、明日香に告げようとしているのだが、それがなかなかできずにいるのである。
明日香「お久しぶりですね。」
中條「はっはぁ…」
明日香「嬉しかった…。今日は中條さんから声をかけてくださったんですもの…」
中條は真っ赤になって、茶碗をもてあそんでいる。中にはぬるくなったお茶が揺らいでいた。
明日香「巡察で歩かれているお姿は、よく見るんですけど、声をかけるわけにもいきませんし…。でも、お姿を見るたびに、お元気そうでよかった…ってほっとしますのよ。」
中條「…はぁ…」
中條は嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になっていた。
そして、ひとつ決心を決めると、ぐっとお茶を飲み干して、大きく一つ息をついた。
中條「あ、あの…明日香さん…!」
明日香「?…はい?」
明日香は不思議そうに、中條を見た。
中條「あの…僕…明後日は非番なんです。」
明日香「ひばん?…ひばんってなんですの?」
中條「え?」
中條は一気に気の抜けたようになった。
中條「あ…そ、その…休みなんです…」
明日香「まぁ!」
明日香の頬に赤みがさした。その言葉で、何かを悟ったのだろう。…が、照れくさそうに「そうですの」と言ってうつむいた。
中條「あの…明後日…の…明日香さんのご都合は…」
明日香「…別に…何もありませんわ。」
中條は心臓が高まるのを感じた。そして、再び大きく息をつくと、明日香に向いて言った。
中條「…よかったら…ご一緒にどこかへ行きませんか?」
中條の言葉がおかしいことも気づかず、明日香は胸の前で両手を組んで、嬉しそうにうなずいた。
明日香「…はい…!」
中條は真っ赤になって、下を向いた。明日香もその中條の様子に、同じようにうつむいてしまった。
…実はその様子を、遠くから総司と山野が見ていた。
元々は、三人で歩いている時に、明日香に出会ったのだった。遠くに明日香が歩いている姿を中條が見つけたのだが、何も言わずに通り過ぎようとしたところで、山野が中條の異変に気づき、明日香の存在に気づいた。総司と山野は声をかけてくるように言ったのだが、中條は「今でなくてもいいですから」と逃げようとした。しかし、そんな中條に総司が言った。
総司「会える時に会っておかないと…後悔することになるよ。」
中條はその総司の言葉で、決心を固めたのだった。
山野「…うまくいったようですね。」
山野が、赤くなっている2人の姿を微笑ましく見ながら総司に言った。総司は、微笑んでうなずいた。
総司「…私たちは、先に帰りましょう。」
総司はそう言って、屯所に向かって歩き出した。山野もうなずいて、ちらと中條の方を見てから、総司に続いた。
総司(これで、中條君がもっと笑顔を見せてくれるようになるといいけれど…)
総司は、心からそう願っていた。




