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第59話

京の町中 路地奥-


美輝は総司にすがりつくようにして尋ねた。


美輝「…礼庵先生が…うちを身請けするって…そんなことを言わはったんどすか…?」


美輝の目は真剣である。総司は、あわてて言った。


総司「いや…それができたらいいな…というだけの話だったんです。…でも、できないとおっしゃっていて…その…」


美輝の真剣さに総司は、自分の軽口を反省した。遊女にとっては、身請けとは一大事であり、それを毎日夢に見る者もいるという。


美輝「そうどすか…そうどすやろなぁ…」


美輝はほっとしたような、がっかりしたような複雑な表情をして見せた。


美輝「でも…それでも嬉しおす…。…そんな風に言ってもらえるだけでも…。」

総司「美輝殿すまない…。」


総司は狼狽して、美輝の肩に手を乗せた。美輝は首を振ったが、目には涙が浮かんでいる。


美輝「実は、礼庵先生がうちんとこへ来はったとき…先生は、うちのぐちを朝まで聞いてくれはったんどす…。…こんな話…お客はんには聞かせたらあかんのどすけど…つい先生の優しさに甘えてしもて…。」

総司「……」


総司にもその気持ちはわかる。この人には、どんなことでも話せる…礼庵にはそんな気持ちにさせる何かがあるのである。また美輝は、礼庵が女性であることを知っているのだろう…と総司は悟っていた。

美輝は潤んだ目で総司をしっかりと見つめていった。


美輝「今度、礼庵先生に会うことがありましたら伝えておくれやす。「うちはいつでも、先生の元へ行く用意はできてます」て。」


総司は驚いた。


総司「…え!?」


美輝はその総司の顔を見て、思わず吹き出した。


美輝「いややわぁ!沖田はん、真剣に受け取らんといておくれやす!…冗談ですさかいに。」

総司「…冗談…ですか…」

美輝「でも嬉しかったのは、ほんまどす。遊女冥利につきますわぁ。」

総司「…はぁ…」

美輝「今度礼庵先生来はったら、先生が逃げたくなるほど、もてなしさせてもらいますって、そう伝えておくれやす。こっちが本気どす。」


美輝はそう言って笑った。

総司も笑ったが、複雑な心境であった。


総司(礼庵殿をもてなし…って…どういうことをするんだろう…)


そんなことを考えてしまったのである。


美輝は、はっとして「はよ帰らんと怒られる」と言い、丁寧に総司に頭を下げた。


美輝「ほな。沖田はん、おおきに。」

総司「?…美輝殿…私に何か用があったのでは?」

美輝「え?…別にあらしまへんで。お顔見たから声かけただけどす。」

総司「…そ、そうですか。」

美輝「沖田はんにも、たっぷりもてなしさせていただきますさかい、いつかきっと来ておくれやすな。」

総司「はぁ」

美輝「いやー困った顔してはるわ。かいらしお人やわぁ。」


美輝はそう言って心地よい笑い声を残し、手を振りながら走り去っていった。

総司は手を振り返して、美輝の後姿を見送った。


総司「…私は…からかわれただけか…」


総司はそう言って苦笑した。…が、美輝が「身請け」と聞いたときに見せたあの真剣な表情は、総司の心に刻み込まれている。


総司「…遊女の仕事が性に合う人などいない…か。」


そう、ぽつりと呟いた。

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